SAREENA SATTAPON
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WEB SITE東京藝術大学大学院
公益財団法人現代芸術振興財団は、学生対象アートコンペ「CAF賞2022入選作品展覧会」を、11月29日(火)〜12月4日(日)に、東京・代官山のヒルサイドフォーラムにて開催いたしました。9回目の開催となる今年は、岩渕貞哉氏(美術手帖総編集長)、金澤韻氏(現代美術キュレーター)、名和晃平氏(彫刻家)、保坂健二朗氏(滋賀県立近代美術館ディレクター・館長)の4氏が審査員を務め、入選作品展覧会開催期間内に行われた最終審査にて、最優秀賞1名・優秀賞1名・審査員特別賞4名の、合計6名の学生を選出。本展では、絵画、彫刻、映像、パフォーマンス、インスタレーションなど13名の作家による入選作品を展示いたしました。
「CAF賞」は、学生の創作活動の支援と日本の現代芸術の振興を目的に開催し、日本全国の高校・大学・大学院・専門学校の学生、および日本国籍を有し海外の教育機関に在籍する学生の作品を対象としたアートアワードです。最優秀賞に選ばれた受賞者には賞金100万円のほか、副賞として個展開催の機会を提供します。
美術手帖総編集長
1975年、横浜市生まれ。1999年慶応義塾大学経済学部卒業。2008年に「美術手帖」編集長となり、2019年より現職。2019年に「OIL by 美術手帖」として、アートECサイトとリアル店舗(渋谷パルコ2階)をオープン。公募展の審査員やトークイベントの出演など、幅広い場面でアートシーンに関わる。
現代美術キュレーター
1973年、神奈川生まれ。東京藝術大学大学院、英国 Royal College of Art(RCA)修了。熊本市現代美術館など公立館での12年にわたる勤務ののち、2013年に独立。国内外で展覧会企画多数。近年企画・参画した主な展覧会に、ヨコハマ・パラトリエンナーレ2020(横浜)、「インター+プレイ」、「AKI INOMATA:シグニフィカント・アザネス」、「ウソから出た、まこと」、「毛利悠子:ただし抵抗はあるものとする」、「ラファエル・ローゼンダール:ジェネロシティ 寛容さの美学」(十和田市現代美術館、青森、2018~2022)、杭州繊維芸術三年展(浙江美術館ほか、杭州、2019)、「Enfance」(パレ・ド・トーキョー、パリ、2018)、茨城県北芸術祭(茨城県6市町、2016)など。
彫刻家/Sandwich Inc.代表/京都芸術大学教授
1975年生まれ。京都を拠点に活動。2003年京都市立芸術大学大学院美術研究科博士課程彫刻専攻修了。2009年、京都に創作のためのプラットフォーム「Sandwich」を立ち上げる。独自の「PixCell」という概念を軸に、様々な素材とテクノロジーを駆使し、彫刻の新たな可能性を拡げている。近年は建築や舞台のプロジェクトにも取り組み、空間とアートを同時に生み出している。2018年、フランス・ルーヴル美術館にて彫刻作品"Throne"を特別展示。2015年以降、ベルギーの振付家/ダンサーのダミアン・ジャレとの協働によるパフォーマンス作品"VESSEL"を国内外で公演中。
滋賀県立美術館ディレクター(館長)
1976年生まれ。慶應義塾大学大学院修士課程修了。2000年から2020年まで東京国立近代美術館に勤務。同館にて企画した主な展覧会に「エモーショナル・ドローイング」(2008)、「フランシス・ベーコン展」(2013)、「声ノマ 全身詩人、吉増剛造展」(2016)、「日本の家 1945年以降の建築と暮らし」(2017)、「隈研吾展 新しい公共性をつくるためのネコの5原則」(2021)など。「Logical Emotion:Contemporary Art from Japan」(2014、ハウス・コンストルクティヴ美術館他)など国外での企画も行う。2021年より現職。主な著作に『アール・ブリュットアート 日本』(監修、平凡社、2013)など。『すばる』の連載など、芸術についての寄稿多数。
パフォーマンス、インスタレーション
社会の、目に見えない構造を見せようとする作品。鮮やかなインスタレーションとパフォーマンスによって、社会を下層で支えている人たちの困難や努力、そして、人間として生きる尊厳が力強く明白に表現されていた。審査員全員が高い評価で一致したため最優秀賞としたい。(金澤)
肉体、カメラ、HMD、全身タイツ
昨年審査員賞を受賞した《Uber Existence》では、VR機器を通じたアクターの体験の共有が作品として提示されていた。しかし本作ではむしろ、視覚体験を共有しないことによって、パフォーマーの身体が日常空間における異物(オブジェクト)と化し、別の生命体と対峙しているような感覚を鑑賞者に抱かせている。同時に、文字通り「視点を変え」られたパフォーマーたちの長期的な脳や身体の変化を示唆しているようにも受け取れた。鑑賞者やパフォーマーの体験自体が作品になりうるという特徴は、この表現に潜在する可能性の広がりを感じさせる。いずれにせよ、実際に体験してこそ伝わるものが大きい、非常にユニークで興味深い作品である。今後のさらなる展開に期待したい。(名和)
銀塩プリント
作家自身が抱える苦しみや痛みといった葛藤を、美容機器を使用し不要なものを除去する行為に重ね、昇華していく作品。モノクロ写真の黒い部分に脱毛器の光を当て、青く結晶化させ美しく変化させている。作品の隅々まで目が行き届いている完成度の高い作品であっただけでなく、展示場所の構成や演出についても意識されていた。開かれた展示空間の少し隠れた一角に、ガラスを通じて展示の様子が見えるようになっているものの、そこから鑑賞者はアプローチできず、眺めるだけで近づくことができないという場所の選び方。作品審査の際にも、会場のトイレの出入り口の隠れた壁にひっそりと展示をしており、どのように作品を見せるかということと、作品のテーマとが何重にも重ねられ考えられていた。作品や空間が豊かな意味を考えさせ、時間をかけてゆっくりと、自然に伝わって鑑賞者の中に沈殿していくような表現に感銘を受けた。(岩渕)
ミクストメディア
本作は、ジェンダー、セクシュアリティ、家族という簡単には解けないさまざまな問題について考えさせられる作品であった。物事の複雑さをそのまま優しく抱えるようにして丁寧に作り込んでおり、その作品の抽象度と具象度のバランスから、作家の美術的なセンスの高さがうかがえた。このまま国際的な舞台に持っていった時に、その現代性と明確な表現により、まさに世界の人々に向けて訴えかけることができる作品だと感じた。(金澤)
ミクストメディア
作家が持つ機械設計の知識を美術の領域で展開することで、非常にユニークな大作がつくり上げられている。一つ一つの小部屋は一見ただの舞台セットだが、ダクトを通じて小部屋の外に溢れる音を媒介に、いつの間にか鑑賞者の意識は内部へと引き込まれ、没入感に満ちた体験がもたらされる。まるで体内とのつながりをつくっているような、インスタレーションかつ彫刻でもありうる興味深い作品である。また、タイマーによるファンの制御というシンプルなやり方で音の移り変わりを演出していた点も印象深い。音響から空間体験全体に至るまで、作家が手探りで模索し続けて掘り当てた表現のように感じられた。小部屋と共鳴する音だけでも様々な展開が期待できると思った。実際、審議でも「小部屋の中には何も配さなくていいのではないか」との意見もあがっていた。(名和)
パネルに白亜地、油彩、テンペラ
書類審査の時から、《宇宙人の目シリーズ2022 たんぽぽごっこをしよう!》に描かれている犬の表情は印象的で、ぜひ実物を見てみたいと思った。黄色を基調にした作品であり、画面全体をまとめるのは大変であったと思われるが、よくまとめられている点で、作家の技量が推し量れる。最終審査で新たに追加された作品は、「エリンギを投げる」という謎のテーマをもとに、シェイプドキャンバスの画面に様々な世界を大小あらゆるスケール感で描いていて、それなのに破綻なくまとめられている。通常シェイプドキャンバスというとフォーマリズムの範疇の考え方だと思われがちたが、彼女の場合は自分の見えている視界の範囲内で形を決めているという点で、非常にランダムなのに具体的な意味を持つシェイプドキャンバスで、しかもそれが、絵の中で展開する多様な世界と非常に融合していて、その点を含めて素晴らしい作品だと思い、授与した。(保坂)