INTERVIEW

CAF Note #6 ポートフォリオレビューレポート

学生を対象とするアートアワード「CAF賞」では、賞の実施以外にも、これまでの入選・入賞作家へ様々なかたちで活動支援を展開しています。今回はその試みのひとつとして2019年3月に開催された、ポートフォリオレビューの模様をご紹介いたします!

アーティストにとって、オーディエンスはもちろん、キュレーターや批評家、他のアーティストなど、他者の様々な目を通して自分の作品を見つめ直すことは大切です。しかしまだ若いアーティストは展示の機会にもそう恵まれず、仲間内以外からの評価を受けられる場は限られます。
そこで今回、当財団では森美術館の特別なご協力を得て、ポートフォリオレビューを開催いたしました。レビュアーをご担当くださったのは、現在開催中の「六本木クロッシング2019展:つないでみる」を担当されている、同館キュレーターの椿玲子さんとアソシエイト・キュレーターの德山拓一さん。CAF賞の過去5回に入選・入賞された作家の中から15名がご参加くださいました。

森美術館キュレーター 椿玲子さん

都内の当財団オフィスで開催された本イベント。各作家には5分の持ち時間の中で、あらかじめご用意いただいたポートフォリオをスクリーンに映しながら、ご自身の作品についてご説明いただきました。それぞれのプレゼンテーションの後には、キュレーターのお二人からご質問や、アドバイス、時には鋭い指摘も飛び出します。

例えば、彫刻のインスタレーションを手がける作家には、そのユニークな制作方法に触れて「表面に出ている色が強過ぎて、せっかくの素材や技法のコンテクストが見えづらい。制作過程の映像も含めて見せると、鑑賞者の反応も変わってくるのでは?」(德山さん)というアドバイスがあったり、様々な方向性のシリーズ作品を展開しながら「一貫したテーマがないのが自分の悩み」という作家には、「一つひとつのシリーズの面白さが成り立っているから、今無理に決める必要もないし、作家として続けていくうちにテーマは変わっていくもの。」(椿さん)という、作家の個性を引き出すようなアドバイスもありました。一方で、絵画を制作する作家には「今、この時代に絵画である必然性をもっと追求してほしい。」(德山さん)、「思い切って別のメディアにも挑戦してみると分かることがあるかもしれない。」(椿さん)といった、鋭い一言も。また自身のアイデンティティーに根ざした作品を手がける作家には、「アートは、アーティストにとっての問題が鑑賞者にとっての問題でもあると突き付けることができる。それがアートが通常のドキュメンタリーとは違うところ。」(德山さん)と、アートが持つ力を再確認できるようなアドバイスもなされました。

森美術館アソシエイト・キュレーター 德山拓一さん

椿さんも德山さんも、世界を舞台に活躍する世界的なアーティストが参加する展覧会のキュレーションも手がける一方、今回の参加者の皆さんともそう年齢の変わらない美術大学に在席中、または卒業したばかりのアーティストともお仕事をしてきたキュレーターです。今回のポートフォリオレビューでは総じて、参加者の皆さんが今直面する問題に寄り添いながら、この段階で小さくまとまろうとせず、若いうちならではの瑞々しい感性を育てたり、新しいこと、試したことがないものにも果敢にチャレンジして、可能性を開いていってほしい、というようなお二人の想いが感じられるようでした。



イベントの後半は、参加者の皆さんからキュレーターのお二人に寄せられた質問をもとにしたフリーディスカッション。

まず最初に話題に挙がったのは、アーティストとして「生活」していくということについてでした。近年、アート市場も成長し、アートは様々な分野に取り入れられ開けたかに思えますが、それでもアーティストにとって直面せざるを得ない現実的な「お金」の問題は、これからキャリアを重ねていこうとする若手作家には切実です。お金に煩わされないで制作できる環境を求めるような声も出ました。

これに対して、椿さんは「お金ではないシステムでアーティストがやりたいことをできる、そういう次元にいければいい」という前置きをしつつも、「私たち森美術館だって資本をもとに運営されていますし、現状は、お金がなければいい展覧会はできない。私は森美術館という場所、「六本木クロッシング」という展覧会が、日本の現代美術の作家を世界に出していく場になると思っているんです。国外の展覧会やビエンナーレには日本の作家が本当に少ない。そういう状況は打破していきたい。」と想いを語り、「お金」の問題に直面しているのはキュレーターもまた同じなのだと気づかされました。

続いての話題はアーティストとキュレーターの関係について。そもそも作家をどこでどう知るのか?という質問に対して、德山さんは「やっぱり作品ありきなので展覧会は大事。でも本当に答えがない質問で、偶然の出会いもあれば、アーティストからの紹介とか、色んなパターンがある」と言います。例えば德山さんが企画した昨年の「MAMプロジェクト025」では、面識がなかったにもかかわらず、タイの自宅に押しかけ過去には個展も行なっているアピッチャッポン・ウィーラセタクンさんと、互いに学生時代から知りながら初めての仕事となった久門剛史さんの、共同制作による映像インスタレーションを実現しました。一方、椿さんも德山さんも芸大・美大の卒展へも足を運ぶようで、実際、今回の「六本木クロッシング2019」に出展する林千歩さんは、椿さんが東京藝術大学の修了展で知った作家だったとのことで、キュレーターとアーティストの出会いが一様でないことが伺えます。

そんなアーティストとキュレーターのつながりの中で大事なこととは?という問いに、德山さんは即座に「信頼」と答えます。「展覧会は直感と信頼だなって思っていて、キュレーターとアーティストがお互いをわかり合えている、という信頼関係が結べた作家とは、いい展覧会ができてきたと思う」。また椿さんは「アーティストとしての長いキャリアの中で、この人いい時期に来ているな、というのはある。アーティストもキュレーターを見ているし、キュレーターもアーティストを見ていて、お互いにとっていい時期が来たときに展覧会ができると幸福ですね。」と言います。

最後に、キュレーターのお二人から皆さんへ、こんな言葉がかけられました。

「アピチャッポンさんは僕の心の師匠でもあるんですが、彼は日々自分が作りたいものが何かを問いかけていると言っていて、僕自身も自分がやりたいかどうかを自分の仕事の必要最低条件にするようにしています。単純ですが、とても難しいことですよね。それでも、皆さんにも自分に問いかけ続けていってほしいなと思います。」(德山さん)

「作家としてやっていくなら、これからは長いです。今売れたらいいということでもなくて、いい時もあれば大変な時期もあって、そこで続けられるかどうか。本当に作りたいという気持ちが消えないように、その気持ちが続くスタンスを保っていくというのが重要で、とても難しいことです。私たちキュレーターにとってもそれは同じことかもしれません。」(椿さん)

限られた時間の中ではありましたが、作家の皆さんには、美術館のキュレーターの目を通してご自身の作品を振り返って見ることができ、またキュレーターがどのようにアーティストたちと関係していき、どのような姿勢で展覧会や作品に向き合っているのか垣間見ることができた、貴重な時間となったのではないでしょうか。

Contemporary Art Foundation