VRを用いた作品を制作し、CAF賞2017で最優秀賞を受賞した木村翔馬さんは、昨年末に東京初個展「dreamのあとから(浮遊する絵画とVRの不確定)」、今年2月には京都で個展「クリスタル☆ポリゴン」、4月にはカオス*ラウンジ(会期終了)とタリオンギャラリー(~4月28日)のグループ展に同時期出展するなど、精力的な活動を展開しています。
CAF賞受賞時はまだ21歳、京都市立大学の学部生だった木村さん。その副賞として行った「dreamのあとから~」展の開催までを振り返り、「賞をもらった時点では作家としての意識はまだ強くなかったんです。でも、副賞の個展の準備をする中で自覚ができていった感じです。」と言います。
「dreamのあとから(浮遊する絵画とVRの不確定)」展(2018)の展示風景、撮影:木奥惠三
CAF賞では2017年度開催から最優秀賞の副賞として個展開催の機会を授与していますが、展示場所や規模などあらかじめ決まった条件はなく、当財団スタッフとの打ち合わせを重ねながら、ゼロからじっくり一年をかけて展覧会を作り上げていきました。そうして開催に至った同展では、平成という時代を背景に、「日本の3DCG」をモチーフに『デジモンアドベンチャー』と『ビーストウォーズ』という二つのTVアニメ作品を扱った、VRの新作インスタレーションや絵画作品などを発表しました。木村さんの作品は、VR機器を通した体験の目新しさばかりが注目されてしまいがちですが、同展ではVR空間上で描かれた絵画作品と、そうしたVR空間での制作体験や作品をもとに現実空間で並行して制作された絵画作品が併置され、バーチャルとリアルのあわいで行き来する木村さんの視座が空間全体に表れるような展示となりました。
「dreamのあとから(浮遊する絵画とVRの不確定)」展(2018)より《ゴリラ&カブトムシ》(2018)、撮影:木奥惠三
「VRを使ったら誰もがこういう絵になるわけじゃないんです。僕は自分の作品をモダニズム的だと思っていて、VRの中に絵画のルールを持ち込むとこうなるんじゃないかとか、VRの要素が入ることで絵画こうなるとかと、制作を通して絵画のシミュレーションを何度もし直しているんです。それは架空の歴史のシミュレーションの繰り返しのようなものかもしれませんね。」
この個展「dearmのあとから~」はすぐに様々な反響を呼び、タリオンギャラリーとカオス*ラウンジでの、毛色の異なる二つのグループ展の参加へとつながっていきます。
木村翔馬、鈴木哲生、山本悠「貫く棒の如きもの」(2019)の展示風景、Courtesy of TALION GALLERY
タリオンギャラリーでの「貫く棒の如きもの」展は、同展タイトルをテーマに、イラストレーターとして活躍する山本悠さんと、独自のレタリング表現で注目を集めるデザイナーの鈴木哲生さんとの三人展で、ジャンルの異なる作家たちとの展示が実現しました。
「ジャンルの違うお二人とお仕事するのはとても難しくもありましたが、刺激的な経験でした。絵やインスタレーションの作家ならフィーリングで乗り切れることもあるんですが、山本さんは美術を脱臼させて、外して、積み上げてはまた一個壊してくるし、鈴木さんは美術のフォーマットにとらわれないので、展示のアプローチだって全然違う。そんなお二人に対する僕なりのカウンターや答えみたいなものを繰り出していきたい、と考えていました。」
木村翔馬、鈴木哲生、山本悠「貫く棒の如きもの」展より、木村翔馬《寿》(2019) Courtesy of TALION GALLERY
例えば「寿」の字を描いた作品《寿》もその一つ。図像として成立し絵画としての性質を持つと思える文字を描くシリーズの一作で、レタリングを手がける鈴木さんの作品との展示を意識して出品したと言います。バーチャル/リアルの問題から引き戻り、多ジャンルの作家の共演から一本の共通する線を探ろうとする同展のコンセプトに応え、絵画や美術の枠組みを問うような試みだったとも言えるでしょう。
一方、カオス*ラウンジでの「ヴァーチャル・リアリティの居心地」展は、タブレットの画面に指で直接触れての描画経験をもとに絵画作品を制作する、名もなき実昌さんとの二人展のかたちをとりました。
「ヴァーチャル・リアリティの居心地」(2019)の展示風景、撮影:水津拓海/rhythmsift
「実昌さんも僕も、デジタルの視覚性や実感を持った作品を作っているという点で共通しています。ただ、カオス*ラウンジの黒瀬陽平さんが考えてくれたタイトル『ヴァーチャル・リアリティの居心地』の”居心地”とは、その”良さ”を言っているわけじゃないということが大事なんです。これはヴァーチャル・リアリティの”居心地の悪さ”を言っていて、ヴァーチャルなのにそこに確かに人がいる居心地の悪さ、生々しさみたいなことを重視しようと思って制作しました。」
「ヴァーチャル・リアリティの居心地」の展示風景。中央の作品は木村翔馬《免疫のない地点(P)》(2019) 撮影:水津拓海/rhythmsift
そんな「生々しさ」の例として木村さんはVTuber(YouTuberとして動画配信をする3DCGなどで作られたキャラクター)を挙げます。インターネットが一般にも急速に広がっていく1996年に生まれ、自身をデジタル・ネイティブ世代に位置付けデジタル化の動向を見てきた木村さんですが、同世代の名もなき実昌さん(1994年生まれ)との二人展を通して表現しようとしたのは、楽観的な新世代・新時代の感覚などではなく、むしろ変わりゆく時代の節目に見られる歪さや曖昧さのようなものだったのかもしれません。その意味で、新元号「令和」の発表後・施行前である、2019年4月というこの特殊な時期に同展が実施されたことは象徴的でした。
「デジタルとアナログがぶつかっていたことを知っている人って、いずれいなくなっちゃうと思うんです」という木村さん。「新しいメディアを使う作家」でも、「新世代的な作家」でも、木村さんの作家性を表すのに不十分に思える理由は、ここにあります。
「dreamのあとから(浮遊する絵画とVRの不確定)」展より《チーター視点》(2018)、撮影:木奥惠三
「今がアナログとデジタルの間の時代かと言えばそうではなく、デジタルとアナログは実はずっとぶつかっていて、今はデジタルとアナログが”ぶつかっていた時代”と、もはや”ぶつかっていない時代”の間。VRはそんな変わり目の時代のものなんだと僕は捉えています。僕よりも若い世代はデジタルとアナログの境界が曖昧ですが、デジタルとアナログがぶつかっている状況だからこそあった、絵画が終わってしまう、美術が終わってしまうみたいな語り口ができなくなるかもしれない。そういったことを見せていく、つないでいく作家にはなっていけるのかなって思っています。」
一見メディアの問題を扱っているようにも思えますが、木村さんが制作を通して試みているのは、デジタル/アナログ、ヴァーチャル/リアルなどのそもそもが二元性に揺らぐこの時代をとらえることなのかもしれません。
「ヴァーチャル・リアリティの居心地」展より木村翔馬《Blue Hostel_1》(2019)、撮影:水津拓海/rhythmsift
「目標としている作家は?って聞かれたら、アンディ・ウォーホルって答えます。ウォーホルの作品を見ると、もはや僕がわからない、あの時代の人々が感じていた大量に物が作られてオリジナリティが失われていく恐怖をなんとなく想像できるからです。僕は消費されたくてVRをやっているんじゃなく、ああいうエポックメーキングな仕事ができたらいいなと思ってVRをやっているので、10年や20年の単位ではなく、もっと長い目で見たときにも価値を持っているような美術作品を作っていきたいですね。」
このほど京都・今出川に、同世代の西原彩香さん、澤あも愛紅さんと共同スタジオ「artists space TERRAIN」を構え、5月にはオープンスタジオも開催されます。また本年中には、CAF賞の副賞の一環で国外での発表の機会も計画中とあり、活躍の場はますます広がっていきそうです。木村さんの今後の展開にぜひご注目ください。
■展示情報
「dreamのあとから(浮遊する絵画とVRの不確定)」
2018年11月23日~12月2日 @ninetytwo13gallery
「ヴァーチャル・リアリティの居心地」
2019年4月6日~4月21日 @ゲンロン カオス*ラウンジ五反田アトリエ (東京都品川区東五反田3-17-4 糟谷ビル2F)
「貫く棒の如きもの」
2019年4月6日~4月28日 @タリオンギャラリー(東京都豊島区目白2-2-1 B1)
■オープンスタジオ
「artists space TERRAIN -OPEN STUDIO-」
会期:2019年5月4日・5日・6日 11:00-19:00
場所:京都市上京区室町頭町上立売上がる室町頭町293番地1
https://kimura-shoma.tumblr.com/