INTERVIEW

Artists #4 影山萌子

8月1日(土)まで東京・MARUEIDO JAPANで、影山萌子さんが個展を開催されています。(*要事前アポイントメント制)。影山さんはCAF賞2016の入選作家で、2019年に武蔵野美術大学大学院をご卒業後、東京を拠点に作家活動を開始。(CAF賞2016:https://gendai-art.org/caf_single/caf2016/)原風景である東京の急激な都市開発に対する混乱や戸惑いといった反応を手がかりに、「現実味の欠如」がそのまま現実味にとってかわったような風景画を制作されています。本展覧会は、来年2月に開催予定の次の個展に向け、現在の地点を示せるような機会として企画された旧作展として展開されています。影山さんへのインタビューに伴い、展覧会に寄せたテキストも頂戴しましたので、続いてご紹介させていただきます。

<本展覧会に寄せた作家によるテキスト>

バスの窓から街を眺めていて、いとも簡単に、自分が立ち入れない建物の中を覗けてしまうことがあると、とても奇妙な感覚に襲われる。
実体を伴った街並みに自分のつま先をぶつけることはできるが、その中身は途方もなく遠く、得体の知れないもののように感じられる。

自分のリアリティーの延長に世界のリアリティーが無いことを実感する時、自然と景色が浮かんでくる。
それは燃え盛る観光地や、不格好なモニュメントや、役割を持たない装置といった姿で現れる。

最近はそれが、「物心がついたとき」の再現なのでは無いかと思うようになった。
ここで言う「物心がついたとき」とは、個人と世界が対峙し、お互いのリアリティーがこすれ合った結果、つかの間靄が晴れたように感じる瞬間のことである。

私にとってこの世界は、立ち入れない敷地に立っている、よその家のようなもので、その窓の中を少しずつ覗き見るようにして認識し、作品として再びこの世界に定着することを試みているのだと思う。

<ゲストハウス>
2019 / キャンバス、油彩 / 1455 × 1120mm

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Q1:今回はどのような経緯で展覧会を開催することになりましたか?

MARUEIDO JAPANは大学院を修了してすぐの頃からお世話になっているギャラリーです。今年の10月に自身の初個展を開催予定でしたが、新型コロナウイルスの影響で来年2月に延期となり、その代わりとして、旧作の個展をしてはどうかとご提案いただきました。

Q2:本展はどのような作品を展示されていますか?

タイトルは2014-2019となっているのですが、展示作品は2017年以降のものです。
それまでは、浮かんだ図像をなるべくストレートに排出することや、箱庭療法のように愚直に風景を構築するということをしていました。しかし2017年以降は、その過程で必然的に発生する、絵画の中の独立した空間と時間の流れについて考えるようになり、現実空間上に垣間見える虚構性を示すために、絵画空間の持つ虚構性を生かすことを試み始めました。(ここで言う「絵画の中の独立した空間」とは、遠近法や平面状の絵画空間の話ではなく、その絵画の中にある秩序や辻褄のようなものです。)
直接的に同じ場所には無くても、同じ秩序をもった空間を扱った作品を選んで展示しています。

<掃除当番>
2018 / キャンバス、油彩 / 1167 × 910mm

Q3:この展示を計画・準備している際の、印象深かったことや苦労したことはありますか?

正直言うと、今まで新作展や旧作展といった種類の展示をどこか敬遠していて、自分が個展をする際は必ず1つのコンセプトに向かって制作していくようにしたいという願望がありました。
でも今回自分が旧作展をすることになり、手元にある限られた点数の中から作品を選び取り、作品内の空間の法則性に従いながら実空間に散りばめていく過程を踏んだことで、自分の作品への理解がより深まったと思います。
私は作品の設置を、作品内の空間を拡張するために利用します。具体的に言うと、標高や広さ、役割など、作品が持つ場所の性質に従って配置することが多いのですが、今回その作業の中で、それまで意識してこなかったもの同士の関係性や、隙間にある空間が見えるようになってきた、という感じです。

Q4:影山さんは2019年に武蔵野美術大学大学院をご卒業され、現在は城南島にある共同アトリエで制作をされているとお聞きします。環境の変化と共に制作も変化がありましたか?

現在制作場所としているアートファクトリー城南島(https://www.artfactory-j.com/)は、企業主体の大所帯のスタジオなので、空気感は大学とあまり変わりません。ただ、城南島という場所の特殊さは制作に良い影響があると思います。風景が本当に魅力的で、スタジオに通いだして1年以上経った今でも、見飽きるということが全くありません。
都心にある自宅から郊外にある武蔵美に通っている間も、自宅の周りと武蔵美の周りの風景が結びつかなくて、毎日別の世界にワープしているようなくらくらする感覚があったのですが、今の城南島も全く同じです。それまで土地の分類に関して、都会・田舎・郊外くらいしか認識がない貧しい状態だったのですが、城南島に来てからそれが広がりました。
城南島は工業地帯なので、そこら中にコンテナの山があり、トラックが往来する車道は整備されているのに、歩道は藪とゴミに埋もれていたりします。昼と夜・平日と休日のギャップが激しい点はオフィス街のようなのに、山と海両方の臭いがします。
私は常々、都市環境について、生身の人間が歩き回れない場所だというネガティブな思いを反芻し続けているのですが、夜の城南島を歩いていると、トラック=巨大生物の島をちっぽけな人間がコソコソ歩いているという気分になり、逆に愉快になってきます。
まだ分析しきれていないのですが、私の作品は周りの風景の影響をダイレクトに受けるので、確実に作品内のモチーフや空間認識に反映されてきていると思います。

Q5:来年2月に控える個展は本個展とはどのような関係になりますか?ご自身のキャリアの中でどのような位置づけ、どのようなインパクトがあると思いますか?

今回の個展で、制作スタンスや根深いところにある興味について再考することが出来、一区切りがついたので、2月の個展は新しいアプローチに移れたらと思っています。今まではずっと、自分の制作の大きな部分を伝えようとしていて、焦点を絞るのが下手でした。しかし根底にあるものは変わらなくても、それに通じる末端の興味は常に変化しています。
次回はアウトプットの範囲をぎゅっと狭めて、ちょうどテレホンカードの穴から景色を覗き見たときのように明瞭な見え方の展示を作りたいです。

写真:加藤健

開催概要

タイトル:MOEKO KAGEYAMA 2014-2019
会期:2020年7月18日(土) -8月1日(土) 12:00〜17:00
休廊:日曜日・月曜日・祝日
会場:MARUEIDO JAPAN(港区赤坂2-23-1アークヒルズフロントタワー1F)
http://marueidojapan.com/info/exhibition/moeko-kageyama-2014-2019/
在廊日:8月1日(土)
※感染予防のため事前アポイントメント制

<予約方法>
来廊時、Peatixもしくは下記のメールアドレス・電話番号より要事前予約。
【Peatix】
https://moekokageyama-2014-2019.peatix.com
【E-mail】
info@marueidojapan.com
【電  話】
03-5797-7040 (12:00-17:00、日月祝を除く)

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影山 萌子|Moeko KAGEYAMA

1994 東京都生まれ
2017 武蔵野美術大学 造形学部油絵学科油絵専攻 卒業
2019 武蔵野美術大学大学院 造形研究科修士課程 美術専攻油絵コース 修了
 
個展
2020 「KAGEYAMA MOEKO 2014-2019」MARUEIDO JAPAN(東京)
2018 「モニュメンタル・パーク」コート・ギャラリー国立(東京)
2016 「発光体として」TULLY’ S COFFEE表参道ヒルズ店 (東京)、「声息地」GALLERY b.TOKYO (東京)
 
グループ展
2020 「ドローイング展 16 アーティスト」LOKO GALLERY(東京)
2019 「WHAT DO YOU THINK?」福屋八丁堀本店(広島)、「FIND YOUR ART FOR CHRISTMAS」 MARUEIDO JAPAN(東京)、「OPEN STUDIO 2019」ART FACTORY城南島(東京)、「UMARTs2019」JRA競馬博物館(東京)
2018 「Triadic Surfaces」LOKO GALLERY(東京)、「UMARTs2018」JRA競馬博物館(東京)、「MDP GALLERYアートフェスタ」MDP GALLERY(東京)
2017-18 「理化学研究所横浜地区展示プロジェクト2017」理化学研究所(神奈川)
2017 「UMARTs2017」馬の博物館(神奈川)、「第4回 未来展 ー美大の競演ー」 日動画廊(東京)、「東京100人展」 MDP GALLERY(東京)、「TENGAI3.0 東京展 」hpgrp GALLERY TOKYO(東京)
2016 「TENGAI3.0 」hpgrp GALLERY NEW YORK(ニューヨーク) 
2015 「ヒロシマシティアパート」Block House(東京)

賞歴
2019 「アートアワードトーキョー丸の内」審査員賞(木村絵理子賞)、「FACE展 2019」入選
2017 「三菱商事アート・ゲート・プログラム」奨学生、「第4回 未来展 ー美大の競演ー」特別賞
2016.17 「上野の森美術館大賞展」入選
2016 「第3回 CAF賞」入選

アートフェア
2019 「ART TAIPEI2019」台北世界貿易中心(台北)、「ART OSAKA2019」HOTEL GRANVIA OSAKA(大阪)

Contemporary Art Foundation