現在、川内理香子さんの初画集刊行記念個展<drawings>がWAITINGROOMで開催されています。
川内さんは第一回目のCAF賞2014(https://gendai-art.org/caf_single/caf2014/)で<保坂健二朗審査員賞>を受賞、2017年に多摩美術大学大学院を修了され、現在WAITINGROOMにご所属されています。
今回の展示では、初画集ご出版の記念の特別個展としてドローイング作品約30点を、また同時に渋谷パルコの「OIL by 美術手帖」ギャラリーにおいても約同数のドローイングを展示されていらっしゃいます。川内さんの作品の中心にあるドローイングについて、制作や表現されていることなどのお話をお伺いしました。
--初画集となる『Rikako Kawauchi drawings 2012-2020』のご出版おめでとうございます!はじめに、ご出版までの経緯をお伺いできますでしょうか?
川内:ありがとうございます。画集はずっと作りたいなと思っていて、今回WAITINGROOMの芦川さんのご協力があって出すことになりました。私はデビューが資生堂ギャラリーなのですが、その時もドローイングだけの展示をしていて、ドローイングが自分にとっての軸になっている感覚があります。今自分の制作の中にあるいろいろな表現の全ての元になっているので、最初に出すのはドローイングだけの画集にしたいという強い想いがあり、学部時代の過去のものから最新作までを集めたドローイング集になりました。
--2012年だと、かなり昔の作品になりますよね。全てお手元にお持ちだったのでしょうか?
川内:大学2年生くらいですね。手を離れてしまったものもあって、そういうものは自分で撮影したデータしか残ってなかったので、頑張って調整して使っています。画集には全部で155点掲載しています。
--今回はパルコさんでも同時に個展を開催をされていらっしゃいます。二つの展示のために新しく作品を制作されたのでしょうか?
川内:同時開催できたらという話をいただけて、2箇所で開催しています。普段からドローイングは描きたいときに描いているので、展示のために準備して描くっていうものではないんです。私の場合は、他の作品も結構そういうスタンスかもしれません。今回は、自分が描きたいときに描いていた、2019年から2020年のドローイングを展示しています。
--WAITINGROOMさんの展示は人の顔が出てくる作品で構成されていますが、パルコさんの展示はそこに食べ物をモチーフにした作品が混ざっていましたね。
川内:WAITINGROOMでの展示は割と最近のものが多くて、全て画集に載っているものなのですが、パルコの展示には2016年など昔の作品や、画集を出すにあたっての締め切り以降に描いた最新作も入っていたり、そのような違いはありますね。
川内理香子ドローイング画集『Rikako Kawauchi drawings 2012-2020』
Photo by Shintaro Yamanaka(Qsyum!)
WAITINGROOMの展覧会風景
Photo by Shintaro Yamanaka(Qsyum!)
渋谷パルコの展覧会風景
--ドローイングは、基本的に鉛筆と水彩で描かれていますが、制作のスタートはどちらから始まるのでしょうか。
川内:両方ありますが、水彩から始めることが多いかもしれません。これが描きたいと思って綿密なイメージを固めてから描く、というよりかは、なんとなくのイメージがあって、実際に水彩を乗せてみたときにはっきり見えてくるものとか、見えてきたものを描いています。描きながら見えてくる時もありますね。
--紙のサイズは元々決まっているんですか?
川内:はい、サイズありきで始まっていきます。
--今までは、赤や黄色の色彩をご使用されることが多かったと思いますが、今回は青を使われています。
川内:私はパレットが結構ぐちゃぐちゃなんですが、その中から自分の感覚でそのとき反応する色や、イメージの中でこの色かなというものを選びとって描いています。
最近青に自分が反応するようになったのですが、それはなぜかよく分かっていなくて。私は赤を使うことが多いですが、なぜ自分が赤を使ってみたくなるのかということも、そんなに自分でよく分かっていません。ただ、そのときにすごく美しいなと思う色や、自分が描くのにのれる色を選んでいると思います。
--赤だと、女性性に繋がっていってしまう気がしますが、そこは特に意識されていないんですね。赤が気になるから赤を使っていらっしゃる。
川内:そうですね。
WAITINGROOMの展覧会風景
Photo by Shintaro Yamanaka (Qsyum!)
--内面的なお話になるかもしれないのですが、今回の個展では人体や人間の頭が描かれている作品が多く展示されています。
川内:顔は誰かの顔とか表層の顔面を描いているわけではなく、自分の中にある内面的なものだったり、精神的な感情など、具体化できないけれど、人間の中に確かに存在する、よくわからないものが顔として具体化されて表されている気がしています。
初めは自分の中のそういった部分を描いていたので、全部自分だと思っていましたが、この部分って誰にでも共通する部分だなと思い・・・。それがだんだん広がっていき、自己と他者の固定がなくなり、今は多様になっている感覚があります。
男とか女とかもあまり意識はしていないです。ただ、「男の人だよね」と言われることがすごく多いです。
--人間と食べ物が合体している作品もありますね。
食べ物にすごく興味があるので、つい目がいってしまいます。人間ってやっぱり食べ物で出来ているよなー、ということを言語的にも体感的にもすごく感じることがあって。そうすると食べ物も人間も同じものとして見えてきて、その自分の中の見え方や重なり合わせ方が、作品にも出ているのだと思います。
--人の顔の他にも、口や舌などを描かれています。人体の外でもあり中でもあるような部分かと思うのですが、意識されていらっしゃるのでしょうか。
川内:自分自身も外なのか中なのかが分からないような感覚があって、自分の輪郭がすごく曖昧だとずっと感じています。食べ物という外のものを摂取して、それで自分が成り立っている。でもそれが自分ということならば、自分も外なのかなとかも思うし・・・。自己と他者、内と外のような、輪郭や境目がよく分からない感覚があります。
--少しお話は変わるのですが、作品が手を離れて、コレクターなどの元に行ってしまうことについて川内さんはどう捉えていらっしゃいますか?先程、ご自身の内面が描かれているというお話もありましたが。
川内:初めの頃はすごく嫌というか、本当に肉体を持ってかれるような感覚があったような気がします。でもそれ以上に、展示すると見えてくるものがあると思っていて。描いた作品が自分からちょっと離れて壁に展示してある姿を自分が一番見たいと思っています。
--だんだんと手放すことが気にならなくなって、前ほど嫌じゃなくなるという感じですか?
川内:それも営みの一つに思えて来ました。自分から出たものが人の手に渡ったりどこかに行って、それが次の制作につながるような感覚もあります。すごく気に入っている作品は、やっぱり手放す時にはさみしい気持ちはありますけど。
出してまた食べる、ということに似ているかもしれません。離れていったものが、どこかでまた還って来る、それが具体的に何かと言われるとちょっと説明しづらいんですけれど、売ってしまうことで離れて行ったものが、また違う養分になって、それをまた摂取するようなことがあると思っていて、その営みの一部のような認識です。
--寂しいことは寂しいっていう、そのときはそういうことですね。
川内:そうそうそう(笑)もちろん、嬉しさもあるんですけど。
--川内さんには2014年の第一回目のCAF賞にご応募いただいています。初めての開催で全く知名度もなかったと思うのですが、発見してご応募いただけた経緯はどのようなものだったのでしょうか。
川内:学部の2年生か3年生の頃ですね。それまで公募に出したことがなくて、何か出したいなと思っていました。卒業が目の前に見えてきていたりしたので、自分で能動的に行動をしたいという思いがありました。また、この作品のために、今自分で何かできることをしたいと思い、ちょっと賞とかに出してみようかなと。(笑)
--作品があって、それを賞に出すという流れだったんですね。
川内:はい、そうですね。この作品のために何かしたい。それで賞について調べていったときに、審査員に保坂さんがいらしたりして、CAF賞がすごく良さそうだと思いました。
あとは、第一回目っていうのもすごく惹かれるところがあって、まだ全く知られていない、カラーがない賞に自分の作品を出したいという気持ちがありました。他の賞は、ある程度方向性が決まっていたりして、それぞれの賞のカラーに合わせていくところもあるのではないかなと思うんですけど、そういうものが何もないような賞に出したかったっていうのがありました。
CAF賞2014 応募作品 《Cherry Pie》2012
--2014年の受賞時のコメントで、当時ドローイングをメインで制作されていたので、これからはペインティングにもチャレンジしていきたいとお話しされていました。その後6年が経ち、扱うメディアの幅も年々広がっていらっしゃいますが、今後やってみたい事などはありますか?
川内:まだ未定ですが、壁から離れた彫刻にチャレンジしてみたいなと思っています。ペインティングは、絵の具を引っ掻いて描いていますが、引っ掻く、、その描く行為に物質感もすごく感じています。その感覚の延長線上にあるものとして、彫刻をやってみたいです。
--今回川内さんの画集『Rikako Kawauchi drawings 2012-2020』は、WAITINGROOMさんのオンラインストア(https://waitingroom.theshop.jp/items/36458916)からも購入が可能です。また、川内さんの作品は、今回お話いただいた2つの展示の他にも、寺田倉庫さんが運営する「WHAT」にて、本年12月12日から2021年5月30日まで展示される予定です。(詳細 https://www.terrada.co.jp/ja/news/9768/)こちらもあわせて、ぜひご覧ください。
開催概要
タイトル:川内理香子・初画集刊行記念個展『drawings』
会期:2020年11月29日(日)〜2020年12月27日(日)
水〜土12:00〜19:00 / 日 12:00〜17:00 *月・火・祝日休廊
会場:WAITINGROOM(東京都文京区水道2-14-2長島ビル1F)
https://waitingroom.jp/exhibitions/2020-kawauchi/
同時開催個展
タイトル:川内理香子『drawings』
会期:2020年11月25日(水)〜2020年12月8日(火)11:00〜21:00
会場 : OIL by 美術手帖(渋谷パルコ2F)
https://oil-gallery.bijutsutecho.com/
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川内 理香子|Rikako KAWAUCHI
2015 多摩美術大学美術学部絵画学科油画専攻 卒業
2017 多摩美術大学大学院美術学部絵画学科油画専攻 修了
個展
2020 drawings - WAITINGROOM(東京)、drawings - OIL by 美術手帖(東京)、Myth & Body - 日本橋三越・三越コンテンポラリーギャラリー(東京)
2018 human wears human / bloom wears bloom - 鎌倉画廊(神奈川)、Tiger Tiger, burning bright - WAITINGROOM(東京)
2017 Something held and brushed - 東京妙案GALLERY(東京)、NEWoMan ART wall Vol.7:Easy Chic Pastels 川内理香子 - NEWoMan ART wall(JR新宿駅ミライナタワー改札横のディスプレイ・ニュウマン新宿2Fメインエントランス前・東京)
2016 Back is confidential space. Behind=Elevator - WAITINGROOM(東京)
2015 コレクターとアーティスト:川内理香子 - T-Art Gallery(東京)、SHISEIDO ART EGG vol.9 : Go down the throat - 資生堂ギャラリー(東京)
グループ展
2020 Input / Output - 銀座蔦屋書店・アトリウム@GINZA SIX(東京)、個性の開花Ⅱ ポスト伊作世代~昭和から平成の文化学院で学んだ人々 - ルヴァン美術館(長野)
2019 写真 - 3F/三階(東京)、drawings – ギャラリー小柳(東京)
2018 ミュージアム・オブ・トゥギャザー サーカス – 渋谷ヒカリエ 8/COURT(東京)
2017 NEWSPACE - WAITINGROOM(東京)、ミュージアム・オブ・トゥギャザー展 - スパイラル(東京)、平成28年度第40回東京五美大連合卒業・修了作品展 - 国立新美術館(東京)
2016 Stereotypical - GALLERY PARC(京都)
2015 デッドヘンジ/エステティック - HIGURE 17-15 cas(東京)
2014 第1回CAF賞入賞作品展 - TABLOID GALLERY(東京)、That I shall say goodnight till it be morrow - 新宿眼科画廊(東京)
2013 凸展 - TKPシアター柏、アートラインかしわ2013(千葉)、Home Made Family - CASHI冷蔵庫内(東京)、Sleep No More - 多摩美術大学芸術祭(東京)
2012 OTHER PAINTING XI - Pepper's Gallery(東京)、凸展 - そごう柏店、アートラインかしわ2012(千葉)、ドーナツのない穴 - 多摩美術大学芸術祭(東京)
アワード
2014 第1回CAF賞 保坂健二朗賞、マネックス証券主催 ART IN THE OFFICE 2014
2015 SHISEIDO ART EGG賞