INTERVIEW

Artists #22 大西晃生

今月4日より、大西晃生さんが東京・Gallery KTOにて個展を開催されています。大西さんはCAF賞2018(https://gendai-art.org/caf_single/caf2018/)で入選、現在は東京を拠点に作家活動をされています。今年の1月に同ギャラリーにて、匿名的な顔を紙に印刷し、それを圧縮したものを描く"still life"を発表、本展ではどこかに存在するであろう人の姿を「組み立てる」”paper craft(human)”シリーズを発表しています。今回は大西さんのご経歴や制作活動についてのお話を伺いました。

--大西さんはCAF賞2018で入選されました。CAF賞はありがたいことに、あらゆる美術系の教育機関にご在籍・ご卒業の方からご応募いただきますが、大西さんの出身校である京都精華大学の方からのご応募は割合として低いというのが正直なところあります。ご応募いただいたきっかけはなんだったのでしょうか。

大西:僕は入選当時、京都精華大学の学部の3年生でした。いろいろコンペに挑戦してみようと思っていた時期で、CAF賞だけでなく他のコンペにも出していました。京都精華大学は洋画や立体造形といった専攻の方ももちろん在籍していますが、「漫画学部」に特に力を入れているというのもあって、(応募数が少ないというのは)そういった影響もあるのかもしれないです。他には人文学とか音楽表現など、そういった専攻もあったりします。
僕はデザイン学部イラストコースに在籍していました。僕は以前から漠然と「絵を描きたい」という気持ちが強くあったんですが、いわゆる<洋画>や<日本画>という括りで、技法を覚えてスタイルを作っていくいうことに違和感のようなものを感じていたんです。美術系の進学先を考えていた時に、大学の先輩であり卒業生にあたる方の中に、西雄大さんやNAZEさん、三重野龍さんがいらっしゃるということを知り、自由な作風の方が多くて、ここなら自分にあった制作ができるかもと京都精華大学に進学することにしました。

京都精華大学在学時に作られた大西の作品 (上)写真課題 、(下)<無駄骨(関係)>(2017)

--確かに、京都精華大学のご出身の作家さんは特定の型にハマらない、独自のカッコイイスタイルをお持ちの方が多いですね。

大西:そうですね。とは言え、西さん、NAZEさん、三重野さんのような自分たちよりも上の世代のアーティストが作り上げてきた、ストリートやグラフィティの文化みたいなものを、次の世代である自分たちがそのまま受け継いでいくのはちょっと良くないなと思っていたりもします。
学部時代は僕ももちろん先輩方の影響を受けて、ライブペイントをしてみたりとか、ストリートカルチャーを模したような活動もしたんですが、どうやってもそのまま先輩の真似をする形になってしまっていることが危うく思えてしまっていました。試行錯誤して自身のスタイルを模索していた時に、<現代美術>というものがあるんだと知って、ストリートの方向ではなくて現代美術の中で開拓していった方が、自分には良いんじゃないかなと舵を切っていきました。

--当初から現代美術に興味があった、というわけではなかったんですね。

大西:はい、途中で見つけたものでした。僕の美術の入り口は、純粋に「絵を描きたい」気持ちのみでイラストレーションから入ったので、美術大学に進学したものの、美術の歴史をよく知っていたわけではないし、どちらかと言えば何もわからない状態でした。
僕の祖母が絵を描いている人で、小さい時から絵が身近にある環境だったこともあり、自然と自分も絵を描くようになっていったんです。僕は勉強もあまり好きではなかったし、漫画とかも好きだったんですが、話を考えるみたいなことも苦手で、でも<画家>っていうのも違うな、とか(笑)。そういうこともあって、さっき少し話しましたが、大学はいわゆる「絵画」みたいな括りではない、絵を描ける場所を探して選びました。僕はAO入試で入ったんですが、試験は紙芝居が課題でした。簡単にストーリーを考えて、プレゼンの能力や画力などを見られていたと思います。着ぐるみを着て受験する人もいたり、いわゆる美大受験とはまた形式が違っていましたね。

--大西さんは現在は東京が拠点とお聞きしましたが、いつ京都から移られたんでしょうか。

大西:2019年の大学卒業後に、就職の関係もあって東京に来ました。当初は絵一本で食べていけると思っていなかったので、働きつつ制作できたらと両立の道を選んだんです。デザインの仕事で生計を立てつつ制作をしていたんですが、実際やってみると、めちゃめちゃしんどかったですね(笑)。月曜から金曜まで働いて、デザインの仕事なので定時で帰れるとかでなく、仕事が終わったら帰れる、という感じで終電で帰れたらラッキーでした。その仕事が終わって帰宅後に深夜まで自分の制作をして、それでいて次の日も朝から仕事とかで身が持たないですよね。そんな生活を続けているうちに、仕事と制作の両立が厳しくなってきて、会社にも自分の制作にも支障が出てきそうだったため、制作一本に絞ろうと決断しました。

--作家活動一本にシフトする決断は、コロナ禍ということもあって容易ではなかったでしょうね。

大西:最初はコロナ禍の影響もあって不安ではありましたが、仕事と制作を両立していく方が僕にとっては精神的に辛くて、決断する時は腹を括っていました。作家活動に専念してからは、京都のつながりから関西でも多くの展示をやらせていただきました。京都のつながりというのも僕が意図的に根を張って作っていたわけではなくて、「作品ができたら発表したい」という気持ちで、学部時代から京都の貸しギャラリーなどを自分で開拓し、友達と一緒にグループ展を重ねていったりして、そこからコネクションを作っていきました。
僕が在籍していたデザイン学部は、ZINEやグッズを作って発表したりする人はいても、展示をするという意識がある人が少なく、同じ大学でファイン系の勉強をしている学生が、デザイン出身の僕の展示に興味を持ってきてくれて、そこから繋がっていく、みたいなこともありました。

京都での展示<ひきずる>(2017)の様子

僕は東京に出てきて今年で3年目なんですが、東京での活動環境はまだ全然落ち着いた感じがしません。東京に出てきてすぐ家を借りて仕事してというバタバタがあって、気がついたら2年も経っていて、それで会社も辞めてとかもあったりなのでまだまだ落ち着いていないです。

--では、今回の個展は東京の活動においてのステップの一つですね。

大西:実は以前に、東京・江東区にある「プライベイト」という貸民家で行われたグループ展に誘われて参加しました。その展示のアシスタントキュレーターをされていた方が、このギャラリーKTOのオーナーと知り合いだったという経緯があります。その展示で僕の作品をオーナーに見ていただいて、気に入っていただき、それからこちらでの展示に繋がっていきました。

東京・江東区「プライベイト」での大西が参加した展示<孤独と連帯>(2019)の様子

プライベイトでの展示も様々なご縁があっての実現でした。最初、「ZINEを交換し合う」イベントがプライベイトで行われていて、そのイベントが面白いなと思って僕も参加したんですが、その開催時にグループ展のキュレーターの人が来ていて、そこで展示に参加しませんか、と声をかけていただきました。
このギャラリーKTOでの個展は2回目で、今年の1月にも開催しました。

--前回1月の個展と今回の個展と、どのようなテーマで展開されていらっしゃるんでしょうか。

大西:これまでは ”still life" 、タイトル通りの<静物画>として、クシャクシャにした紙を紙の上に置いて撮影したものを描く、ということをやっています。その点は前回も今回も変わっていなくて、大きく変わった点は背景の処理を変えたり、キャンバスの厚みを変えたりしたところです。キャンバスに厚みを加えたのは、モチーフが紙ということもあってペラペラなものなので、その表面性をキャンバスを厚くすることで相反的に際立たせられないかという、実験的な側面もありながら仕上げました。

ギャラリーKTOでの本年1月の個展 <still life> 展示の様子
写真:studio wo

"still Life"のシリーズの方は、静物画なので、どっちかというと背景まで描いてしまうというか、画面全体を描いていましたが、今回の "paper craft" というシリーズはモチーフのみに目がいくように、ホワイトキューブの特性を参考にして、外部から遮断をし、鑑賞するものだけに目がいく構造を意図的に作りました。様々なシチュエーションで撮られているストック・フォトを収集して、そこから人間部分だけを切り出し、文脈を分断するような形で白い空間に放り投げたという感じです。

--ここで描かれている人間は特定の人ではなく、ランダムに選ばれた見知らぬ人々なんですね。

大西:そうですね。1回目の "still life" の頃はもっとランダムで、作品の中に人種や年齢、性別とかもバラバラにしていたんですが、だんだん自分のモチーフの選び方に基準がないというのはどうなんだろうと思うようになって、一つの基準として、自分と近いイメージに絞ろうと思い、今回の個展では年代も人種も近い被写体を選びました。彼らを紙に印刷してクシャッとして、そのものと向き合いながら写真を撮る、という形で制作をしています。
モチーフは必ずしも人でなくてもいいなとは思っているんですが、僕の継続的に考えている問題意識として、人間の複雑な感情とか内面とかに対して、社会や他者に対する表面的な部分を一つのことで表せないかなと。それがそのまま自己とか他者とかになっていくのかなと思っていて、今の段階では僕の作品は人間がモチーフになりやすい、と思っています。

ギャラリーKTOで現在開催中の個展 <paper craft> の様子

--最近制作している作品の中には、人形に大西さんがお持ちの服を着せて、ご自身のポートレートのような形で描かれている作品もありますね。

<タイトル未定> 2021 / キャンバスにアクリル

大西:今ちょうど新しい作風を模索している時期でもあって、今まではコピー用紙にモチーフを印刷して、撮影が終わったら捨ててしまっていたんですが、そのビニールの人形の方は誰かが空気を入れないと自立しなくて、<他者と接点がないと自立しない存在>としての自分みたいなものを描いていて、自分の中の問題意識が変わってきているんですが、継続的に人間の問題の一環として作った作品となっています。

--映像作品も作られていますね。

大西:とてもパーソナルな作品なんですが、僕がもし女性として生まれていたら付けられた名前、というのがあったと母から聞きました。名前は「叶恵(かなえ)」と言うんですが、それをずっと記憶していて、それって、存在しないもう一人の自分とも言えて、その存在について考えてみたいというのが作品を作ったきっかけでした。それは僕が継続的に進めている絵画作品とは別に、映像作品として考えたくて作りました。絵画作品と映像作品が全く別物か、というとそういうわけでもないんですが、共通する点としては<叶恵>という人物になってみようと思って、僕が今付き合っている人にお願いして化粧をしてもらったり、カツラをかぶったりして、表面的な部分で女性的になる実験をするいう意味で、人から見られている自分と本当の自分のズレみたいなことを表したりもしています。

--CAF賞2018の時にお出しいただいた作品も確か自己と他者の認知のズレのお話でもありましたね。

CAF賞2018入選作品「portrait」
写真:木奥恵三

大西:そうですね。CAF賞の作品はSNS上での話でした。SNSによって、見る、見られるという関係を多くの人間が強く意識するようになって、本来の自分とは違う、演出され奇形化した自分というものがSNS上に存在しているのではないか、他者はその演出された自分をSNS上で見ているのではないか、というステートメントでした。
その映像作品では僕の母親と、昔からの男性の知人と、今お付き合いしている女性の3人にインタビューしていて、母親には「もし自分が叶恵として生まれていたらどのように育てたか」という話を聞いて、知人には人形を集める趣味があって、女性の形をした人形を大事にしているんですが、その人形に愛情を注ぐというのはどういうことなのかを聞いたり、お付き合いしている方には「いつから化粧を始めたのか」を聞きながら、自分が化粧をされるという3本柱で撮っていて、そのインタビューから何か答えを出すとかではなく、普通に会話をするような形で話を進めていき鑑賞者に考えてもらう、という作品に仕上げました。ドキュメンタリーに近い感じです。

<Three Mirrors>2020 / 映像 / 10分

--大西さんは現代美術が作家活動の出発点ではなかったとのことですが、様々な変遷がある中で影響を受けたアーティストはいらっしゃいますか。

大西:石田徹也さんですね。彼は30代で若くして踏切事故で亡くなってしまった作家なんですが、僕が中学生くらいの時にその人の画集を買って、少なからず影響を受けているように思います。人間が物のようになっていたりとか、そんな感覚は彼の作品からの影響が根底にあるような気もします。

--今後の作家活動はどのように展開されますか。

大西:最近都内にアトリエを構えたので、今までどうしてもスペースの問題もあって作品自体が小さくなりがちだったんですが、今後は大きな作品も作っていきたいです。大きいものに挑戦することで自分の作風もまた変わっていくのではと思っています。海外にいって活動の幅を広げていくということもいずれはしたいですが、まずは自分の制作スタイルの確立、というのを深めていきたいと思っています。会社も辞めて作家活動一本に絞ったこともあるので、腹を括って頑張るぞ、という気持ちが大きいです。来年の頭には都内でまた発表の機会があるので、そこに向けて尽力していきます。今回の個展は会期が延長されましたので、こんなご時世ではありますが、たくさんの方に見にきていただきたいです。


開催概要

タイトル:大西晃生「paper craft(human)」
会期:2021年9月4日(土)~2021年9月28日(火)13:00〜18:00
  *水、木、金曜は休廊。
会場:Gallery KTO(東京都渋谷区神宮前4-25-7コーポK-103)
https://www.gallery-kto.com/exhibition

大西晃生 | Akio ONISHI

1996 岡山県生まれ
2019 京都精華大学デザイン学部 卒業

主な個展
2021 「意識のコンテナ」Alternative Space yuge(京都)、「still life 」ギャラリーKTO(東京)
2020 「live coverage」KUNST ARZT(京都)

主なグループ展
2021 「ディスディスプレイ」CALM & PUNK GALLERY(東京)
2020 「中山いくみ・大西晃生 二人展<貌>」ギャラリーKTO(東京)、「グランドクロス」京都精華大学本館ギャラリー(京都)
2019 「ALLNIGHT HAPS 2019 後期 Kangaru」HAPS(京都)、「孤独と連帯」プライベイト(東京)
2018 「CAF賞2018」代官山ヒルサイドテラス(東京)

賞歴
2020 「シェル美術賞2020」入選
2018 「CAF賞2018」入選

Contemporary Art Foundation