「CAF・レジデンシー・プログラム」は現代芸術にかかわるアーティストを対象とした助成事業です。次なる世代の柱となる才能あるアーティストを選抜し、国際的に活躍するきっかけを提供することを目的に実施しています。選考委員によって選ばれた2名には、アメリカNYのブルックリン実験アート財団(BEAF)での3ヶ月にわたる滞在研究の機会が与えられます。

1990年京都生まれ。2020年に東京藝術大学美術研究科博士後期課程修了。物事を隔てる境界や壁をモチーフに、コミュニケーションの非対称性やズレをテーマに作品を制作している。積極的に作品の中に変化を取り入れ、空間と作品とが一体となる大規模なインスタレーション作品を展開している。主な展覧会に、「あ、共感とかじゃなくて。」東京都現代美術館(2023)、「TOKYO BIENNALE 2023」(2023)、第15回Shiseido art egg 中島伽耶子展「Hedgehogs」(2021)、「奥能登国際芸術祭2020+」(2021)、「瀬戸内国際芸術祭2016」(2016)など。
作家として活動してきましたが、今が分岐点のように感じています。30代半ばという年齢的なこともありますし、能登半島地震で知人の多くが被災した姿を目の当たりにしたことで、自分の中で価値観が変わってしまったというのもあるかもしれません。今までの方法論ではダメだという漠然とした直感と足掻きの中で、今回の助成をいただき本当に嬉しく思います。皆様の力をお借りしながら、貴重なチャンスを楽しみたいです。
Photo: Kaori Nishida
1989年生まれ。アーティスト。とるにたらない視覚文化をモチーフに、テクノロジーやパフォーマンスを用いて作品を制作している。2013年に編著書『ラッセンとは何だったのか?』を刊行。2019年以降は断続的にハワイに滞在し、ピジン英語に代表されるトランスナショナルな文化に着目。2023年にTERRADA ART AWARD 2023でファイナリストに選出・審査員賞(神谷幸江賞)を受賞。2024年に日本ハワイ移民資料館に作品《シャドーイング》が収蔵・常設化。2024~25年にかけて、広島市現代美術館で個展「ホーム・ポート」を開催。作品収蔵先に金沢21世紀美術館、京都国立近代美術館、広島市現代美術館など。
長い間、海外に出たくても出るチャンスを逃し続けていました。
海外挑戦の適齢期といえる30代前半にはコロナ禍が直撃。ようやくコロナが明けた頃には30代半ばに差し掛かり、海外渡航プログラムの年齢制限がチラつき始めました。このまま40代を迎えてしまうと、本格的に海外に出るチャンスはなくなってしまうのではないかと不安を覚えていたタイミングで、本助成に選出していただきました。
この大変貴重な機会をくださり、誠にありがとうございます。このチャンスを120%活用し、グローバルに活動できる作家へと成長したいと思います。
東京オペラシティアートギャラリー
シニア・キュレーター
野村しのぶ
助成対象者が2名(組)になったことで幅が生まれ、より自由な選考が可能になった。実力があり実績豊富な作家の応募が多数あり、そのなかでニューヨーク滞在が作家の将来の飛躍につながると思われる作家6名と、最終選考で面談を行った。採択された中島伽耶子は社会における「壁」をテーマに制作・展示を行ってきた実践が、分断が進む世界を実際に経験することでどのように展開されるのか期待を持った。原田裕規は国内の美術館での個展をはじめ近年急速に活躍の場を広げており、本助成によって新たなフェーズへの飛躍が期待できると考えて採択した。それぞれが米国滞在ならではの調査・体験を通して、今後より充実した作家活動につながることを期待している。
インディペンデント・キュレーター
吉竹美香
中島伽耶子の境界をテーマとする完成度の高いインスタレーションは、パフォーマンスを体験しているような緊張感を感じさせる。日本の前衛美術史を取り入れながら、アメリカでも深く問題が続くトランスジェンダーの差別問題を深く貫く共同プロジェクトに感動を浴び、これからの新たなプロジェクトを応援している。原田裕規は長年海外で制作をされ、特にハワイで過ごした体験が貴重なターニング・ポイントであり、より繊細な言語を作り出せたと思う。戦後日本の歴史と海外での人種問題について、根本的で曖昧な人間性を見出し、しかも現代の感性と繋ぐ微妙な視覚センスを持っている。これからのビジョンが楽しみである。
ブルックリン実験アート財団 (BEAF) 共同創設者・
エグゼクティブ・ディレクター
斯波雅子
今回は2名のアーティストを迎えることとなり、前回を上回る多様な応募があったことで、このプログラムの方向性を改めて考える貴重な機会となった。選考にあたっては、作家の活動形態やキャリアのバランスを見つつ、「今」NYに来ることの意義がどれほど際立つかを重視した。特に両者に共通するのは、創作と並行して別の活動領域を持ち、それが一見明らかではないかたちで作品に影響を与えている点であり、そうした複層的な視点が、今現在の激動のアメリカという多層的な社会でどう揺さぶられ、変容していくのか、その展開が非常に楽しみである。

東京オペラシティアートギャラリー
シニア・キュレーター
野村しのぶ
Shino NOMURA
主な展覧会に「ライアン・ガンダー われらの時代のサイン」(2022)、「カミーユ・アンロ|蛇を踏む」(2019)、「単色のリズム 韓国の抽象」(2017)、「サイモン・フジワラ|ホワイトデー」(2016)、「ザハ・ハディド」(2014)、「さわ ひらき Under the Box, Beyond the Bounds」(2014)、「エレメント 構造デザイナー セシル・バルモンドの世界」(2010)、「都市へ仕掛ける建築 ディーナー&ディーナーの試み」(2009)、「伊東豊雄 建築|新しいリアル」(2006)、「アートと話す/アートを話す」(2006)。収蔵品展、若手作家紹介シリーズ project Nも担当。外部の仕事に大林財団《都市のヴィジョンーObayashi Foundation Research Program》推薦選考委員、Tokyo Contemporary Art Award選考委員など。
Photo: ITAMI Go

インディペンデント・キュレーター
吉竹美香
Mika YOSHITAKE
ハーシュホーン美術館と彫刻庭園(ワシントンD.C.)元キュレーター (2011–2018年)。カリフォルニア州立大学ロサンゼルス校(UCLA)より修士号および博士号取得。博士論文をもとに「太陽へのレクイエム:もの派の芸術」(Blum & Poe、ロサンゼルス、2012年)を企画し、国際美術評論家連盟アメリカ支部(AICA-USA)より受賞。開催予定も含む主な展覧会=草間彌生の特別巡回展 「Infinity Mirrors」(ハーシュホーン美術館と彫刻庭園、ワシントンD.C.、 2017–2019年)、「パレルゴン:1980-90年代日本美術」(Blum & Poe、ロサンゼルス、2019年)、「奈良美智 国際回顧展」(ロサンゼルス・カウンティ美術館、2020年、ゲストキュレーター)、草間彌生展「KUSAMA:Cosmic Nature」(ニューヨーク植物園、2021年、ゲストキュレーター)。草間彌生回顧展「YAYOI KUSAMA:1945–NOW」(M+、香港、2022年、ドリュン・チョンとの共同企画)、「息(る):気候変動と社会正義(Breath(e): Towards Climate and Social Justice)」(ハマー美術館、ロサンゼルス、2024年、グレン海乃との共同企画)。また、村上隆回顧展「©Murakami」(ロサンゼルス現代美術館、2007年)、「李禹煥」展(グッゲンハイム美術館、2011年)にも携わり、カタログに寄稿。「ターゲット・プラクティス」(シアトル美術館、2009年)、 「カール・アンドレ:場所の彫刻1958–2010」(Dia Art Foundation、2014年)、「東京1955-1970:新しい前衛」(ニューヨーク近代美術館、2012年)のカタログにも寄稿。
Photo: Winnie Yeung
@ Visual Voices

ブルックリン実験アート財団 (BEAF)
共同創設者・
エグゼクティブ・ディレクター
斯波雅子
Masako SHIBA
2002年にラトガーズ州立大学美術史学部を卒業後、ニューヨークを拠点として主にアジア文化系団体でのマネジメントに従事。ジャパン・ソサエティー・ギャラリーやアジア・ソサエティ美術館に勤務した後、アジアン・カルチュラル・カウンシル日本財団の初代事務局長を経て、現代アート事業会社の起業に取り組むとともに、ブルックリンの非営利団体J-Collaboの初代エグゼクティブ・ディレクターを務めた。その後、新たにBEAF(ブルックリン実験アート財団)を共同創立し、アーティスト・レジデンシー・プログラムや研究支援を通じて、日本人をはじめとしたアーティストのサポートを活動の主軸としている。
また、コンセプチュアルなデジタルアートでの事業化を目指し、Web3関連企業ONBDを共同設立し、宇宙事業スタートアップSpacetainment社でアート事業の統括を務め、史上初の国際宇宙ステーション外壁での展示プロジェクトを監修。さらに、Study vol.3大阪関西国際芸術祭の一部企画展キュレーターとしてその作品を世界初公開展示するなど、様々な機関に関わっている。近年は特にデジタルアートのスペシャリストとして、サンフランシスコのアジアンアート美術館で開催された村上隆個展の公式カタログに寄稿し、NFT NYCやWebXなどの学会で登壇の機会も多い。
Photo: Dave Krugman
ブルックリン実験アート財団(BEAF)は、ニューヨークを拠点とする非営利団体です。レジデンシーを中心とした文化交流活動や、企画展・レクチャーを含む研究支援を主要な活動とし、アートの持つ変革力を活用しながら、新たな多様性の時代における豊かな対話の場を創出することを目指しています。
(https://www.beaf.art/home)