INTERVIEW

Artists #1 畑山 太志

6月26日より、東京・EUKARYOTE(ユーカリオ)にて、畑山太志さんが個展を開催されます。畑山さんはさまざまな白で緻密に描き込まれた白基調の作品《在り処》でCAF賞2014<優秀賞・名和晃平審査員賞>を受賞。(CAF賞2014:https://gendai-art.org/caf_single/caf2014/)一見白いキャンバスに見えるまで色彩を削ぎ落とし、厳かな存在感のみを緻密に描きこむことによって、視覚では語りきれない身体感覚を伴う、平面でありながら空間的な体験を呼び起こす絵画として制作されました。今回の個展では、本来私たち人間に備わっている知覚の内側と向き合う原点回帰ともいえる展開として再度色彩を除き、作家・畑山さんの「素」とも言うべき白基調の絵画に取り組まれたそうです。

本展についてより詳しく畑山さんにお話を伺いました。

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Q1:今回はどのような経緯で展覧会を開催することになりましたか?

EUKARYOTE(ユーカリオ)では、ギャラリーオープン当時から作品を取り扱っていただき、たびたびグループ展に参加させていただいていました。今回はお世話になっているギャラリーで個展の機会を頂きました。

Q2:どのような作品を展示しますか?目玉作品はありますか?

私の制作では通底して、目に見えないものへの興味があります。
近年の制作では、知覚領域の外側にあるものを探ってきましたが、自身の生活や経験を振り返れば、自然や光、事物から放たれる存在感や空気感を感じ取ったり、偶然知り合いに出会ったり、そもそも普段から誰であっても、私たちの身体は直感的に目に見えないものを感じているのではないだろうかと思うようになりました。つまり知覚の外側ではなく、本来、身体が持っているはずのありのままの知覚に反応できることこそが見えない世界に触れることであるように思ったのです。
すでにある枠組みや概念でものごとを捉えてしまえば、言葉にならない経験や体験を見逃してしまうように思います。もとある身体の知覚は、私たちの気づかないたくさんの情報を交感し合っています。ありのままの知覚、素知覚に目を向けることが今回の個展のコンセプトです。

<花の生・花の死>
2019-2020 / キャンバス、アクリル / 91.0×72.7cm

ギャラリーの一階では、白い絵のシリーズを展示します。この白い絵のシリーズは、2013年頃、多摩美在学時に描いていたシリーズで、その中の《在り処》という作品が「第1回CAF賞(2014)」優秀賞・名和晃平賞を頂きました。この作品は、樹齢何百年の樹木を目の前にしたときの、目には見えないけれど、たしかに身体を通して伝わってくる空気感や存在感をどう絵にすることができるのかと思い制作しました。実際に体験した樹木の風景を黒いドローイングで描画した上から、淡い混色を施した白色の筆触で緻密に描き、図像的なものは見えづらくなっていきながら存在感や空気感が浮かび上がってくる作品です。この作品をきっかけに、CAF賞やセゾン現代美術館での展示の機会など多くのつながりが生まれました。
それ以降、自身の制作に新たな展開の必要性を感じて、白い絵の制作を一度やめて、色彩を取り入れ、別の新しい展開を5〜6年探求してきました。その制作の中で、光や絵画の体験性、触視性など、自らの制作で共通する要素や重要な点が見えてきたように思います。しばらく新しい展開を探ってきて作品の幅も出てきたので、ここでもう一度白い絵に立ち返って、このシリーズも同時並行で展開していくのは面白いのではないかと思いました。
今回はその白い絵のシリーズを改めて制作して、ギャラリーの一階では、以前から実現したかった白い絵に囲まれた空間を作ろうと思います。夏には花を咲かせていた植物が、涼しくなってきた頃に枯れはじめて、その光景に目を奪われた経験や、森の写真から目には見えない淡い青い光が空間に充満し、それが水面のような微かなゆらぎを見せていると感じた経験などをもとに制作した作品を展示します。

白い絵が自身の感覚に向き合う作品とするならば、ギャラリーの二階では、知覚領域の外側を描くペインティングの展開を展示します。
2017〜2018年頃の作品は、実際に自分が体験した、別の時間や空間に連れて行かれてしまいそうな眼底検査の光や森の風景などをもとに、人間の知覚の外側にあるものにタッチしようと筆触を重ねていくことで、具象と抽象が渾然一体となってオールオーバーで体験的な画面が立ち上がってくる作品が多かったのですが、2019年の制作では、そこから次の展開を広げて、出発点としての実際の風景を用意せずに目の前の筆触のやりとりから空間を見出していく方法などを試みていました。具体的な風景や事物といった確固たるひとつの認識から逃れ続けるような流動的な絵画ができないかと思い制作しました。

<天気図 #3>
2019-2020 / キャンバス、アクリル / 162.0×130.3cm

今回はその流れの延長で生まれた「天気図」という作品を発表します。2019年の後半以降は、具体的な風景などの出発点を用意する作品も制作していて、この作品は、大型の台風が接近する天気図を見た経験から生まれています。人間のスケールを超えた天候の有機的な動きを俯瞰的に見る視点に、宇宙のようなイメージが重なりました。ひとつひとつの筆触が生命や非生命であり、それぞれが集まって自由に空間を構築していくような感覚です。また、ここから新たな展開も試みています。

<草木言語 #1>
2020 / キャンバス、アクリル / 45.5×38.0cm

「草木言語」は、木々が土の中の根や菌糸を通じてコミュニケーションを取り合っているネットワークをウッドワイドウェブと呼ぶことを知って、人間の知覚の外側で起きているやりとりに興味を持ち制作した作品です。また、ウッドワイドウェブという言葉からデジタルのイメージも連想されて、AIによって自動生成されるアニメーションや、ウェブ上で扱われる画像などを見たときの感覚が、新しい自然として編まれていきました。今回はこれらの作品を通して、知覚の内側と外側を行き来するような展示空間を作れたらと思います。

<草木言語 #2>
2020 / キャンバス、アクリル / 53.0×72.7cm

Q3:展示を計画・準備している際に印象深かったことや苦労したことはありますか?

個展準備期間中は新型コロナウィルスによる影響で、緊急事態宣言や自粛期間と重なっていました。個展もいつ開催できるかわからない状況でした。実際、予定していた会期からは1ヶ月ほどずれ込んだのですが、開催が秋になる可能性もあったので、準備期間が増えたと思って逆に気持ちに余裕を持って作品制作に取り組んでいました。
ほとんどアトリエにいたのですが、久しぶりに外に出たときに見た、陽射しに照らされた樹木の葉の無数のざわめきに目を奪われたことが印象的です。この没入的な体験は、自分の絵画制作の原点のひとつのように思いました。葉の一枚一枚は筆触のひとつひとつのようで、それぞれの勝手気ままな動きが空間の知覚を拡散させて、把握しきることのできない没入的な触視性に連れていかれる感覚です。これは自分にとって、中西夏之やセザンヌ、モーリス・ルイスなどの絵画体験を思い出させました。
その他にも自粛期間中は、デイヴィッド・オライリーの『EVERYTHING』などもプレイしてみたりして、スケールをまたいであらゆる生命や事物に憑依、移動して環世界を体験していくゲームにはインスピレーションを受けました。

Q4:今回の展覧会は、ご自身のキャリアの中でどのような位置づけ、どのようなインパクトがあると思いますか?

前回の個展から、今回は3年ぶりの個展の機会で、この3年間で作品も変化していきました。自らの制作の原点ともいえる白い絵のシリーズと、ここ数年で展開してきたペインティングを一緒に展示することで、制作で通底してきた、目に見えないものや光、知覚などについての探究を改めて明確に示すことができればと思っています。

Q5:この展覧会の他に展示の予定があればお知らせください。

明治神宮で開催されている「神宮の杜芸術祝祭」の「紫幹翠葉 -百年の杜のアート」(7月10日〜9月27日)に参加します。
また、11月〜12月には3331 Arts Chiyodaのアキバタマビ21でグループ展に参加する予定です。


開催概要

タイトル:素知覚
会期 : 2020年6月26日(金) - 7月17日(金)12:00~19:00
※オープニングレセプションなし
定休:月曜日
会場 : EUKARYOTE(東京都渋谷区神宮前3-41-3)
http://eukaryote.jp/exhibition/taishi_hatayama_solo_ex/

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畑山 太志|Taishi Hatayama

1992 神奈川県生まれ
2015 多摩美術大学美術学部絵画学科油画専攻 卒業
2017 多摩美術大学大学院美術研究科博士前期(修士)課程絵画専攻油画研究領域 修了

個展
2017「時はぐれ」SEZON ART GALLERY(東京)
2014「畑山太志展」GALLERY b.TOKYO(東京)

近年の主なグループ展
2020「神宮の杜芸術祝祭」明治神宮ミュージアム(東京)
2019「Practice_01: 線を引く」EUKARYOTE(東京)、「HELLO my name is」EUKARYOTE(東京)
2018 「para nature」EUKARYOTE(東京)、「現代茶ノ湯スタイル展 縁-enishi-」西武渋谷店 B館8階美術画廊(東京)、「網膜と記憶のミトロジー」セゾン現代美術館(長野)、「京都アートラウンジ」HOTEL ANTEROOM KYOTO(京都)、「PREVIEW」EUKARYOTE(東京)
2017 「CYA! Modern/セイヤー!モダン 〜to the nextstage」SEZON ART GALLERY(東京)、「美藝礼讃ー現代美術も古美術も」セゾン現代美術館(長野)、「ART FORMOSA 2017」誠品ホテル・晴山藝術中心(台北)、「多摩美術大学美術学部卒業制作展・大学院修了制作展」多摩美術大学(東京)、「3331 Art Fair 2017 -Various Collectors Prizes-」3331 Arts Chiyoda(東京)、「Arts in Bunkacho ~トキメキが、爆発だ~」文化庁(旧文部省庁舎)パブリックスペース(東京)、「第40回東京五美術大学連合卒業・修了制作展」国立新美術館(東京)
2016 「CAF賞選抜展」HOTEL ANTEROOM KYOTO | GALLERY 9.5(京都)、「SEZON ART GALLERY 美大生展 in 2016」SEZON ART GALLERY/東京

受賞
2015 「多摩美術大学卒業制作展」 福沢一郎賞、「TURNER AWARD 2014」優秀賞
2014 平成26年度 日本学生支援機構 優秀学生顕彰 奨励賞、平成26年度 多摩美術大学校友会奨学生、「第1回CAF賞」優秀賞、名和晃平審査員賞

パブリックコレクション
ホテルメトロポリタン川崎、ヨコハマグランドインターコンチネンタルホテル

Contemporary Art Foundation