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Artists #23 仲衿香

この度のアーティストインタビューでは、CAF賞2018(https://gendai-art.org/caf_single/caf2018/)にて入選・白石正美審査員賞を受賞された仲衿香さんをご紹介させて頂きます。仲さんは2019年に東京造形大学をご卒業後、国内で数多くの展示やアートフェアにご参加され、現在も大変ご活躍されています。最近では、先月18日まで東京・SH Galleryにて個展<Not Found>を開催され、新作を発表されました。今回は仲さんに本展のお話からご経歴、近年の制作活動についてのお話を伺いました。


--仲さんのご活躍、SNSも含め拝見しない日はないです。CAF賞2018にご応募いただきましたね。

仲:2018年でしたね。その時は卒業したら社会人として働こうと思っていて、就活をして内定も頂いてました。CAF賞に入選する前も何度か応募したことはあったんですが落選してしまって、応募ができる学生最後の卒業の年でようやく入選した、という感じでした。そもそも私は、大学在学中に公募に一個もひっかからなかったら、アーティストになるのは諦めようと思っていたんです。内定はもらって進む道も決まってはいたものの、やはり心のどこかにはアーティストになりたいという気持ちがずっと強くあって、公募に通ることで自分の心の支えになるのではと思っていました。

--なぜ公募に引っかからなければアーティストを諦めよう、と思っていたのでしょうか。

仲:まず第一に身内の説得材料として、というのがありました。作家一本で食べていくことは難しいだろうというのが家族の本音にはあって、私の周りでも作家業だけで生活できている方はとても少なかったですし、私自身も作家としての成功の未来が上手く思い描けなかったりして、一個の実績もないのに「私はアーティストとして生活していきます。」というのはどうしても言えなかったんです。なので公募に通るなどして、目に見える形で賞や実績というのがあったほうが、自分もそういったことが言いやすくなるかなと考えました。
私に限らず、「<アーティストで食べていく>なんて、非現実的すぎる。」と多かれ少なかれ心のどこかで思っている方も多いのではないでしょうか。今は若手作家ブームで、大学在学中から外で発表する機会や、SNSなどを通して発掘してもらえる機会が多くなってきましたが、私が卒業する2019年頃はまだそういう傾向はなくて、その状況で実績もなしに、果敢に絵一本で挑戦していく!と言葉にするのはとても勇気がいることでした。なので、CAF賞で入賞できたことはありがたかったです。

CAF賞2018白石正美審査員賞受賞作品「CVS」
写真:木奥恵三

--昨今は確かに、若手ブームがすごいことになっていますね。

仲:すごいですね。私個人の感覚ではこのブームの中に飛び込んだ、というよりも突然後ろからブームやってきた、という感覚が一番近いです。私は卒業してすぐは一般企業に就職して、普通に働きながら制作をするという生活をしていたんですが、会社員時代にそのブームが到来し、ありがたいことに仕事をしていることが厳しくなるくらい急に制作が忙しくなりました。このまま仕事と制作を両立することは不可能だと思って仕事を辞めました。一方で、もう少し働いて社会人経験を積んでもよかったのかなと思っている節もあります。社会経験をすることなく浮世離れした作家、みたいになってしまうのが怖かったんです。私の作品のモチーフは、多くの人に視認性のあるものが多いので、一般的な人々と自身の価値観がズレすぎてしまうということがあると、私の作品コンセプトの意図とズレてしまう可能性があるからです。
私の作品をコレクションしてくださった方とお話をすると、最近作品を買い始めたという方が結構多く、年齢も20~30代とかで若い方も多いです。ブームに乗って投資目的で作品購入をするという方も中にはいるのかもしれないですが、単純にこのコロナ禍において家にいることが多くなったから、生活に彩りを足したいという目的の方も多くいるように思います。私は以前から、<美術品を買う敷居の高さ>みたいなものが、低くなったらいいなと前から思っていました。美術に造詣が深い人だけが購入を許されるイメージではなく、気軽にただその作品が好きだから、という気持ちで買っていく人が増えたらそれはとても嬉しいことだなと。それは確かに望んでいることですが、一方で、このブームよりずっと前から美術を愛し大切にしていた人たちが、ブームによって傷つけられてしまうことがあっても嫌だなとも思っていて、この今の流れが美術業界にとって100%良いことか、というとなんとも言い切るのは難しいなと思っています。

--このブームの急激な増幅は、コロナ禍でより一層SNSが普及されたというのもありますね。自分が知りたい・見たい情報が、より手軽に身近に、素早く共有されるようになりました。

仲:私の作品でいうと、視覚的にグッと入ってきやすいというのもあるので、SNSをきっかけに知っていただくケースが増えた可能性はありますね。作品を鑑賞いただいた方に感想を聞くと、モチーフありきで見る方と、モチーフ抜きで画面の作りを見ている方と2極化していて面白いなと思います。私は私の作品をどう見てくださってもいいなと思っていて、「あ、このロゴ知っている」とか、そんな入り口でも、楽しんで見ていただけるなら嬉しいです。ただたまに、「このロゴが好きだからこれを描いて欲しい」と言われることもあって、それはちょっと私の制作のルールとは違ってくるので、断ってしまうこともあります。 ロゴを描いているのは間違いないんですが、私の作品はデザインやロゴの存在がありきで作っていて、お願いされたロゴをそのまま素直に描いてしまうと、<看板屋さん>になってしまうので、私の作品ではなくなってしまうんです。作品に使うロゴ、モチーフは私自身が選び、<日本在住の27歳の女性から見た身近なロゴ>というのが重要です。この個展で出している作品はUber Eats以外の4点は各ロゴのリニュアール前の古いデザインを使用して作品にしています。新しいロゴは今は視認性が低いかもしれないですが、数年経てばそのデザインが当たり前になってきます。そうした時に、この古いロゴを使ったこの絵は将来どのように見えるのだろうと思っています。同じ人が見たとしても、年をとってこの作品を見ると視点が変わると思うんです。

SH GALLERYで先月開催されたの個展 <Not Found> の様子

<I> 2021 / パネルにアクリル / 530 × 530mm

<S> 2021 / パネルにアクリル / 530 × 530mm

<K> 2021 / パネルにアクリル / 530 × 530mm

--人によっては、仲さんの作品を見たときにいろんな思いを馳せるかもしれませんね。このロゴが使われていた時自分はまだ学生だったな、とか、このヤマトのロゴの時に引っ越しをしたな、とか。

仲:確かに、作品と鑑賞者の間に個人的なストーリーが生まれる可能性もありますね。私はCAF賞2018の最終審査の時に審査員に、「絵画にストーリーはいらない」って言ったんです。その意味は、<絵画の画面上でのストーリーはいらない>という意味で、その思いは今も変わっていないんですが、作品と鑑賞者の間でストーリーが紡がれるというのは面白いなと思っています。私の作品はモチーフの記録をしていって、結果的に鑑賞者と作品の間でストーリーが生まれるんじゃないかと思っています。ちょっと話は違うかもしれないですが、このソースコードの作品も、見る方によって全然視点が違くて感想が面白いです。この作品はGoogleの検索画面のソースコードなんですが、画面のテクスチャーを面白がってくれる人がいる一方で、この展示を見にきてくださったIT系のお仕事に就かれている方が描かれているコードを読み解いたりしていて、そういう見方があるのかと。私からすればなんのこっちゃの文字の羅列なんですが(笑)。

仲個展<Not Found>よりGoogleの検索画面のソースコードが描かれている作品

エキソニモが2004年に発表した作品で、Googleの検索画面を絵画化したという作品があります。2004年頃は日本におけるインターネット普及率が6割を超え、徐々にパソコンがある生活が身近になってきた、くらいの時でした。その当時のGoogle検索画面が描かれているのですが、今見ると古めかしい画面なんです。でもこの時代では現代的なものだったはずで、そのエキソニモの作品を見たときに、過去と現在の感覚のズレが面白いなと思ったんです。現在はスマホの一般普及率が7割を超え、10代から40代だと9割を超えていると言われています。この作品で使っているGoogleのソースコードはスマホからも簡単に調べることができ、この作品は現代のスマホ時代における身近な風景の一部を切り取っていると言えます。

--ギャラリー入口正面には、HTTPステータスコードの「404」が描かれた作品がありますね。

<Not Found #1> 2021 / パネルにアクリル / 410 × 242mm

仲:今年の7月に、宮崎にある<SAKURA Villa>というところで行われたアーティスト・イン・レジデンスのプログラムに参加してきました。その時に海辺の砂浜でドローイングをしようと思って、なんとなく404をカリカリ描いていたんです。<HTTPステータスコード>って調べると「404」だけでないんですよね。100番とか500番台もあったりして、その中でも「404」はキャラクター性があるというか、馴染深いというか、404で検索すると<エラーメッセージ NOT FOUND>として検索に上がってきます。だからというわけではないんですが、なんとなく思いついた404を浜辺に描いた後でぼーっとしていたら、そのうち波が全部さらっていったんです。自分が選んで描いたモチーフは人が作った人工物なので、いずれは無くなっていくんだろうと思っているんですが、砂浜に描いた404が波で消えた時に、自分が考えていることの縮図が目の前に現れたように見えて、それでその砂浜のテクスチャーも含め、作品として持ち帰ってきました。

宮崎のレジデンスプログラム参加時に訪れた砂浜に描かれた404のドローイング

私のモチーフは都会的なので、宮崎のレジデンスに行く前は正直、この機会は自分にどういう影響があるのかわからないな、何か持ち帰ることができるのかなと不安だったんですが、実際参加して見ると都会では得られない体験をし、都会にいては作ることがなかった作品を持って帰れたのでとても貴重な機会でした。都会の煩わしさみたいなものは一切ない環境で、一人でポツンと滞在していたこともあって、自分と向き合う時間も多かったです。

宮崎のレジデンス滞在中の制作の様子

--今回の個展だけでもいろいろな作風の作品を発表されていますが、仲さんの制作における変遷をお聞きしてもよろしいでしょうか。

仲:そもそも厚塗りの絵画を始めたのが学部3年生くらいの時で、それまでの作品は今の作風とは全然違っていました。実は、私は<厚塗り>を以前は結構敬遠していて、というのも、厚塗りの技法を使う作家は天才肌の画家に限る、と思っていたことがありました。天才肌の作家が厚塗りの画面を思うがままに筆を使い制作していく、みたいな、私がやることではないなという感じで敬遠していました。ところが学部3年生の頃、東京造形大学の先輩にあたる作家さんで、門田光雅さんと高橋大輔さんという方がいるのですが、造形大にもこのような先輩作家がいるんだなと知ったんです。その時に、自分の中で敬遠しつつも<厚塗りの作品への憧れ>みたいなものが自分の中にあることを感じ取って、やっぱりチャレンジしてみようと思ったんです。

東京造形大学在学時に作られた作品 <無題> 2017 / パネルにアクリル / 273 × 190mm

最初は決まったモチーフなどはなくて、まずは絵の具で遊ぶというか、素材感を追求していました。今でもそうですが、私は絵の具の質感などが大前提で作品を作っているところがあります。厚塗り作品を作り始めた当初からロゴモチーフには着目していてコツコツ作っていたんですが、作っていくうちに自分の身の回りの図像が、絵の具の偶然性によってズレていくというのが面白くて、だんだんとロゴをモチーフとして扱うことが多くなりました。

<B> 2021 / パネルにアクリル / 530 × 530mm

この作品(<B>を含む5点のロゴモチーフ作品)などは厚塗りですが、私の中ではうす塗りに入る作品です。実は絵具を<剥がす>という行為をこの画面上で起こしています。わざと支持体をボコボコにすることでマチエールをつけています。今でもこうやって様々な技法を研究しています。今では自分のスタイルというか、こういうものを作りたいというのがわかってきましたが、そういうのがわかるのが私は遅かった方だと思います。

--今回は、SH Galleryさんでの2回目の個展ですね。こちらのギャラリーとはどういったご縁での出会いだったのでしょうか。

仲:SH Galleryにお声がけいただいたのはCAF賞を受賞した後のタイミングだったので、てっきり受賞きっかけに作品を知っていただいたのかと思っていたのですが、蓋を開けてみるとそうではなくて、実は私のインスタグラムを見てオーナーさんがお声がけしてくださったんです。CAF賞を見てお声がけくださった別のギャラリーの方もいたんですが、SH Galleryはタイミングが早かったこともあって、ぜひとお願いさせていただきました。
SH Galleryでは2回個展をしています。ギャラリーの名前と所在地が変わる前の2年前に、銀座での開催でしたが<現在地>というタイトルの個展でした。街中にあるアイコン・標識を絵画に落とし込むというシリーズで、作品タイトルがGoogleマップの座標になっていて、モチーフとなった場所がタイトルになっている作品を出しました。その場所にしか存在しない、グラフィティなど独自性があるものが存在する場所を選んで作品にしていました。グラフィティは日常の中でどんどん変わってきますよね。これが今の、一瞬の風景なんだなと思って切り取ってモチーフにしました。

2019年に開催された仲個展<現在地>より「35.659587,139.699203」 2019 / パネルにアクリル / 410 × 410mm

--切り取り方が写真的ですね。

仲:確かに写真的ですね!加えて、絵の具の瞬間性みたいなものを大事にしています。今回は<Not Found>という個展タイトルで、現在存在する図像や記号を、時間と共に変化する現代の原風景と捉えて絵画として落とし込む、というのを実践しています。そういう意味では本展のテーマも写真の感覚に近いかもしれないですが、私自身はあまり写真撮らないんですよね、下手くそで(笑)。多分、モチーフとなるものを自分の中でパシャっとしているんですね。

--今回の個展ではYoutubeのロゴが描かれた作品が一番の大作です。

<Y> 2021 / パネルにアクリル / 1620 × 1620mm

仲:Youtubeは今この時代において一番勢いのあるコンテンツなので、この時代の象徴、という意味で一番大きく作りました。未来でこの作品群を振り返ったときに、「この時代はYoutubeが一番主だったコンテンツだった」とこの時代の目印とするためです。なぜこの時代はYoutubeが流行っていたのだろうと、未来の人が考えるきっかけにもなると思うんです。もし私がもっと前にこういう制作をしていたら、ニコニコ動画のロゴを描いていた可能性もありますよね。オンライン上でのコンテンツ消費も激しい中で、自分は作品という形でその時代の象徴を切り取って保存していく、みたいな意識があります。

--仲さんの今後の作家活動の展望はありますか。

仲:どこに行きたいとかまではまだ決めていないんですが、海外に行きたいと思っています。私が今モチーフにしているロゴは、今私が日本にいて都市に住んでいる環境だからこそ描いているというような気がしていて、そうではない全く別の世界に行ったときに、どんなモチーフを自分が選ぶのか興味があります。もしかしたら最初は違う都会に行ってみる、というのがいいかもしれないです。自然に触れることも好きではありますが、モチーフとなると自分にとっては変化が遅いもののように思って、やっぱりロゴやコンテンツのような、時代の流れで消費されていくものが自分にとっては興味深く合っていると思っています。
それから、私はジャスパー・ジョーンズや河原温が好きなんですが、河原さんは作家としての姿勢がとてもかっこいいです。2015年にアメリカのグッゲンハイム美術館で開催された河原さんの個展にて、作品を時系列順に並べるという展示方法がありました。私の作品も現代の風景を切り取っているので、並べることで時間の変化が見える展示をいつかやってみたいです。私は自分の名を知らしめたいとか、そういう意味で作家になりたいわけではありません。自分の死後、自分の片割れとも言える作品が美術館に並び、そっと何かを残していくことを夢見るのは、アーティストとして自然なことなのかなと思っています。
直近の活動としては、年内と年明けとグループ展に参加する予定です。次のアートフェア東京にも出展します。また次の展示にもお越しいただければ幸いです。


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今後開催予定の展示

展覧会名 : シブヤスタイル vol.15
会期 : 2021年11月24日(水)~12月12日(日)
会場 : 西武渋谷店 B館 8階 美術画廊・オルタナティブスペースほか

展覧会名 :biscuit gallery first anniversary exhibition(仮)
会期 : 2022年3月3日(木)〜27日(日)
会場 : biscuit gallery 1階〜3階

仲衿香| Erika NAKA

1994 長野県生まれ
2019 東京造形大学 卒業

個展
2021 「Not Found」SH GALLERY(東京)
2019 「現在地」SH GALLERY(東京)

グループ展
2021 「3人10」シンワアートミュージアム(東京)、「Group Exhibition」SH GALLERY(東京)、「東京アートフェア2021」SH GALLERY(東京)、「nine colors XV 」西武百貨店渋谷店(東京)
2020 「artTNZアートフェア」SH GALLERY(東京)、「Backside Works. & 仲 衿香」SH GALLERY(東京)、「100人10」ログズビル(東京)、「シブヤスタイル Vol.14」西武百貨店渋谷店(東京)、「AFT Art Hunting 」SH GALLERY(東京)
2019 「東京アートフェア2019」SH GALLERY(東京)、「Nothing seek, nothing find」ARTDYNE(東京)

賞歴
2018 「CAF賞2018」白石正美審査員賞
2017 「ワンダーシード」入選

# ARTISTS CAF AWARD

Contemporary Art Foundation