INTERVIEW

Artists #3 村井祐希

MAHO KUBOTA GALLERYでは現在、村井祐希さんの個展『ゆらいむうき』が開催されています。
村井さんはCAF賞2015(CAF賞2015:https://gendai-art.org/caf_single/caf2015/)で、捨てられていた絵の上に震災で出た廃材置き場の風景を描いた平面作品《small hill》を発表し、<優秀賞>を受賞されました。今回の個展では、絵画における「身体性」についてのステレオタイプな言説を超えた大作の「動く絵画」、そして「運動体をともなった絵画」など、規格外の作品によるインスタレーションをはじめとした圧倒的な熱量の作品群が出現します。
全身芸術家として自らの絵画を探求し続ける村井祐希さんに、本展についてお話を伺いました。

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Q1:今回の個展「ゆらいむうき」では、どのような作品を展示しているのでしょうか。

主に絵画です。動かせるものや匂いのするものもあります。

Q2:展示されている作品には、ロープに実際に触れて動かすことのできる「動く絵画」や「運動体をともなった絵画」などがありますが、「身体性」をキーワードにした作品はどのようにして生まれたのでしょうか?

絵画と人間の相互関係を示す所作が身体の運動によって直接露出する「動かす絵画」をつくりました。対象同士の関わりが現実でなんらかの所作として出現するところをみて、双方のことをおもいっきり想像してみたいという欲望がありました。例えば、このインタビューが財団の方からメールで送られてきた時、複数の質問が上から下にズラリと並んていたので、学校のテストを思い出して、簡単な問題を必死で探しました。いつまで経ってもそんなものは見つかりません!結局諦めて上から順に回答していっていますが、この一連の所作を聞くだけでも、ぼくとインタビューがどの様に関わったのか一瞬で想像できると思います。身体は、関わったものとの関係性の輪郭を限りなく拡張する事ができる異常な柔軟性を持っています。そして拡張している様を「身体性」と呼ぶのだと思います。

<レイテ>
2020 / ミクストメディア / 260 x 400 x 50 cm
作品<レイテ>を動かすアーティスト

<モーリー科>
2019 / ミクストメディア / 64 x 45 x 13 cm

Q3:絵具と人間の擬似融合の実践を試みるに至った経緯をお聞かせください。

絵具とは何か!絵具は自らの像を固定しない流動性を持ちます。なので擬態の能力に優れています。しかし、絵具本体は固有の顔を持ちません。なので特定の個人としての顔を持つ画家との主従関係により最大に機能するメディウムとされてきました。絵具が今の今まで何百年も生き伸びてこれたのはこの奴隷体質によるものだと思います。しかし、どの様にその責務に耐えてきたのか気になりませんか?絵具は物質的質量を持ちます。画家が絵具をあるイメージに擬態させた後でもその質量は変わりません。変わるのはその質量に働く力がどう移動したかだけで、それは絵画のタッチや質、色で明確に現れてペインタリーなんて呼ばれたりしますが、質量の全体値は最初から最後まで変わらないのです。絵具は密かに自らの署名を質量の普遍性という形で絵画に残すことで画家のイメージに主従することを許し続けてきたのです。この関係性を破壊して絵画の伝統という牢獄から絵具を解放してみたかったのです。ヒントになったのが、制作場の周りを取り囲む山でした。山が他の環境や対象と関わった時にその境界に働く力の流れは、絵具があるイメージに擬態する時の質量移動を強調できる力だと考えました。また、夜の山は大変エキサイティングでした。ある主体の持つイメージの成立が常に脅かされる夜の山の暗闇の様な空間を絵画の中に開くことができれば、画家の設計したイメージは盲目となります。そこで、画家の指示を見失い己の姿を模索し伸縮し続ける絵具の存在が浮かび上がってきます。あなたと擬似融合することを求めて。

展示風景

<エレ M タン>
2020 / ミクストメディア / 70 x 75 x 20 cm

Q4:制作期間がちょうど新型コロナウイルスによる自粛期間と重なっていたかと思います。展示を計画・準備している際に印象深かったことや苦労したことはありますか?

オリンピックに合わせてこの展示を行う作戦でした。それでスポーツや身体をテーマに制作を行っていたのですが、途中、コロナとオリンピック延期により作戦変更…制作場にこもりっきりになり(普段もですがより徹底的に)スポーツのこともあまり考えなくなり、結果的に制作場の周りを取り囲む広大な山と向き合いながら身体について考えるといった流れに合流しました。これは、対象を一方的にみることで作られる閉鎖的なイメージとどう向き合うかという問題でもあり、世の中の状況と結びついていたのかもしれません。今回、特定のある人物をモチーフとした絵が3枚、カイロレン、プリンセス天功、レイテとあるのですが、これらの制作は上記で述べた様なテーマと密接な繋がりを感じます。カイロレンとプリンセス天功は絵のモチーフとなる人物と実際に会った事なく、YouTubeの動画だけをひたすら繰り返してみて、対象のことを妄想するといった距離感を描写するように制作しました。レイテは最大2人で動かすことのできる絵画で、ある友人の顔の仕草をモチーフにしています。その仕草がもたらす運動のイメージが絵を動かした人間の所作と絡み合いながら何度も再形成し続けることを望み制作しました。他者と関係を結んだある時間を密閉して所有してしまいたいという欲望について考えています。


Q5:MAHO KUBOTA GALLERYでは2018年に続き2回目の個展となりますが、今回の個展はご自身のキャリアの中でどのような位置づけになると思いますか?

ドラマでいうところのシーズン2をようやくはじめることができたといった気分です。

<カイロレン>
2020 / キャンバスに油彩、ボンド、毛髪、ミクストメディア / 38 x 30 x 6 cm

左 
<フリーチャック>
2020 / FRP、油彩、卵の殻 / 50 x 34 x 13 cm

<イム M ホテップ>
2020 / キャンバス、油彩、ペンキ、アロンアルファ / 28 x 22 x 3  cm

開催概要

タイトル:ゆらいむうき
会期:2020年7月1日(水) - 2020年8月1日(土)12:00〜19:00
会場:MAHO KUBOTA GALLERY(東京都渋谷区神宮前2丁目4−7)
https://www.mahokubota.com/ja/exhibitions/2383/
在廊日:ツイッターでもインスタでもなんでもご連絡いただければ可能な範囲で在廊します。

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村井 祐希|Yuki MURAI

1995 神奈川県横浜市生まれ
2013 三浦学苑にて関東卓球大会団体戦第二位
2017 多摩美術大学絵画学科油画専攻卒

個展
2018 「村井のいっぽ」MAHO KUBOTA GALLERY(東京)
2017 「Phantom to the past」ホテルアンテルーム(京都)
2016 「千年に一度のムライ」トーキョーワンダーサイト渋谷(東京)
2015 「SUPER PROMINENCE EXPRESSION!」DUST BUNNY(東京)

グループ展
2020 「ノアの安産祈願展」TAV GALLERY (東京)
2017 「TARO賞20年/20人の鬼子たち」岡本太郎記念館(東京)
2016 「Debris*Lounge」ゲンロンカオス*ラウンジ五反田アトリエ(東京)、「サイトスペシフィック疲れと、場所の憑かれ」ゲンロンカオス*ラウンジ五反田アトリエ(東京)、「CAF賞選抜展」ホテルアンテルーム(京都)、「市街劇 小名浜竜宮」清航館(福島)、「第3回未来展」日動画廊(東京)、「瀬戸内国際芸術祭2016」カオス*ラウンジ 女木島 鬼ヶ島大洞窟(香川)
2015 「前線」ナオナカムラ(東京)、「パープルームブックフェア」NADiff(東京)、「95年画廊拡張展「≠」」TAV Gallery(東京)、「カオス*ラウンジ 市街劇 怒りの日」もりたか屋(福島)、「カオス*ラウンジ7 穏やかじゃない」ビリケンギャラリー(東京)、「パープルーム大学物語」ARATANIURANO(東京)、「トーキョーワンダーウォール公募2015入選作品展」 東京都現代美術館(東京)、「第2回CAF賞作品展」3331アーツ千代田(東京)、「第18回岡本太郎現代芸術賞展」川崎市岡本太郎美術館(神奈川)

受賞
2015 第18回岡本太郎現代芸術賞 特別賞(史上最年少)、第2回CAF賞 優秀賞、平成27年度優秀学生顕彰文化芸術 優秀賞、トーキョーワンダーウォール公募2015 入選
2014 TAMA ART COMPETITIONE2014 準大賞

コミッションワーク
​ロックオンキックボクシングジム

出版物
2018 とげトゲ棘 制作: 村井 祐希/ 庄島 明源/ 野島 健一
2016 ムライブル よしむ~バーゼル書籍

Contemporary Art Foundation