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CAF賞2023入選作家/清水冴『Stitch Your Name』参加者募集

12月12日より開催する、学生対象アートコンペ「CAF賞2023入選作品展」の展覧会期間にあわせ、CAF賞2023に入選した清水冴による『Stitch Your Name』を開催いたします。ご参加には事前のご予約が必要となります。みなさまのご参加、心よりお待ち申し上げます。

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『Stitch Your Name』参加者募集

自己と他者の差異をわかち合い、この社会に生きるすべての人間の尊厳を確立するために、アートに何ができるのだろうか?この問いを起点とする Stitch Your Name は、刺繍をめぐる社会的・美術史的位置付けの再構築を試みながら、多様な「他者」を想像するためのアート・プラクティスである。参加者は、自分の名前を刺繍しながら、その名前にまつわる物語を語る。名前とは、個人のアイデンティティやルーツ−人種、民族、ジェンダー、階級、宗教など−を象徴するものであり、そこには個人的で親密な物語が存在する。そして「縫う」という反復的なジェスチャーは、私たちの思考を深め、思いを紡ぐことを可能にする。ほどかれた記憶の糸で「名前」を綴り、そこから対話が生まれるとき、私たちのほつれを縫いなおすことができるかもしれない。

開催日時:12月15日(金)〜12月17日(日)
・12月15日(金)17:00〜18:30(定員8名)
・12月16日(土)15:00〜16:30(定員8名)
・12月17日(日)15:00〜16:30(定員8名)

会場:代官山ヒルサイドフォーラム
(東京都渋谷区猿楽町18-8 )

Stitch Your Name 進め方
・自分の「名前」を刺繍する
・その「名前」にまつわる物語を順に話す

事前予約制(無料)
ご予約フォーム:https://forms.gle/HR8W9v9KMUgcu8xj7

問い合わせ:shimizusaee@gmail.com

『Stitch Your Name』と3つの現代美術の系譜
−フェミニストアート、ニューアートヒストリー、クラフティヴィズム

 1960年代に「個人的なことは、政治的なこと」をスローガンに掲げたフェミニストアートは、手芸を戦略的に取り入れ、女性のエンパワーメントに貢献した。その先駆的な存在であるミリアム・シャピロ(1923−2015)とメリッ サ・マイヤー(1946−)は、「ファマージュ(femmage)」というコンセプトを提唱し、コラージュ、テキスタイル、刺繍など「女性的」と見做されてきた素材や技法を「ハイアート」の領域にまで押し広げることに挑戦した。一方で、フェミニストアートが主体とする「女性」とは、西洋・白人・中産階級・ヘテロセクシャルが前提とされ、人種、民族、ジェンダー、階級などが絡み合うインターセクショナルな視点は見落とされてきたことも強調しておかなければならない。

 そして1980年代のニューアートヒストリー研究は、既存の「美術史」の枠組みを問い直し、取りこぼされた「視点」を捉え直すことで、女性アーティストや、装飾、手芸の分野を評価した。そのなかで手芸は、「巨匠」(男性)による「傑作」(絵画や彫刻)を編纂してきた「美術史」において、「美術」「工芸」から周縁化され、女性の家庭内の労働や趣味と位置付けられてきたことが明らかになった。また、美術史家で心理療法士のロジカ・パーカー(1945−2010)は、近代以降の刺繍の二面性に対し、それがいかに楽しく創造性を与えるもので、かつ女性を社会的に抑圧するものかを批判した。パーカーによると、針仕事に従事するとき、家のなかで、頭を下げ、肩を落し、目を伏せ、口を閉じるというジェスチャーを通して、「女性らしさ」が形成され、ジェンダーによる社会的不平等がもたらされたという。

 2000年代には、ベッツィー・グレア(1975−)がクラフトとアクティヴィズムを掛け合わせた「クラフティヴィズム」を提唱し、サラ・コルベット(1983−)の推進によってこの運動が世界各地に展開された。クラフティヴィズムは、戦争、人権、貧困、福祉、自然環境、エネルギーなどさまざまな社会政治問題への取り組みとして、手芸を通してプラットフォームを形成し、批判性と温かみのある作品を社会に投げかけている。

 『Stitch Your Name』は、この3つの現代美術の系譜と交差しながらも、これらに還元されることはない。参加者ぞれぞれが自由なスタイルで刺繍をする空間では、刺繍が「女性性」と結び付くことのない、開放的なプロジェクトを提案している。また Stitch Your Name の出発点となるのは、参加者のごく私的な記憶や経験であり、そこから私たちは自己とは異なる「他者」を想像し、より大きな歴史や社会政治問題を考えながら、この社会に生きるすべての人間の尊厳を確立することを目指している。

清水 冴
1997年金沢生まれ。金沢美術工芸大学大学院芸術学専攻修了。自身のアイデンティティや在日コリアンのルーツに関心を持ち、フェミニズム理論やポストロコニアル理論と美術史を横断的に学ぶ。人種、エスニシティ、ジェンダー、セクシュアリティ、階級、障害、年齢などの要素によって「他者」として周縁化された人びとが置かれた社会政治構造を問題提起する展覧会やワークショップのキュレーションを手掛けてきた。主なキュレーションとして「記憶をほどく、編みなおす」(ギャラリー無量・富山県)。現在、中国・景徳鎮在住。

Contemporary Art Foundation