INTERVIEW

Artists #24 油野愛子

今回のアーティストインタビューは、CAF賞2017(https://gendai-art.org/caf_single/caf2017/)にて入選された油野愛子さんにご登場いただきます。現在、京都を拠点に作家活動を行なっている油野さんは、10月1日から16日までの間、六本木の小山登美夫ギャラリーで個展「When I’ Small / 小さかったころ」を開催されました。この度油野さんに、学生時代のお話から小山登美夫ギャラリーでの初個展までの道のりや、本展での展示作品についてお話をお伺いしました。


--油野さんにはCAF賞2017入選展で展示していただきましたね。そこから今回の小山登美夫ギャラリーでの個展までの4年間、どのようにご活動されていたのでしょうか。

油野:2018年に卒業してからの1年間はほとんど何もなくて、展示もほとんどありませんでした。コンペにも応募していたのですが結構落ちてしまって、お仕事とかも全然なかったですね。ただ、その間もずっと制作は続けていました。今回の個展でも展示したドローイングのシリーズは大学院2年の時に参加したロンドンのRoyal Collage of Artのサマースクールで制作を始めたものです。特にお披露目することもなかったのですが、その後もずっと描き続けていました。(下の写真)

Installation view from “When I’m Small” at Tomio Koyama Gallery, Tokyo, 2021
©︎Aiko Yuno photo by Kenji Takahashi


あとは、アーティストフェア京都2019年と2021年(2020年は新型コロナウイルスにより中止)には薄久保香さんの推薦で出させていただきました。

--拝見しました!油野さんは学生時代は彫刻を制作されていらっしゃいましたよね。薄久保香さんとは学生時代からずっとご面識があったのですか?

油野:いいえ、大学院の時は椿昇さんが担当教員で、大学院なので大庭大介さんや鬼頭健吾さんにも作品に対するアドバイスをいただいていました。当時は薄久保さんとは全然面識がなく、直接お話ししたこともなかったんです。

卒業を期に池田光弘さんに紹介していただいて構えた今のスタジオは、工場跡地を間切ったところで、作家や他の職業の方々みんなで使っているのですが、たまたま近くに大庭さんのおうちがあったんです。卒業したばかりだったので、皆さんに近い方がなにかとチャンスがあるかなと思って借りたのですが、そのスタジオに大庭さんと薄久保さんが一緒にこられたことをきっかけに、薄久保さんにはずっと見ていただいてます。

2019年のアーティストフェア京都に推薦して頂いた時に、薄久保さんに「ペインティングをやりたいと思っています」というお話をして、作品の具体的なイメージに近づけるために、どうクオリティを上げていくかのアドバイスをいただきながら平面の制作を始めました。その時は《グランジ》というシリーズを制作していて、雑誌のモデルさんの切り抜きなどの人のシルエットを使い、アクリル絵具とラメと透明樹脂を使用したペインティングでした。アーティストフェアでそのシリーズの作品が売れて、そこからお客さんづてにコミッションをいただき、その一年を過ごしまたね。

《グランジ16》
撮影: Kenryou Gu


--2019年からペインティングの制作を始められたんですね。今回の個展は、小山さんが六本木のANB東京で油野さんのペインティングをご覧になったことがきっかけで実現されたとお聞きしました。

油野:はい、小山さんには今年の8月にANB東京で行われた「Kyoto Perspective」展(アーティストフェア京都2021に参加していたアーティスト5名と、推薦者のアドバイザリーボードの4名のグループ展)で作品を見ていただいて、今回も出している《Narrative》シリーズのペインティングを気に入ってくださったんです。その後、9月にはスタジオを見に来られて、展示のお話をいただきました。CAF賞の時のインスタレーションも覚えてるよって言ってくださって。その翌月の10月1日が個展だったので、嵐のように進んで行きました。

今のスタジオは天高が3mあって、売ることとは関係なく立体も作っていける環境だったのでどんどん制作していたんです。結果的にはそれがとても良くて、今回も小山さんに個展のお話をいただいた時に、「いつでも個展できる準備はあると思います!」と言えたかなと思います。

--今までのお話が全て繋がっていくんですね!それにしても展示が決まってからオープンまで1ヶ月もない中、大変でしたね。

油野:はい、ペインティングは1週間で10枚制作しました。もう若くないとできないですね。(笑)ちゃんと乾くかどうかも考えながら、全て同時進行で制作しました。あとは、使いたい絵の具の製造が止まってしまっていたようで、どの画材屋さんにも在庫がないと言われてしまい・・・。元々買い溜めをしてあったのでギリギリ間に合いました。立体作品の梱包方法も決めていたこともあって、時間がない中でも進めることができて、過去の自分にありがとうって思いました。

ずっと先生方から「準備が大事」と言われ続けてきたんです。いつどんな話が来ても、すぐ「できます」と言えることがどれだけ大切なことかを聞かされていたので本当にありがたいです。その先生方に、今回の個展が決まって連絡をした際に、「みんなは突然現れたシンデレラストーリーだと思うかもしれないけど、僕はちゃんと今までのやってきたこと、積み重ねが形になってると思うよ」と言っていただいて、泣きそうになりました。

Installation view from “When I’m Small” at Tomio Koyama Gallery, Tokyo, 2021
©︎Aiko Yuno photo by Kenji Takahashi


--今回の個展ではその際に制作されたペインティング《Narrative》シリーズを10点展示されていましたね。作品についてをお伺いしてもよろしいでしょうか。

油野:ペインティングを制作する上で、立体作家が平面作品を作る意味をすごく考えました。絵画はキャンバスの上で何かが起こるということなので、インスタレーションみたいなペインティングをしたいと思っていて、見たときに視覚的に体感するものではあるのですが、もう少し自分自身を見るといったことを考えています。

先程お話しした《グランジ》シリーズを制作する過程で、人がシルエットになることで国籍や性別が分からなくなって、見る人によって見え方も変わるのが面白いって思っていたので、そこからもう少し進んで自分自身を見るようなものを考えていたんですね。たまたまマテリアルの実験中に透明樹脂の反射を発見し、見ようとすると自分が映るけれど、はっきりとは見えない。自分自身との対峙を考えています。

--自分が映っている層のその上にある、めくり上げられた層には元々文字が描かれていますね。

油野:作品には花の文字をステンシルしています。ベトナム戦争をきっかけとして始まったヒッピームーブメントの中で、「拳銃よりも花を」と言って銃口に花を入れた写真を見た時の記憶がずっとありました。花は誰のものでもあって、誰のものでもないように感じています。例えば、今回個展に出した《NARCISSUS》を観た方の中で、神話を思い出した方もいるようでした。花の名前だなと気づいた時に、その人の中の花のイメージが出てきたり、この作品だったらナルキッソスのイメージが出てきたり、水仙を思い浮かべる人もいると思うし・・・花自体に神話や歴史、自分の記憶などが全部ある。鴨川にも生えている、こいつには神話があるのか、みたいな。そこが押し消されているところに自分が映り込んでいるという。

--そのさらに奥にあるものを考えますね。

油野:昔学生の頃、立体作品で作品が開いたり閉じたりするものを作っていた時に、「そこから見える内側はなんだ」と先生に言われた時からずっと考えていることです。例えば、フォンタナもキャンバスの奥についてをすごい考えていたと思う。剥がされたっていうのか暴かれているのか、内面を見せているのか見せられているのか、それは見る人によって違うと思うので、言及しないでおこうと思っています。

Installation view from “When I’m Small” at Tomio Koyama Gallery, Tokyo, 2021
©︎Aiko Yuno photo by Kenji Takahashi


--ペインティングの他に、立体作品も展示されています。《The house》のシリーズは、大学院の卒展で発表されていらっしゃいましたよね。どのようにして制作された作品なのでしょうか。

油野:はい、卒展に出したのが一番最初の《The house》という作品シリーズで、当時名前は違いましたが、2mくらいの高さのものを展示しました。

大学在学中から、様々な素材を使ってマテリアルの研究をしていて、作品とまではいかないインスタレーション的なドローイングとしての立体をかなりの数作り、色々な組み合わせや形を試していたのですが、その延長でおもちゃのおうちを買って、最初はそこにアクリル絵の具を流してたんですね。ハウスを脚立の上に乗せて、絵の具をグチャって出して、インスタレーションのようなコラージュのような立体物を作っていました。でも絵の具だとすぐ固まらないので面白さがなくて、発泡ウレタンを使ったら、素材自体が勝手に窓などからグニュグニュ出てくる。そこから今の立体になってる感じです。発泡ウレタン自体が粘着性もあり、高く積み上げていける。卒展の時は大きいものを作りたいという気持ちがすごくあって、たまたまおもちゃのおうちと発泡ウレタンの組み合わせが自分の中でマッチしたんです。

大学院時代の展示風景画像
撮影:守屋友樹

--素材はシルバニアファミリーのお家ですよね。モチーフを選んだ理由などはあるのでしょうか?

油野:最初は、「わ、懐かしい」と思って買ったんですよ。これで何かをやってみたいとは思っていたのですが、値段が高いじゃないですか。子供の時にはたくさん買ってもらえず「どれか選びなさい」と言われたこともあってずっと使えなかったんです。(笑)それが、ずっとスタジオに置いてあるとただの素材に見えてきて、使えるようになりました。「これは素材だ」頭の中で切り替えていっぱい買った時に、子供の時の感覚と大人になってからの感覚っていうのが違うんだなと思いましたね。

私の中で今は「シルバニア」は記憶の装置というような感じがあります。自分の過去の辛かったこととか、色々な記憶を思い出すものとしての記号。それを積み上げていくと、家がビルになる、おもちゃからビルになるというのが、子供から大人になるという感覚にも似ていて。どこからが大人なんだろうと考えることがあり、それが今回の展示のタイトルにも繋がっています。

Installation view from “When I’m Small” at Tomio Koyama Gallery, Tokyo, 2021
©︎Aiko Yuno photo by Kenji Takahashi

--油野さんは、学部、院ともに京都造形芸術大学の総合造形をご卒業されています。

油野:元々絵を描くのが好きで、中高で美術部に入ってたのですが、2つ上の学年に今西真也さんという先輩がいらして彼が京都造形に進学したのがきっかけです。私は高校生の時は学校が嫌いで、特にやりたいこともなかったので大学に対してもあまりポジティブに考えていなかったのですが、アートは好きだったので、先輩が京造に行くなら私も・・・と。(笑)ただ、ペインティングか彫刻かというのを自分の中で決めかねていて。なんでもできて選択肢が多い方がいいなと思って総合造形に入りました。美術部の先生には「美大に行くなら院までちゃんと卒業しろ」と言われていたので、よし、頑張ろうと思っていました。

--当時から卒業後はアーティストになりたいということは明確だったのですか?

油野:学部ではほとんど学校に行っていなくて単位もギリギリでした。(笑)でも大学院に進んでからは学校生活がすごく面白くて。椿さん、鬼頭さん、大庭さんなど最前線で現代アートをやっている方達の言葉を聞くのがすごく楽しくて、アーティストってこうやって食べていくんだなというところを学びました。そこから自分が何をやりたいのかを考えるようになりましたね。大庭さんに「アートで食べていくのか?」と質問をされて、「食べていきたいです!」というような話をしました。先生方は「やる気のある学生しか見ない」と厳しくおっしゃってくださって、でもちゃんと作ったらしっかり見てくれますし、大学自体が学校で販売をする機会もあるので、友達や先輩や後輩の作品が目の前で売れていくのを目の当たりにしました。中高の先輩の今西さんを見ていて、作品をつくってそれが売れて、ギャラリーに入ってという流れを学生の時から体感していたので、サバイバルみたいだなと思っていました。

それからは、自分はどのような作品だったらずっと続けられるのかを考えました。ペインターの方だと同じようなストロークを続けたりされるじゃないですか。私は多分そういうのが無理なんです。(笑)学部の時からヤノベケンジさんに「お前は飽き性だから嫌だったもうすぐに辞めてどんどん次に行け」と言われていて、そうだなと思っていました。今もですが、インスタレーションもペインティングもなんでもやりたいという気持ちがあるので、いろんなことをしていますね。

--衝動的に色々と手を動かしてる中で出てくるものが作品につながっていくんですね。

油野:そうですね、手を動かしているうちに「このマテリアルのこの部分面白い」という感じです。別のオブジェと、このマテリアルを組み合わせたらどうなるんだろうと思いながら色々作っています。

今回のペインティングも、最初に絵の具などの素材を全部買って揃えるところから始めました。アクリル絵具だけでも、いろんな会社のいろんな硬さのものを一通り買って、それぞれの絵の具、透明樹脂、発泡ウレタンの組み合わせをテストします。失敗したり、未硬化だったりするのですが、そこが面白いなと思って色々試していますね。コンセプトからスタートするというよりは実験をしながらこうしようというような形で進んでいきます。

マテリアルテストピース画像
撮影: Kenryou Gu

--CAF賞2017で展示していただいた《viva la vida》では、ご自身のポジティブな性格や環境から「Happiness」を作品のテーマにされていましたよね。現在も引き続きステートメントに「Happy」の文字がありますが、当時とは少し違った印象を受けます。

油野:学生の時は、まだ自分のスタイルを模索中でした。いろんな作家さんのリサーチをすると、それぞれに背景があったり、問題を取り上げて社会性のある作品を作っている。自分のことを考えた時に、私は何があるかなと思っていて。振り切って「私もう超幸せなんです。」と言っていました。その時は「Happy」って言えるような作品を作るのが私の使命なんじゃないかと思っていて、その中で「私とは」を模索していると考えていたんですけど、結局作品を作ると言うことは常に自分の「私とは」を考えてると今は思っています。

CAF賞2017 展示作品《viva la vida》
写真:木奥恵三

--油野さんの作品には、継続的にビビッドな色彩が多用されていますよね。それも「Happy」というテーマと関連しているのでしょうか。

油野:カラフルなものがすごい好きっていうのももちろんあるんですけど、CAF賞に出した作品を制作した当時はヒッピーになりたかったんです。(笑)煌びやかな中の背景的な悲しさや問題に興味があって、学生の時はヒッピームーブメントについて調べたり、聖地に行ったり、あとはドラァグクイーンのリサーチをしていました。例えば、戦争をテーマにすると暗くなりがちなのに、彼らはすごい静かでありながら熱いパッションを持って作品を作ってる、そこがすごくいいなと思って。アーティストだと、フェリックス・ゴンザレス=トレスも好きです。「Happy」の中にはもちろんその反対があるわけで、私も作っていくうちに自分の中での意味が見えるのではないかと思って、ひたすら作り続けています。

《viva la vida》もシュレッダーのひたすら削るという行為が暴力的だなというところからスタートして、アルミホイルの音だったり、素材的にきらきらしているところも面白いなと。ふと作品を見ただけでは全く分からない、静寂や日常的な感じがある中で、背景を見た時に考えさせられる。私もそういう作品にしたいというのは考えています。

--本日はお話を聞かせていただいて、ありがとうございました!今後の展示の予定など、決まっているものはありますか?

油野:制作をしていこうという感じです。来年の3月のアーティストフェア京都にまた薄久保さんに推薦いただいています。アーティストフェア京都には過去に2回出てるのですが、どちらも小さい立体とペインティングを出していました。次回は、京都新聞ビル地下1階という会場ですごく久しぶりに大きい作品を出展する予定です!

あとは、スタジオのシステムをアップデートしていこうと思っているのと、海外に行けるようになったらレジデンスにもアプライしたいと思っています。


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今後開催予定の展示

展覧会名:ARTISTS’ FAIR KYOTO 2022
会期:2022年3月5日(土)・3月6日(日)
会場:京都文化博物館 別館・京都新聞ビル 地下1階

油野愛子| Aiko YUNO
1993 大阪府生まれ
2018 京都芸術大学大学院 (旧京都造形芸術大学院) 美術専攻総合造形領域 修了

個展
2021 「 When I’m Small / 小さかったころ 」小山登美夫ギャラリー (東京)

グループ展
2021 「ARTISTS' FAIR KYOTO」京都文化博物館別館(京都)、「MEET YOUR ART at Daimaru Umeda」大丸梅田店(大阪)、 「集合/ 開放」2nd Anniversary BnA Alter Museum(京都)、「Contemporary Art Fair at HANKYULUX」阪急うめだ本店(大阪)、「 からだと、その他 body, et cetra」ANA InterContinental Tokyo (東京)、「Kyoto Perspective 」ANB Tokyo (東京)、 「FUN LIFE with ART / MEET YOUR ART × OCEANS」RIVERSIDE CLUB(東京)
2019 「群馬青年ビエンナーレ」群馬県立近代美術館(群馬)、「 ARTISTS' FAIR KYOTO」京都文化博物館別館(京都)

賞歴
2019 「群馬青年ビエンナーレ」 入選
2017 「CAF賞2017」 入選
2016 「ULTRA AWARD[NEW ORGANICS]」入選

Contemporary Art Foundation