INTERVIEW

Artists #7 川田龍

本日より、東京・バンビナートギャラリーにて、川田龍さんの個展が開催されています。川田さんはCAF賞2015(https://gendai-art.org/caf_single/caf2015/)で入選、2018年に東京藝術大学大学院を修了され、現在は神奈川を拠点に作家活動をされています。
今回の個展は、同ギャラリーではおよそ2年半ぶりとなり、全て新作を発表されます。川田さんのご経歴から本展についてまでお話を伺いました。

--川田さんはCAF賞2015にご応募いただきました。その時CAF賞は始まってまだ2回目で、アワードとしての認知度がまだまだ低かったですが、どうやって知っていただけましたか。

川田:もともとそういった新しいアワードができたことは知っていました。そのあとCAF賞の1回目(https://gendai-art.org/caf_single/caf2014/)の入選・受賞作家が発表されたときに、知り合いや友人の作家が多く選抜されているのを知りました。(保坂健二朗審査員賞の)川内理香子さんや、(山口裕美審査員賞の)須永有さんはかつて美術予備校が一緒だったりもして、機会があったら自分も出してみようと思ってました。
同じ年に前澤さん(当財団会長・前澤友作)が五美大展(東京五美術大学連合卒業・修了制作展)に来ていて、自分も卒業制作作品を出していました。その時に当時のCAF賞のスタッフの方から、良かったら(川田さんの作品を)CAF賞に出してください、と声をかけられたこともあって、そんなことも重なって次は出してみようかなと思いました。

<CAF賞2015・川田龍応募作品>

--ご存知だとは思いますが、CAF賞は川田さんにご応募いただいた2015年まで、「応募作品テーマ」があったんですよね。

川田:はい、それが正直、最初に出すのを躊躇わせた理由の一つでもあって(笑)今でこそCAF賞は、テーマもジャンルも問わずサイズ無制限で応募ができると思いますが、その時の応募作品のテーマが確か「愛」や「平和」だったんです。そのテーマに合った作品として出すと、テーマの色が自分の作品についてしまうのではという躊躇いがあって、1回目は様子を見ていました。結果として2回目に応募して、蓋を開けたらご縁があった、といった感じでした。

--2015年当時は川田さんは、まだ東京造形大学の学部生でいらっしゃいましたね。そもそも、川田さんが作家になろうと思ったきっかけはなんだったんでしょうか。

きっかけは自分が中学生の時に、美術部に所属して絵を描き始めたことでした。それで、中学2年生の時には美大受験をしようと決めていたんです。当時は油絵を始めたばかりで、西洋の印象派の作品などが興味の対象で、主に風景画を描いていました。

--身近な方の影響もあったんでしょうか。ご両親とか。

川田:両親はデザイン関係の仕事をしていて、その影響もあります。小さい時から芸術に触れる機会は多かったです。それに、僕は絵が得意だ、と小さい時から自覚がありました。だから自然とその道を選んだように思います。

--以前、川田さんは東京藝術大学を目指して、長い浪人時代を経たとお聞きしました。全国に美大はたくさんありますが、その中でも藝大を目指した理由はなんだったのでしょうか。

川田:多浪をした上でいうのもおかしな話ですが、実は「東京藝術大学そのもの」に憧れとかはありませんでした。藝大に入りたくて目指していたというよりも、単純に絵描きになりたいと思う気持ちが昔からとても強くて、絶対になろうと決めた時に、日本においては一番良いとされている美術大学が東京藝大だったので、そこに入るしかないと。絵描きになるには、そこを出た方が良いのだろうと。高校を卒業してすぐに上京して、受験に備えて美術予備校に通いました。
なので、多浪だった時期も、受験の結果がダメでもそれほど落ち込みませんでした。落ちるストレスはほとんどなくて、ただ勉強をして、絵を描いて、を何年も続けてしまったという感覚です。
ある年に、東京藝大の他に東京造形大学を受けた年があって、その時に造形大に受かって、そのまま勉強をしようと思って入学しました。多浪ではありましたが、藝大に対してのある種の執着みたいなものは、やはりほとんどなかったです。

--川田さんはご出身が新潟ですが、地方にご在住の方だと東京にある美大を目指すこと自体ハードルが高く感じる方もいる、と聞いたことがあります。川田さんが作家になると決めた時、そういった躊躇いみたいなことはなかったんでしょうか。

川田:全くなかったです。絶対に絵描きになりたかったので、可能な限り自分にとってベストな環境に身を置きたかったというのと、受験に落ちて浪人はしたくない、というプレッシャーのような気持ちもほとんどなかったので、ハードルの高さを感じたことがありませんでした。
確かに新潟にいた時に通っていた美術予備校の生徒の中には、関東の美大なんて…みたいな方もいました。無意識に「レベルが高い」と思っているんです。それは何故かというと、関東だと他地方の美大に比べて受験倍率が著しく高かったりして、自分たちだけでなく、すでに東京で切磋琢磨している浪人生がたくさんいるんだろうな、とか思ってしまって、一歩の勇気が出せないのかなと思います。
もちろん僕もそういった空気を感じていましたが、自分はそれで無理とかいっていたら自分が目指す絵描きにはなれない、とさらに強く思い直したりしました。
ただ今思うとなんだか、日本独特の美大受験文化にまんまと回収されたなという気もしています(笑)絵描きになるのに大学のレベルが高いとか低いとか、ヒエラルキーのことを気にする必要なんて、本当はないんですよね。地方だっていい美大はたくさんありますし。自分に合う環境の大学に行けば良いと思っています。

--川田さんは一貫して絵画を制作されていますが、映像や立体、写真など他ジャンルに挑戦されたことはありますか。

川田:実は最近そのことについてよく考えています。学部生の頃、写真作品を作ろうとしたことがありましたが、エスキースのように感じてしまって。エスキースというか、絵にするんだったら、みたいな発想になってしまって、体感的に向いていないなと感じました。

--粘土をいじってみたり、木を掘ってみたりとか、立体の方には触れたことはありますか。

川田:おそらく、結局絵画以外は作ることにあまり興味がないんだと思います。興味がないというか、自分がやる必然性がないといった感じです。絵画という、わざわざ<古い映像メディア・絵>を描いているというところで、手作業的なファクターや工程にも意味がでてくると思っています。絵画には作業が内包されていると思っていて、あまり制作に違和感を感じないのですが、一方で他のジャンルの制作に向かうと、ものづくり・工芸的な意識になってしまい、<作業をしている>という感覚が自分の中で強くなります。だから自分にとっては立体物を作る、という必然性を感じないんですよね。もし今後、僕が立体的などの作品を作ることがあるのであれば、発注かなと思っています(笑)

--制作をされる上で、ご自身の中で決まりごとなどはありますか。

川田:制作し始めてすぐの頃は、かなりぼんやりしていました。僕は昔から絵画を半分妄信的に追い求めてきていましたが、制作をする根拠みたいなのがないなと思っていました。西洋で生まれた油絵の具というメディウムを使った絵画は、映像としては時代遅れだし、自分が向き合っている意味、やっている行為はなんなのだろうと思い始めて。自分のルーツとは関係のない土地、遠い歴史の中で生まれた絵画を、自分が成立させるためには、というのをずっと考えてきていました。
宗教画だったり、人物が多く描かれている絵画だったり、そういったものをあえて自分の身近にある人やものに置き換え、それでいて全く関係のないものを描く、ほとんどハリボテのようなものを扱う、ということなのかなと最近になって思ってきました。

<本日より開催のバンビナートギャラリーでの個展の展示風景>

--確かに、川田さんがいつもモチーフにされていらっしゃるのは、ご友人だったり身近な静物ですね。いわゆる<抽象画>みたいな作品は拝見したことがないです。

川田:抽象画を描こう、というスイッチになったことがないですね。むしろ、ある種絵画って厳密には絵画は全て抽象とも言えるし、具象とも言えると思っています。なので絵画そのものが抽象か・具象か、みたいな話に興味がなくて、どちらも意識の中にあるものと思っています。

--この半年くらいのコロナ禍において生活環境は一変することとなりましたが、川田さんにとって制作においての変化や影響もありましたか。

川田:外出できなかったことや、今まで普通に関わっていたコミュニティから距離を置かなくてはいけなかったことが、制作には少なからず影響がありました。閉じこもっているんだからたくさん作品を作れるだろう、と思う方もいるかもしれないですが、自分は全然そうはならなかったです。僕は何かが作用することで、例えば作品を見られる行為だったり、見られてこそ作品は成立するという感覚があるので、いつも通り制作はしていたものの、そういう意味であまりはかどりませんでした。不健康だったな、と。

--最近お話をした方で、コロナ禍の自粛期間が必ずしも悪いと思わなかった、とおっしゃっている作家さんもいました。全世界・社会全体がストップすることで、自分もストップすることが許されたような安心感を得られたと。思考をもっと深めることができ、やってきたことを見つめる良い機会ができたと。

川田:そういう方もいると思います。僕の場合はどちらかというと、社会が止まったと同時に僕も止まった。止まってしまったことの息苦しさがありました。自分の活動は社会に紐づいているんだなと思いました。隔離された中で、自分は何ができるかなとか、そういうことを考えました。

--このバンビナートギャラリーでの個展は、コロナがここまで影響する前には開催が決定されていたんでしょうか。

川田:そうです、コロナ関係なく個展はもとから開催する予定でした。ただ自分の場合、個人的に繋がりがあるモデルを使ったりするんですが、そういった関係みたいなものはこの環境下で失われて、今回は自画像で展開しています。個展テーマの「Self-portrait」も元々から決めてはいましたが、環境的にも必然的にそうなったと言えます。

<本日より開催のバンビナートギャラリーでの個展の展示風景>

--バンビナートのオーナーの米山さんとはどうしてお知り合いになられたんですか。

川田:2013年にバンビナートで須永有さんの個展が開催されていて、その時に須永さんを通して米山さんと初めてお会いしました。それからバンビナートに展覧会を観に行くようになって、いろいろと話しを重ねて作品も見てもらったりして、それで翌年の秋に、個展を初めてやらせていただきました。今でもバンビナートの展覧会はほとんど観ています。そのときがギャラリストと話しができる一番よい機会なので。

--今回の個展のテーマ「Self-portrait」はどういう経緯で決められたんですか。

川田:実は僕、セルフポートレート<自画像>が嫌いなんです。自分を描く、というのが全然わからないんです。そもそも作品は側面として「自画像」という一面を持っていると思っているので、あえて自画像を描くというのがしっくりきません。ただ今回の個展では、自画像は自画像として歴史が長く、やらないといけない題材ではあると思ってはいたので、関係ない文化を扱っている自分自身を絵にするというか、ある意味絵画と関係のないモチーフである<自分自身>を、絵の中の登場人物にしてみよう思ったんです。

<Self-portrait(Selfie)>
2020 / キャンバス、油彩 / 41.0×31.7cm

--川田さんにとってはバンビナートギャラリーでは2年ぶりの個展と伺いましたが、本展は川田さんのキャリアにとってどんな位置付けになりますか。

川田:パッと見この個展は、自分のキャリアの中では変り種のように思えるんですが、今までやってきたことを踏襲しつつ、実験的に新しい展開をしています。全然難しい話ではなく、単純に注意深く、近づいたり離れたりして見ていただけるといろんな発見があるかと思います。

--この個展のフライヤーの表面になっている作品、意外と小さいサイズで驚きました。

<Self-portrait 01(Jif)>
2020 / キャンバス、油彩 / 33.4×24.5cm

川田:そうですね。作品は大きいサイズより、小さいサイズの方が作るのはちょっと手間がかかったりします。絵の書き方も変わってくるし、些細な所作も大きい作品より響くような気がします。僕の場合だと大きいサイズの方が得意なこともあって、小さいのはちょっと難しいなと感じたりします。今回は自画像がテーマなので、鏡にうつる自分だったり、携帯電話の自撮りのサイズを意識しているところもあり、今回の個展では小さめの作品を多く出展しています。自画像と言っておいて大きいサイズだとちょっと違和感があるので、そこは考えつつ展示しました。

--今は神奈川・横浜を拠点に作家活動をされていらっしゃいますね。お話を聞いていると、今後も精力的に作家活動を続けていかれるんですね。

川田:はい、できるかぎり続けていきます。冒頭でも話しましたが、自分は絵描きになろうと決めてからずっと制作を続けてきて、今後もその考えは変わることはなさそうなので(笑)発表する機会があれば海外でも、活躍の場は広げていきたいと思っています。場所が変わっても絵画は作り続けていきます。

--現在はこの個展と会期がやや被って、東京の代官山ヒルサイドテラスでグループ展に参加されていますね。今後の展示のご予定はございますか。

川田:年末に都内で個展を開催予定です。まだ詳細が決定していませんが、決まり次第告知していきます。それから年明けの3月頃「WALLA」の吉野さんが企画されるグループ展に参加予定です。ヒルサイドの展示は明日27日(日)までの予定ですが、個展は今日26日(土)から10月11日(日)まで開催予定です。いろいろな方にお越しいただきたいので、ぜひみなさん、いらしてください。


開催概要

タイトル:Self-portrait
会期:2020年9月26日(土)~ 10月11日(日)12:00-19:00 *月、火休廊
会場:Bambinart Gallery(東京都千代田区外神田6-11-14アーツ千代田3331内B107)
http://www.bambinart.jp/exhibitions/20200926_exhibition.html

--

川田 龍 | Ryo KAWADA

1988 新潟県生まれ
2015 東京造形大学美術科絵画専攻 卒業
2018 東京藝術大学大学院美術研究科絵画専攻壁画第二研究室修士課程 修了

個展
2020 「Self-portrait」Bambinart Gallery(東京)
2019 「Classic」THE SECRET MUSEUM(東京)
2018 「figment」Bambinart Gallery(東京)
2016 「Guise」Bambinart Gallery(東京)
2014 「ウロボロス」Bambinart Gallery(東京)

グループ展
2019 「NEW EMOTION」六本木ヒルズA/Dギャラリー(東京)
2018 「絵画・運動(ラフ次元)」四谷未確認スタジオ(東京)
2017 「LANDSCAPE:detour for White Base」Bambinart Gallery(東京)、「Paintings」Bambinart Gallery(東京)
2016 「Sommes-nous heureux?」Bambinart Gallery(東京)、「Still Life」Bambinart Gallery(東京)
2015 「Recent Works」 Bambinart Gallery(東京)、「CAF賞2015入選作品展」アーツ千代田3331(東京)、「ON CANVAS」Bambinart Gallery(東京)、「3331 Art Fair 2015 -Various Collectors' Prizes-」アーツ千代田3331(東京)、「COLLAPSE EVE」豊島区旧庁舎4F(東京)
2014 「BAKER'S DOZEN MUSEUM」TURNER GALLERY(東京)
2013 「ARTIFICIAL ORGAN2」SPC GALLERY、(東京)
2012 「ARTIFICIAL ORGAN」TURNER GALLERY(東京)
2011 「THE SEXTED」TURNER GALLERY(東京)

賞歴
2018 「アートアワードトーキョー丸の内2018」丸の内賞(オーディエンス賞)
2015 「CAF賞2015」入選
2014 「東京ワンダーウォール2014」入選
2013 「TAMA ART COMPETITION 2013」天明屋尚賞、「TURNER AWARD 2013」未来賞

Contemporary Art Foundation