松浦 美桜香
MATSUURA Mioka
MATSUURA Mioka
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公益財団法人現代芸術振興財団はこの度、学生対象 アートコンペ「CAF賞2025入選作品展」を12月9日(火)~12月14日(日)に、東京・代官山のヒルサイドフォーラムにて開催いたしました。
12回目の開催となる今年は、木村 絵理子氏(弘前れんが倉庫美術館館長)、野路 千晶氏(Tokyo Art Beat エグゼクティブ・エディター)、桝田 倫広氏(東京国立近代美術館主任研究員)の3氏が審査員を務め、絵画、彫刻、映像、パフォーマンス、インスタレーションなど入選した12作品を展示いたしました。
「CAF賞」は、学生の創作活動の支援と日本の現代芸術の振興を目的に開催し、日本全国の高校・大学・大学院・専門学校の学生、および日本国籍を有し海外の教育機関に在籍する学生の作品を対象としたアートアワードです。最優秀賞に選ばれた受賞者には賞金100万円のほか、副賞として個展開催の機会を提供します。
弘前れんが倉庫美術館館長
キュレーター。多摩美術大学・金沢美術工芸大学客員教授、美術評論家連盟会員。元横浜美術館主任学芸員。2005- 23年まで横浜トリエンナーレのキュレトリアル・チームに携わり、2020年の第7回展では企画統括。主な展覧会企画に、「昭和の肖像:写真でたどる『昭和』の人と歴史」展(2017-2019年、横浜美術館の後、アーツ前橋とナショナル・ギャラリー・オブ・カナダへ巡回)、「BODY/PLAY/POLITICS」展(2016年、横浜美術館)、 「奈良美智:君や僕にちょっと似ている」展(2012-13年、横浜美術館、青森県立美術館、熊本市現代美術館) など。
Tokyo Art Beat エグゼクティブ・エディター
1984年広島県生まれ。NTTインターコミュニケーション・センター[ICC]、フリーランスのアートコーディネーター、ライター、ウェブ版「美術手帖」を経て、2019年末より現職。取材や記事の執筆、レクチャーなどを行う。
東京国立近代美術館 主任研究員
1982年東京都生まれ。担当した主な展覧会に「ゲルハルト・リヒター展」(2022)、「ピーター・ドイグ展」(2020)、「アジアにめざめたら:アートが変わる、世界が変わる1960–1990年代」(共同キュレーション、東京国立近代美術館、韓国国立現代美術館、ナショナル・ギャラリー・シンガポール、2018–2019)、「No Museum, No Life?―これからの美術館事典国立美術館コレクションによる展覧会」(共同キュレーション、2015)など。

キャンバスに油彩
今回の最優秀賞の選考にあたっては、審査員一同、最後まで判断に悩みました。最終的には、「副賞である個展を見てみたい」と強く思わせてくれた作家にこの賞を贈りたい、という考えに至り、その思いをもって最優秀賞を決定しました。松浦さんは、ご自身で制作した人形をモチーフに絵画作品を制作されています。さまざまなメディアや素材を用いながら、具象から抽象へと徐々に移り変わっていく画面構成が印象的です。何度見返してもなお見切れない余白のような要素を内包したカオティックな筆致には、単に「見る」だけでなく、触覚や身体感覚を伴って迫ってくるような魅力と、執念にも似た強度が感じられます。また、自作の人形を描くという制作背景からすれば、実物の人形もあわせて展示したくなるところですが、今回はあえてそれを行わず、引き算の展示としていた点も、結果的に作品の強さを際立たせていたように思います。より広い空間を用いた個展であれば、人形とペインティングを分けて配置するなど、空間を活かした多様な展開も十分に考えられるかもしれません。審査会ではそうした将来の可能性についての議論も自然と広がり、総合的に判断した結果、最優秀賞は松浦美桜香さんに決定いたしました。(野路)

映像インスタレーション
今年度の出品作品はとりわけバリエーション豊かで、それぞれに高いクオリティを備えていて、難しい審査でした。優秀賞を誰にするべきか、さまざまな可能性を検討する中で、平岡さんの作品が優秀賞に選ばれました。平岡さんの作品は、インスタレーションを空間の中でどのように成立させるかを粘り強く考え、さまざまな試行錯誤を重ねたものだったと思います。作品審査の時点では、実家と隣家との境界に実在する低いブロック塀を模した展示でしたが、今回はそれを互いに見渡せない高さと奥行きに拡張し、より立体的で物質性の強い形へと展開していました。家紋入りの座布団やエプロン、パフォーマンスを記録した映像、母親同士の会話を創造的に展開したテキストなど、複雑な要素が組み合わされています。直接その生活を窺い知ることはできなくとも、常にその存在を感じながら生活している「隣人」というモチーフは、都市や国家、民族や文化圏といったレベルにも拡張可能な普遍性を持つテーマだと感じました。一方で、今回の展示ではDMZについても言及していましたが、そこはやや論点がぼやけてしまう印象を受けました。作品の本質か何であるのかを見極めることで過剰な要素は削ぎ落とし、より強度のある表現へと深化していくことを期待しています。(木村)

映像、衣装、ウィッグ、写真
Moche Le Cendrillonは、ドイツ留学中、日本人女性がアニメや風俗的なイメージによって一面的、かつ差別的に捉えられていることに強い衝撃を受けた経験を起点に、こうしたステレオタイプ化した女性像の背景に戦後のアメリカ文化からの影響があることを知り、クイアやフェミニズムに関するリサーチを織り込みつつ、ドラァグ・パフォーマンスのような作品として発表しています。当初パフォーマンスとして成立した作品であることから、展示にあたっての試行錯誤も見られましたが、自身のアイデンティティと、他者からの視線について問い続ける姿勢は、表現者としての強い覚悟が感じられました。パフォーマンスのベースにあるのは、アメリカン・バーレスクのように、コミカルなショーとして演じられるストリップティーズで、これらは1990年代以降、批評性のある自己表現の手段としての再評価が進むものでもあります。戦後にアメリカから日本に伝わった風俗や文化など、自らの背景や歴史を引き受けようとするMoche Le Cendrillonの制作態度は、これからより深い理論的・歴史的なリサーチを続けていくことで、説得力が高まることでしょう。こうした表現は、世界の地域や文化圏によっては受け止められ方が異なる繊細さもありますので、発表する場に応じて作品がどのように受け取られるかを意識しながら、今後も表現を深化させていくことを期待しています。(木村)

パステル、油性鉛筆、クレヨン、スプレー、 アクリル、油彩、キャンバス、木製パネル
作品審査の段階から、審査員の間では「なぜヨーヨーなのか」「ヨーヨーとは何を象徴しているのか」といった議論が交わされていました。しかし実際に作品を拝見すると、そうした問いを超えて、これほどまでに明るく、開かれた表現であることに、素直な喜びを覚えました。ヨーヨーを「友達」ととらえ、遊びの経験をそのままアートとして表現している点も、非常にポジティブで印象的です。
今回あらためて、私自身がなぜアートに惹かれるようになったのかを振り返ると、10代の頃の鬱屈とした感情に寄り添い、違う世界へと誘ってくれるような存在だったからでした。そしていまだに、育児に追われる日々のなかで自分の輪郭が曖昧になり、再びアイデンティティの揺らぎを感じるようなことがあります。若尾さんの作品は、そうした閉ざされた感覚に対して軽やかな突破口を開いてくれるもので、「こういう感覚でアートが好きだったのだ」と思い出させてくれました。そしてこの作品が、私と同じように、誰かを救ってくれる可能性を持っているとも感じました。以上の理由から、審査員個人として強く心に残った本作を、個人賞として選出いたしました。(野路)

映像、音声、土、FRP、コンクリート
渋井さんの作品は、自己探究をテーマに、思考と身体の関係を掘り下げた映像と彫刻によって構成されています。内省のプロセスと身体的な感覚が重ね合わされた作品であり、二次審査の際に実際に作品を拝見して、一次選考の際に提出されたポートフォリオに書かれている内容そのものの作品だと感じました。率直に申し上げると、ポートフォリオを拝見した段階から、「卒業制作らしさ」を強く感じたのも事実です。ただしそれは否定的な意味ではなく、自分の内面を掘り下げようとする姿勢が非常に素直で、率直であるという点において、むしろとても魅力的だと思いました。ただ、それは愚直ということではなく、しっかりと考え抜かれたうえでの素直さの表出だと思います。それは例えば、彫刻の台座にご自身のアトリエの床をそのまま用いている点や、映像の中で使用されていた単管を実際に使ってモニターを吊り下げている点、泥のようなものが入ったバケツが、モニターの背後にその重石としてさりげなく使われている点などのインスタレーションの細部に表れ、作品に強い説得力を与えているように映りました。今後もこの率直さを大切にしながら制作を続けていってほしいと思い、今回は私の賞をお贈りしたいと考えました。(桝田)