鈴木 晴絵
Harue SUZUKI
Harue SUZUKI
WEB SITE女子美術大学大学院
公益財団法人現代芸術振興財団はこの度、学生対象アートコンペ「CAF賞2024入選作品展覧会」を、11月26日(火)〜12月1日(日)に、東京・代官山のヒルサイドフォーラムにて開催いたしました。
11回目の開催となる今年は、木村 絵理子氏(弘前れんが倉庫美術館館長)、野路 千晶氏(Tokyo Art Beatエグゼクティブ・エディター)、桝田 倫広氏(東京国立近代美術館主任研究員)の3氏が審査員を務め、入選作品展覧会初日の26日に行われた最終審査にて、最優秀賞1名・優秀賞1名・審査員特別賞3名の、合計5名の学生を選出しました。
「CAF賞」は、学生の創作活動の支援と日本の現代芸術の振興を目的に開催し、日本全国の高校・大学・大学院・専門学校の学生、および日本国籍を有し海外の教育機関に在籍する学生の作品を対象としたアートアワードです。最優秀賞に選ばれた受賞者には賞金100万円のほか、副賞として個展開催の機会を提供します。
弘前れんが倉庫美術館館長
2023年より現職。2000年より横浜美術館に勤務、2012年より主任学芸員。2005年展から横浜トリエンナーレに携わり、2020年展では企画統括を務める。近年の主な展覧会企画に、“HANRAN:20th-Century Japanese Photography”(National Gallery of Canada、2019)、「昭和の肖像:写真でたどる『昭和』の人と歴史」(横浜美術館、2017/アーツ前橋、2018)、「BODY/PLAY/POLITICS」(2016)、「蔡國強:帰去来」(2015)、「奈良美智:君や 僕に ちょっと似ている」展(横浜美術館、青森県立美術館、熊本市現代美術館、2012)、「高嶺格:とおくてよくみえない」展(横浜美術館、広島市現代美術館、IKON Gallery、鹿児島県霧島アートの森、2011)、「束芋:断面の世代」展(横浜美術館、国立国際美術館、2009-10)ほか。この他、關渡ビエンナーレ・ゲストキュレーター(2008、台北)、釜山Sea Art Festivalコミッショナー(2011)など。
Tokyo Art Beat エグゼクティブ・エディター
1984年広島県生まれ。NTTインターコミュニケーション・センター[ICC]、フリーランスのアートコーディネーター、ライター、ウェブ版「美術手帖」を経て、2019年末より現職。取材や記事の執筆、レクチャーなどを行う。
東京国立近代美術館 主任研究員
1982年東京都生まれ。担当した主な展覧会に「ゲルハルト・リヒター展」(2022)、「ピーター・ドイグ展」(2020)、「アジアにめざめたら:アートが変わる、世界が変わる1960–1990年代」(共同キュレーション、東京国立近代美術館、韓国国立現代美術館、ナショナル・ギャラリー・シンガポール、2018–2019)、「No Museum, No Life?―これからの美術館事典国立美術館コレクションによる展覧会」(共同キュレーション、2015)など。

銅版画、コラグラフ、和紙、木材、音声
鈴木のお兄さんは言語に障害を抱えている。こうした背景のなか、家族あるいは兄妹の関係の中で鈴木が向き合ってきたリアリティを作品としてどのように昇華するかに、鈴木は日々取り組んでいる。審査員一同、その切実さや、当事者ゆえの葛藤に心を打たれたというのが大きかった。しかし、こうした彼女のアイデンティティのみが今回の受賞に至った理由ではない。テーマがいかに版画という技法と関わっているかが非常に大事な点であると考える。たとえば何枚も紙が折り重なっている作品には、風呂桶が繰り返し描かれている。繰り返し桶に水を貯めて頭からかぶる兄の行為をテーマにしているとのこと。それは反復された行為を描いているのだと思うが、この行為における反復と差異とはまさに版画という技法と重なっている。さらに、これだけ表現が多様化している中で、版画あるいは平面作品とは、ややマイナーな位置に置かれてしまう現状がある。マイノリティの問題、社会の周縁に置かれてしまいがちな人々の姿を、その版画というジャンルであえて表現している点も、テーマと技法とがうまく絡み合っていると私たちの目に映った。ゆえに最優秀賞をお渡ししたいという結論に至った。(桝田)


木材、新聞紙、バンド
大和の作品は木製の構造物と新聞で構成されている。この構造物はキャスターで引き回すことができるようになっており、指示に従うと自然にカチャーシーという沖縄の踊りを踊ることができるようになるという仕掛けになっている。ユーモラスで楽しげなパフォーマンス的要素を含んだ仕掛けが作品の全体像として見える。
この作品の肝要な部分として「新聞」の存在がある。新聞には大和が取材した沖縄で今起きていることに関する記事や、沖縄戦で捕虜になった経験がある大和の亡くなられたおじいさんとの想像上のインタビューなどが書かれている。この新聞は、本展のため、あるいはこの作品のためだけ作られたものではなく、今までも大和が個人で定期発行しているものだ。そして、その新聞はすべて一人で大和が書いているにもかかわらず、まるで複数の書き手がいるかのように緻密に作り込まれていて、テキストの緩急の付け方がうまく演出されており、そういう部分での完成度も、高く評価するポイントになった。
実は大和が表現したいことの一番根幹の部分には、沖縄で起きていることを多くの人に知ってもらいたいという動機がある。その動機をジャーナリストとしてではなく、作品という形で身近に感じてもらいながら、そこから糸口を作っていく。もしかしたらアートというのは、大和にとってそれ自体が目標ではなく、一つの手段でしかないのかもしれない、もしかしたら次には別の手段を使うのかもしれないと思わせる、そういった将来性と可能性の幅広さが、審査員の間で優秀賞に選ぶ決定打となった。(木村)


ラジオカセット、プロジェクター、ブラウン管テレビ、スクリーン、フロアライト、中空ポリカ
リー・ムユンの作品は、旧ソ連崩壊時に宇宙にいた宇宙飛行士に着目して、宇宙にいる間に自国が崩壊する、宇宙に取り残された人として放浪する、という物語を起点としたSFの映像作品だ。それに対しリーは、個人の力ではどうにもできない、国から見捨てられてしまった存在として宇宙飛行士のことを捉えている。それは現代社会、あるいは歴史上のさまざまな局面で、大きな力によって阻害されてしまう、組織や枠組みから外れてしまった人の存在に光を当てようという試みだ。
現代的な問題に対して、作品としてどのようにアプローチするかというときに、彼女が選んだモチーフの面白さ、着眼点が素晴らしいと感じた。一方で、SFをモチーフにしながら現代について語る手法は、すでに様々なアーティストが実践をしている。今後リー自身の世界観を追求し、クオリティを上げ深めていくことで、より作品の発展が望めると感じ、期待を込めて審査員賞とした。(木村)


映像、写真
新しいドキュメンタリー映像という観点で本間の作品を選んだ。昨今は様々なデジタル技術が台頭し、翻って「私たち人間は何者であり、どう生きるべきなのか」というあり方を問われる時代になってきた。VRチャットの空間は参加者がアバターを選び、自分自身、あるいは違う人間として、自由な時間を過ごす空間だが、その空間にいる人間は何者なのかという、アバターの下にある人間性に本間はフォーカスしている。その視点と、素を炙り出すようなドキュメンタリータッチの関わり方が新鮮で面白いと思った。本作はVRチャットそのものを知っている鑑賞者は理解しやすいが、それらに親しみのない鑑賞者にも作品の意味を理解できる手がかりがあるとなお良い。そして作品に登場する人々の深淵を見つめるようなドキュメンタリー映像としての凄みが出るとより良いと感じた。(野路)


プロジェクターによる投影、石膏
森田の本作はバーチャルと現実の間を扱っている。まずセラミック作品を作ることから始め、そこから映像に展開していくとのこと。自分の手で作った三次元的なオブジェと映像における人のかたちというイメージが、どちらも等価に作られているというところが非常に興味深い。しかしながら、仮想空間における私たちの身体と、現実に存在する生身の身体との間に横たわる問題について、いま、世界中の多くの作家たちが取り組んでいる。非常に競争の激しい領域である。森田なりの表現をこれから追求してほしいという期待を込めて、本賞を差し上げたい。(桝田)