8月23日から11月24日まで、東京都現代美術館にて開催中の「開館30周年記念展 日常のコレオ」に大和楓さんがご出展されています。大和さんはCAF賞2024(https://gendai-art.org/caf_single/caf2024/)で優秀賞を受賞、金沢美術工芸大学を卒業後、沖縄を拠点に活動されています。個人のしぐさや行動が社会の姿を映し出すものとして捉え、観光産業や政治的文脈のなかで消費される踊り、日常のなかに埋もれた些細な身振りに内在する「型」に注目し作品制作を行なっています。本展を中心に、現在の活動についてお話をお伺いしました。
--「日常のコレオ」展、拝見しました。大和さんがこれまで取り組んできた、「身体が巻き込まれてきた、歴史的・政治的・文化的な構造を問い直す」というテーマにまさに重なる内容の展覧会でした。
大和:最初、ワークショップを開催するという形で本展へ参加のお話をいただきました。日常のコレオでは展示以外で表現や鑑賞の幅を広げるという意味で、たくさんのパフォーマンスとワークショップが開催されます。私は、沖縄県の辺野古新基地建設反対の座り込み(*1)について考える、というワークショップをしようと計画していました。打ち合わせのなかで、キュレーターの方から「装置そのものを展示しつつ、ワークショップも企画する、の両方で見せた方が伝わりやすい」と提案をいただき、今回の形になりました。その時には今夏していた京都の個展の話も進んでいたので、人生でこんなに大事な展示が重なることがあるんだなと嬉しい驚きでした(笑)。
今回出展している作品の装置本体は、《Three types of exclusion》(2024)という作品をもとに作られています。《Three types of exclusion》では、異なる時期の新聞記事の写真から、人が排除される様子を参考にしていて、その状況に近い姿勢を取る装置が作られていました。報道では「機動隊が市民を排除する」という言い方をされますが、実際に現場に同行したり、さまざまな方に話を伺う中で、これは単に排除という言葉では表しきれないな、という認識が芽生えて、作品をもう一度はじめから作り直しました。
「日常のコレオ」展より、大和楓《仰向けで背負う》
本展ではアルミニウムの装置の他に、新しくドローイングを描いています。このドローイングは、実際に抗議に行かれている市民の方から、過去のお話を伺った出来事を描いています。お話を伺うと写真を見せてくださるケースが多いです。あの時はこういう道具を使っていたとか、カヌーで抗議をする(*2)時は必ず事前に全員訓練を受けてからカヌーに乗るとか、そういう具体的な話をする時も写真を見せてくれました。見せていただいた写真がどれもすごく良くて、これをどういう風に作品として形にできるかを考えていました。そんなとき、琉球新報本社1階エントランスで、沖縄戦をテーマにした「沖縄戦の絵」展がありました。見ていて写真には写らない言葉の感覚や空気を、絵でこそ伝えられるのだと気づきました。辺野古の抗議行動についても、たくさんの見せていただいた写真を絵にして表現したいと思いました。
辺野古新基地反対の座り込みの抗議自体は2014年に始まり、今年で11年になります。継続して抗議を続ける人、やむを得ず離れた人、排除に関わる機動隊など、様々な方から話を聞き、絵にしました。
2025年9月16日現在の辺野古の新基地建設工事の様子(撮影:大和楓)
この作品は《Three types of exclusion》にドローイングを加え、新たに《仰向けで背負う》としました。抗議者が仰向けに機動隊の人を背負っているように見え、このタイトルをつけました。「背負う」というキーワードも、身体動作のことを指すだけでなく、「問題を背負う」という意味で、この問題は本当に沖縄に住んでいる人だけが背負うものなのか、ということを考えています。東京都現代美術館で展示させていただくということは、東京を中心とした生活圏にいる鑑賞者に見ていただける機会であるわけで、問題を考える主体は沖縄ではなくて日本なのではないか、という意味で、ここで展示をさせていただける場所の意味も「背負う」という言葉に込めています。
--辺野古の座り込みについてのワークショップは10月に予定されていらっしゃいますが、どのようなことをされるのでしょうか。
大和:10月のパフォーマンス&アクティベーションワークショップについてはまだ内容は考えている途中ですが、座り込みについて深く考える機会を作りたいと思っています。座り込みの行為を単純に再現するのではなく、そこに伴う身体の緊張や重さを通じて、抗議や現場の現実を考える契機になってほしいです。
現在の辺野古新基地抗議行動。最後の写真は実際抗議行動に参加した大和が機動隊によって排除されている様子。(撮影:大和楓)
--今回は同じ時期に京都で個展も開催しています。
大和:はい、京都の立命館大学国際平和ミュージアムという、過去・現在の戦争について学んで平和を考えるミュージアムのギャラリーで展示をしています。本展をキュレーションしてくださった長谷川新さんが、ミュージアムが企画案を募集しているのを見つけて誘って下さいました。実は私が作品で語っている、沖縄戦で捕虜となった私の祖父は、かつて立命館大学に在学をしていた背景もあって、なんだかご縁を感じました。
この個展は一枚の写真が起点となっているのですが、その写真では、捕虜が首を垂らして頭に手を乗せていて、顔が見えないようになっています。日本軍捕虜ではあるのですが、日本人なのか、日本統治下で日本軍に徴兵された朝鮮人なのかもわかりません。この写真を見たときに、この人は写真に写りたくなかったのかもしれないと考えました。
この捕虜は「生きて虜囚(りょしゅう)の辱(はずかしめ)を受けず」という当時の考え方の中で、捕虜になってしまった自分を恥じているのかもしれないし、ただ疲れているだけなのかもしれない。実際にどうだったのかはわかりませんが、私にとっては、顔が隠れていることが、記録として残されたくない・自分の存在を守るためのポーズに見えました。
でも、80年後に、私がこうしていとも簡単にその写真を見ているわけです。米軍がただ記録として撮っただけかもしれない写真とはいえ、その状況の危うさを思うと、展覧会でも、写真は重要な意味を持ちます。そのため、あえて写真を直接見せずに構成しようと考えました。
《リンク先参照:沖縄県公文書館所蔵・捕虜について写真》https://www2.archives.pref.okinawa.jp
大和楓個展《シッティング・イン・ザ・タイム》
大和:この映像作品では、私がさまざまな場所でトランポリンを飛び、飛び跳ねた時の最高到達点で写真の捕虜の姿勢をとろうとしています。この捕虜の写真が撮られた場所は、沖縄県公文書館の原文には「OROKU , OKINAWA」(現:沖縄県那覇市)と書いてあるんですが、今のグーグルマップみたいに小禄のどこなのかというのがネット上で詳細に出てくるわけでもなく、捕虜収容所の近くで撮られたのか、別の収容所なのかもわかりません。でも場所がわからないからこそ、捕虜がもしかしたらいたであろう場所の全てで飛んでみたら、80年前の彼がいた同じ場所で、同じ姿勢を取れるかもしれないと考え、捕虜収容所跡地を巡って映像にしています。
祖父の捕虜名簿を見ると、1946年10月に復員の記録が残されていて、捕まってから復員できるまでの期間が長く、その期間はいつ自分が故郷に帰れるのか全く分からない不安の中にいたと思います。
トランポリンを飛んでいる時の浮遊感は足が地についておらず漂っているようで、米軍に撮られた写真の一瞬を言い表すのに、近いものがあるのかもしれないとも思いました。
また展示室では、ぽよぽよ新聞9月号の特別版として、捕虜収容所に関する調査内容を置き、来場者の方が手に取って読めるようにしています。
ぽよぽよ新聞9月号特別版
--大和さんの作品は、装置を使う作品が多いです。装置を使う、作る理由は何でしょうか。
大和:新しい体験を作りたいという理由があります。遠いところにある出来事を、どのように身近に考えられるのかと考えた時、やっぱり実感が必要なのかなと思いました。自分で体を動かして理解することは、受け取り方や考え方が深く記憶に刻まれます。
私は幼少期、徳島県で阿波踊りを踊っていました。その経験も、制作に影響があるかもしれません。阿波踊りを習得するには日々の訓練が必須で、阿波踊りの協会に所属して1年を通して毎週練習日があります。私は女踊りをやっていましたが、私は癖で腕を後ろに大きく振って踊ってしまうことがよくありました。そうすると、女踊りのリーダーの方が袋に入った篠笛を持ってきて、腕が後方に行きすぎないようにそっと支えながら、踊り方を綺麗に見えるように訓練してくれました。それを続けていくと、やっぱり体が自然と覚えていくんです。踊りというのはその踊りになるための文脈や、踊りを後世に継承していく一員としての踊り手が存在して、一部を切り出すだけで簡単に出来上がるものではありません。人から人へ踊り方が伝わっていくときに、私の腕が後ろにいきすぎるというような(エラーに見えるかもしれないことなど)新しい踊りのエッセンスが入って、それが従来の踊り方とどう違うのかということを議論したり考えていく過程で、形がないものがどんどん継承されていくと思います。装置は、形のないものごとをそっと支え、次へ手渡していくための存在だと思っています。
手前左から二番目が大和(撮影:大和楓の母方の祖父・長山義彦)
--今月9月末まで、アンテルーム那覇でも展覧会に参加されていました。
大和:アンテルーム那覇の展示は、CAF賞2024で展示させてもらった作品《Flip the paper near the chin》を再構成して展示していました。装置にならってそっと柔らかく新聞をめくると、自然と沖縄のカチャーシー(*3)の所作に近い動きができる作品です。CAF賞の時に出した展示の紙面は自分で作った記事で構成されていましたが、色々な意見をいただきもう少しもう少し感覚に訴える形にしてもいいのかなと思い、アンテルーム那覇での展示は紙面を変えています。
沖縄の米軍キャンプのゲート前にはオレンジのラインが引かれています。ラインを超えると基地の内になるため、超えた場合、警備員に拘束される可能性があります。私はキャンプシュワブのゲート付近のアスファルトを写真に撮って拡大したものを、装置のオレンジのバンドで挟み、道路を再現しています。また、鑑賞者が新聞のアスファルトを優しくめくると、新聞の裏面に印字されているイソヒヨドリが飛ぶという仕掛けを作りました。
《Flip the paper near the chin》2023/木材、新聞紙、バンド
ぽよぽよ新聞2025年9月号
--新聞のお話が出ましたが、大和さんは展示作品の他に、長く手書きの新聞「ぽよぽよ新聞」も発行されています。
大和:大学1年生の時から書き続けていて、もう5年くらい継続しています。最初の方は韓国に住んでいる仲の良い友達に、手紙を送る代わりに新聞を送ろうとか、ほとんど遊びみたいな感じで始めたんですが、そこからハマってしまって続けています。
展覧会に出展する作品は、年単位とかかなり時間をかけて制作することが多く、始めるのも形にすることもすごく難しい作業なんですが、私にとって新聞は自由研究のような制作物なんです。「ぽよぽよ新聞」は毎月書いていて、そして毎月書くことが大事で、集めた情報や感じた出来事などを、見出しや副題をつけて文字数を限定して整理しながら書き出していきます。ダラダラと喋らないようにする練習みたいな感じで、スッキリしていくんです。お弁当を作っているような感覚で、さまざまな物事を考える上で大事なツールになっています。「ぽよぽよ」と名付けているのは新聞で発信する内容も新聞も硬い名前だととっつきにくいかなと思って、やわらかそうなかわいい名前をつけています(笑)。
沖縄慰霊の日、平和祈念公園に灯された平和の火(撮影:大和楓)
--大学をご卒業された後、沖縄に拠点を移されました。沖縄にいったことで、何か作品に影響がありましたか。
大和:私の場合は日本軍捕虜の語りについてどんどん慎重になっています。今回の京都の個展もそうですが、日本軍捕虜に焦点を置いているので、ものごとを丁寧に喋らないと日本軍による民間人虐殺を肯定している表現にもなり得ます。そこがすごく難しいです。
いろいろ取材をしていても、本当はどう思っているのかわからない方もいて、たとえばなんですが、私が日本軍捕虜であった祖父の話をしているときに、聞いてくれているその相手はもしかしたら集団自決をした方の子孫であるかもしれないわけです。誰がどういうバックグラウンドを持っているはわからないわけで、でも、結局私は全てを具体的にお話しすることでしか議論ができないと思っていて、私はどういう人で、どんな関心を持っていてと、そこを踏まえた上で戦争について話をするというのが自分にできる態度なのかなと思っています。
立命館の個展のタイトルは《シッティング・イン・ザ・タイム》なんですが、その作品を沖縄で発表することがあるとしたら、それは本当に実現できるのか、と考えたりします。沖縄は、語らないといけないことがたくさんあって、慰安婦の問題や民間人虐殺、基地問題だったり、ずっと問題を抱えてきて、語らないといけないものがいっぱいあります。その中で私はこれからも真剣に、誠実に捕虜の史実について向き合っていきたいと思いました。
(*1)沖縄県・辺野古新基地の抗議行動とは、普天間飛行場を名護市辺野古に移設する計画に対し、基地建設による環境破壊や住民生活への影響、基地負担の不均衡などを理由に、工事の即時中止や計画そのものに反対する市民が、現地で座り込みや海上行動などの抗議活動を行うこと。
(*2)カヌーや船に乗り、工事現場に近づき、海を守るためのシュプレヒコールや旗を掲げた基地移設への抗議行動。
(*3)カチャーシーとは「かき混ぜる」の意味を持つ沖縄の即興踊り。結婚式や選挙、祭りなどの集まりの最後に踊られることが多く、決まった振り付けがあるわけではなく、左右の手のひらを自分の顔の付近で左右に大きくこねて自由に踊る。
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開催概要
開館30周年記念展「日常のコレオ」
会期:2025年8月23日(土)〜11月24日(月・振休)
開廊時間:10:00-18:00(展示室入場は閉館の30分前まで)*8・9月の毎金曜日は21:00まで
会場:東京都現代美術館企画展示室 1F/B2F、ホワイエ ほか
入場:一般2,100円(1,680円)/大学生・専門学校生・65 歳以上1,100円(880円)/中高生500円(400円)/小学生以下無料
https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/30th-Anniversary/
ANTEROOM TRANSMISSION Vol. 5 -トライフルの複層 *会期終了
会期:2025年8月23日(土)〜9月28日(日)
開廊時間:9:00-21:00
会場:GALLERY 9.5 NAHA(ホテル アンテルーム那覇2階)
入場:無料
https://okinawa-uds.co.jp/exhibition/exhibition-15113/?loc=cat_loc_anteroom&hotelSort=cat_loc_anteroom
大和 楓 | Kaede YAMATO
1998 徳島県生まれ、沖縄県拠点。
個展
2025 「シッティング・イン・ザ・タイム」立命館大学国際平和ミュージアム(京都)
グループ展
2025 「1998_oid」LURF GALLERY(東京)、「NEW Days」Art Center NEW(神奈川)、「国際的非暴力展 #SUM_MER_2025 @sum_mer_2025」京都市立芸術大学ギャラリー @KCUA(京都)、「ANTEROOM TRANSMISSION」アンテルーム那覇(沖縄)、「日常のコレオ」東京都現代美術館(東京)
2024 「金沢美術工芸大学 卒業・終了制作展」金沢21世紀美術館(石川)、「卒展セレクション」金沢アートグミ(石川)、「蠢」東京造形大学CSLAB(東京)、「CAF 賞 2024 入選作品展覧会」代官山ヒルサイドフォーラム(東京)
2023 「原っぱ運動会 2023」 犀川河川敷(石川)、「めくる、くぐる」クマ財団ギャラリー(東京)
2022 「人間地図 1998715 福士りさ +19981113 大和楓 」アートベース石引(石川)、「oterart オテラート金澤」高源寺(石川)、「It’s funny to see how this conversation is going when it’s not going/この会話が成立しているか分からないのに、この場が進んでいるのはおかしい」芸宿(石川)、「Play pianist 金沢大学ピアノの会定期演奏会」石川県立音楽堂(石川)
2021 金沢彫刻祭 2021「健やかであれ」香林坊地下街(石川)
2020 「Coexist II 2020」GALLERY ART POINT(東京)
賞歴
2024 「CAF賞2024」優秀賞
2023 「公益財団法人クマ財団クリエイター奨学金7期生」採択
2022 「徳島市阿波おどり公式アンバサダー」認定、「三菱商事アート・ゲート・プログラムスカラシップ奨学生」採択
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