INTERVIEW

Artists #43 倉知朋之介

この度のインタビューでは、アーティスト・倉知朋之介さんをご紹介いたします。倉知さんはCAF賞2022(https://gendai-art.org/caf_single/caf2022/)で入選。日常生活の中で発生する「可笑しさ」に着目し、映像やインスタレーションを中心に作品制作を行われています。大学時代のお話から展覧会、現在の制作活動のお話など幅広く倉知さんにお伺いしました。


--倉知さんが作家活動を始めた経緯からお伺いさせてください。


倉知:映像を作り始めたのは中学生の頃に友達とYouTubeへの動画投稿を始めたことがきっかけでした。同時期にVine(*2013年頃に流行したショート形式の動画共有アプリ。現在はサービス終了。)がリリースされ、Vineも試しに始めてみました。そこで僕が鼻にザリガニを挟んだ6秒の動画を投稿したら、ドカーンってなっちゃって(笑)。その頃から動画編集や撮影がずっと好きで、いま作っている作品はその延長のようなもの感覚があります。

Vineに投稿していた頃は進路を決める時期でした。僕は撮影や編集が好きでCMや映画の制作に関心を持っていたので、芸術系への進学を希望し京都造形芸術大学(現:京都芸術大学)の情報デザイン学科(以降、情デ)に入学しました。情デの授業ではクライアントワークのような課題が多く、会社の理念に沿ってグラフィックを制作する実践があったのですが全然うまくいきませんでした。僕自身それに苦手意識があって、教授から隠れて動画を投稿していました。
情デはかつて「先端アートコース」と銘打っていたこともあり、その名残で現代美術を学ぶ授業がありました。そこには映像作品を制作しているカワイオカムラさんのユニットが先生でいらっしゃって、当時僕は現代美術についてほぼ無知だったのですが、ユニットの一人である川合先生との出会いをきっかけに現代美術に触れることになりました。他の教授は作品講評の時に「就職するには、大手広告代理店に入るためには」といった企業やメディアを意識した視点でしたが、川合先生は僕の動画を作品として解釈してくださり、僕はその時に「もしかすると現代美術のフィールドなら僕の作品は発表できるかもしれない」と気づきを得ることができました。そこから現代美術の入門書を読み始めて、その中で登場したマイク・ケリーやポール・マッカーシーを見て、やばい!!とのめり込んでいきました。

《チンポッポ》2019年/4分15秒/映像

倉知:学部3年の時に、プレ卒(*卒業研究の前段階として行う研究活動の略称。)で僕の身長ぐらいのでっかい鳩を作りたくて、ウルトラ(*=ULTRA FACTORY。京都芸術大学学内にある制作支援工房。)を利用しました。そこには粉まみれになった人がずっといて、その人はいま僕の作品制作に協力してくれたり一緒に展示を行う、アーティストの米村優人さんでした。後々、米村さんに僕との最初の出会いについて聞いたら「でっけえ鳩を作ってるキモいやつがいるな」と思ってたらしいです。

左から:倉知朋之介、米村優人さん

倉知:それから京都芸術センターで行われていたトークショーに行ったことがきっかけで京都芸術センターでアルバイトを始めました。搬入のお仕事や美術系のお手伝いなどを通して、アーティストの方たちとお会いすることが多くなりました。このお手伝いは僕にとってすごく勉強になって楽しかったです。そのほかのアルバイトは、大学2年生くらいの時に結婚式の撮影をしていたのですが全然ダメで、僕がポンコツすぎてめっちゃ怒られていました。お好み焼き屋さんで働いても全然ダメで、1ヶ月でやめちゃうみたいな。でも京都芸術センターはみんな優しくて、制作とか搬入のお手伝いとか、やっぱり興味があることなので真面目になれるというか、楽しく働くことができました。


--学部の卒業制作は何を発表されましたか。


倉知:学部4年生の時、僕の学科は皆が就職を視野に入れ行動していました。しかし僕は卒業後アーティストとしてやっていきたいと思っていたので、悩む時間が多かったと記憶しています。どのように活動するのか・どこを拠点におくかなど具体的に決められることもなく、まずは進学をしてみようと検討していました。希望する大学院が英語必須だったこともあり、急遽4年生の7月くらいにフィリピンへ語学留学に行きました。

《アメリカンドッグ》2020年/19分26秒/映像

1ヶ月間海外に行くのなら自分の制作にとって意味ある時間にしたいと思っていました。渡航前から「アメリカンドッグ」のことをリサーチしていて、渡航後は現地で卒業制作も兼ねて撮影を行いました。
フィリピンの先住民族であるバジャウ族にアメリカンドッグを振る舞ったり、アメリカンドックを軸に様々な映像を撮ったりして帰国したのですが、撮影した映像を先生に相談したところ「フィリピンがアメリカの植民地だったってことは知ってる?」って言われて。僕はその事実自体は知っていたのですが、アメリカンドッグって日本語に直訳すると「アメリカの犬」という意味じゃないですか。そこを見落としていて…バジャウ族にアメリカンドッグを振る舞うのは酷いことだったのではないか、と一瞬不安と躊躇いが浮かびました。しかしそれを笑いで吹っ飛ばすぐらいのことができないかなという気持ちもあって、アメリカンドッグを発表するための制作に着手していきました。

《アメリカンドッグ》2020年/19分26秒/映像

倉知:この作品は「いろいろな角度からアメリカンドッグを確かめていく」ような映像作品にしています。


--アメリカンドッグの作品あたりから、本格的に映像制作に取り組まれていますね。最近はSNSでも作品に近い投稿をされているのをよく拝見します。


倉知:僕にとってインスタグラムのストーリーズはドローイングになっています。制作をするための頭の体操のように投稿していて、これは作品に使えるなって後から見返したりしていますね。インスタの様々なリールは世界中の今の流行が分かりやすく見える場所という認識で、保存したりしてメモして制作時には見返しています。ただリールは一本勝負のようでラフにできない感じがあるので、ストーリーズだと最初に何か撮っちゃえばその後こねくり回して面白くできる自信があって、あれをいじっている時が一番楽しいかもしれないです。何も考えずにできるので作品で迷ったり落ち込んだりする時にストーリーズを撮影するとポジティブなマインドになります。落ち込みやすい性格なので大体落ち込んでいる時にストーリーズの撮影をしますね(笑)。最近は大学院を修了して、比較的自由に撮影できた学校のアトリエを使用できず、あまり大声を出せないのでビビりながら撮影しています。公園でも撮りますが人の目を気にするので外で撮影をする時はコソコソやっています。レンタカーなど大声出せる場所があるならどこでも撮影するという感じです。

倉知のインスタグラムストーリーズより

過去の展覧会に、一度ストーリーズを作品としてそのまま展示したことがあったのですが、それはどん滑りしてダメでした。スマホ上だから面白い動画なのだなと気がつきました。
SNSはTikTokもやろうと思ったのですが結果として僕には合いませんでした。当時の感覚なので今では仕様が変わってきているかもしれませんが、TikTokは顕著に数値化されてしまうような側面を感じて、競争を意識してしまい苦手でした。あと界隈というか、流れてくる動画が好みではない印象がありました。その点インスタは自分が選択して見ていくことができるから楽しいです。ストーリーズで誰が見ているのかわかるのが、ちょっと中毒になります(笑)。

左:伊藤颯さん、右:小島翔さん

どの映像にも言えるのですが僕単体がそのまま画面に映ると締まらなくて、はやぴ(伊藤颯)が出ると画が締まります。あと小島翔くんは演技がうますぎて出演してくれる度に撮影最中から爆笑してしまいます。僕が映る時は少しおかっぱにして、映像を見てくれる方に「なんやねんこいつ」って思われるよう意識しています。例えば僕の映像で自分自身が映る時は、鳥のアホっぽさみたいな、何も考えてないような表情やしぐさを意識していて、よく鳥の動画を見て表情や動きなどを吸収しています。
僕の映像作品はほとんど脚本やコンテがないです。この人が登場してこうなって最後爆発する、みたいな感じで(笑)大まかなあらすじのようなものは決めてあとはその場の人の動きで進めています。偶然良いものができることもありますし、むしろそのほうが自然な流れで出てきたおかしなシーンが生まれていいなと感じます。
大変な撮影の時には大学時代に手伝ってもらっていた映画学科の友人にお手伝いをお願いしています。彼はなんとなくこういう感じがいいって言えば詳しく言葉で伝えなくてもわかってくれて、感覚がピッタリなので助かっています。


--倉知さんは展覧会にも精力的に参加されていますね。


倉知:学部を卒業したタイミングで京都のギャラリーを借りて、個展「ジャンボタニシ」を開催しました。個展のタイトルは電気グルーヴのジャンボタニシという曲から取っていて、名前がすごく気に入ったんです。タニシについて調べていると、田んぼの害獣だと知りました。この作品の登場キャラクターに古墳から生まれた神様と田んぼの神様がいて、後者は神様と田んぼの害獣を掛け合わせて作っています。この頃から作品に意味づけしたり、一見、何か考えているように作品を組み立てることがあまり自分とは合わないと思い始めました。笑いの方向に全振りすることで撮影も編集も手が進みます。もの/ことを解釈したり意味を含ませたりすることは、作品に必要だと思いつつまだ折り合いの付け所を探しています。

《ジャンボタニシ》2020年/9分52秒/映像/KUNST ARZT(京都)

さっきお話した米村さんの「John Gan jihn」というコレクティブのメンバーとして僕も加わり、コレクティブとして奈良・町家の芸術祭 「はならぁと」に参加しました。僕の展示場所は古屋だったので、そこで映像撮影をしました。畳や古く小さい浴槽は私生活で触れ合っているものと異なり場遊びを色々試していました。その一つにお風呂に飛び込むループ映像があり、現在でも更新しています。

《ジャガイモ》2020年/8分54秒/映像、「Meteoron:11人の人たちにとってローカルになるから」Art-Space TARN(奈良)

2020年の年末にインスタのストーリー上でアーティストの山下拓也さんとVOUでパフォーマンスをしたことがありました。山下さんの衣装は昔実在した海外の都市の市長のマスコットキャラクターです。市長のキャラクターが誕生して十数年後にマクドナルドから似たようなキャラクターが出てきて、見た目が似ているという理由で市長キャラ側から訴えられてしまい、マクドナルドが負けたんです。その話をもとに僕たちがそのキャラクターになってVOUの展示会場内でうどんを作って、最後にVOUのオーナーの川良さんに届けるというパフォーマンスを行いました。

《熊と多分インディアンと市長か警察官と背中、他(⚡️)》2020年/8分54秒/パフォーマンス、VOU(京都)、衣装:今川由梨

山下さんとはHAPS(*現代美術に関わる作家の支援や、文化芸術の多様なプログラムを展開する京都に拠点を持つ機関。)で山下さんが制作されている時に僕が制作のお手伝いをして、それがきっかけで僕自身の作品についてもお話しをすることがあって知り合いました。山下さんの版画の作品と、僕が特定の曲を繰り返し使用する作風が「複製」という意味合いで共通点があり、この時ちょうど山下さんがVOUの個展を開催されていたので、その展示のイベントの一環として一緒にやってみない?とお声がけして頂きました。

映像を見てくれている方々には一番に笑ってほしいという気持ちがあります。展示で爆笑してもらうことができたら一番嬉しいですね。
そこでなぜ僕の作品は美術なのかを考えなければならないと思うのですが、現代美術の中で純粋な「笑い」って文脈は全然なくて、ちょっとアイロニーだったり批判的な態度として「笑い」が使われることはあります。制作をしていて自分自身が楽しいということもありますが、僕はどうしたら美術の中で「笑い」のような事ができるのかなと純粋に考えています。 大学の教授には「面白いだけじゃなくてその裏に何か秘めないと。」といった感じで、講評では結構凹みました。確かにそうなのですが、ただそれでいいのか、その「笑い」について自分としてどうやって扱っていこうかなと今も考えています。


--最近の作品について教えてください。

《チョコチップクッキー&ミルク》2022年/11分56秒/映像/「ARTISTS’ FAIR KYOTO 2022」京都新聞ビル(京都)撮影:岡はるか

倉知:「ARTISTS’ FAIR KYOTO 2022」で発表した作品が今いろいろな方に見てもらえるきっかけになった作品です。この作品を展示した際にアーティストの布施琳太郎さんが来てくださって、この展示の後に行われた布施さんキュレーションの「惑星ザムザ」への出展をお誘い頂きました。

《ムシ図鑑》2022/11分51秒/映像インスタレーション、「惑星ザムザ」小高製本工業株式会社跡地(東京)

「惑星ザムザ」の展示会場が元製本所だったということもあって、布施さんは僕に何かしらのでっかい本を作って欲しいという話をしてくれました。これがCAF賞2022にも出展した《ムシ図鑑》という作品です。
今もこの作品の呪縛が残っているくらい、ファーストアルバムの一番人気曲のような感じになっています。この作品は制作期間が2週間くらいで、展示の前日に撮影しに行ってスケジュールも作業もめちゃくちゃでした。逆にめちゃくちゃだったからこそできた作品で、今同じものを作ってもその時と同じ様にはできないと思います。
その後GILLOCHINDOX☆GILLOCHINDAEくん(CAF賞2021入選作家・アーティスト)から「展示してるから来て!」と連絡をもらい、彼が展示していたギャラリーに伺いました。GILLOCHINDOX☆GILLOCHINDAEくんは僕のインスタをずっと見てくださっていたみたいで「獸(第1章/宝町団地)」に出展することになりました。

《キャッソー》2022/10分44秒/映像、「獸(第1章/宝町団地)」CONTRAST(東京)

「獸(第1章/宝町団地)」では《キャッソー》というお城の作品を展示したのですが本展示は子供時代がテーマだったので、自分の子供の頃を振り返って地元にあるお菓子の国を舞台に映像を撮りました。僕がずっといじってる地元の面白い友人にも王子様役で無理やり映像に出演してもらいました(笑)。


--倉知さんの映像はとても特徴的な切り返しがあったり、映像を見せる環境の美術のセットも手作りされていて、見せ方にこだわりを感じます。


倉知:今はもう活動されていないのですが、ニュージーランド人のYouTuberが「Moon TV」というチャンネルで《Speed Cooking》というシリーズの動画をあげていました。小学生ぐらいの時に見ていたんですが、今でも参考にしています。

「Moon TV」《Speed Cooking》より
https://youtu.be/7iUChbaS5PE?si=2wJtfIhir4utcOgp

このチャンネルの動画で赤ちゃんに食い殺されて終わる動画があって、それがとても印象的でした。僕が何を作るか悩んでいた時に、とりあえずその動画を丸々真似してみようと思い立ちました。それで試しに《Speed Cooking》の赤ちゃんをハムスターに置き換えて撮影しました。「Moon TV」はニュージーランド人のYouTuberなので早口の英語で話していますが、僕は英語が話せなかったのでゴニャゴニャ言いながら身振りだけで試してみて、カットやカメラの位置や切り替わりをそのままの構図で真似してみたらテンポの良さがしっくりきて、それが今の映像作品の特徴に繋がっています。登場人物が英語を真似して話すベラベラ語のようなものは、僕の映像の中で目立っているのですが実は僕の作品にとってそこまで重要ではない要素だったりします。現状は作品の中でそれが主軸のようになっていますが、正直そのイメージからどのように脱却するか常に考えています。

美術セットに関してはアーティストの高田冬彦さんから影響を受けていて「手作りの質感」を大切にしています。彼の作品は自分のセクシャリティーのことや神話の要素が入っていて、笑いをとるためというよりもメッセージ性がある作品です。一方の僕はやっぱりふざけることが好きな面が大きく、衝動的に制作をするので手作りのセットも大切な意味を込めているものは多くないです。ちなみに高田さんに、衝動的に作りたいものを作ってしまうことってありますかと聞いたら「ないです」と(笑)。高田さんのメモを見せてもらったら入念にカットやセットが書かれてあって、ちゃんと人数も事前に集めて撮影するので全く僕とは作り方が違う。僕に足りないところを示してくれたアーティストです。


--今後の活動について教えてください


倉知:まずは海外でたくさん展示できるようになりたいです。以前に中国の映像祭から出展のお誘い頂いたことがあるのですが、僕の映像がうるさすぎて隣の展示室に影響しちゃうから違うやつにしてって言われてしまいました(笑)。他でもチャンスがあったら、海外の展示に出してみたいです。
映像や編集、広告などにも興味があります。現在の制作活動を続けていきながら、まだ考えられていない側面を埋められるように制作を続けていきたいです。
京都新聞のプロモーションのお仕事をいただいたことがあって、担当者の方から「お笑い芸人が展示をするから僕の作品と絡めてもいいですか」と提案して頂きました。ただ同時にその方から「倉知くんの見え方って「笑い」で大丈夫なのでしょうか」という質問ももらい…それはその通りで、僕は美術の中での「笑い」については考えていますが、お笑い芸人ではないので、「芸人」のカテゴライズとなると作家活動の危うさを感じています。キュレーターの方から倉知さんにとって文化的コードは何なのだろう、と尋ねられることがあって、それはキュレーターの方が考えてくださいと思うのですが(笑)、世の中に対して自分で明確に立場を主張しないとやっていけないよ、とも言っていただくこともあります。僕としては、選択を迫られ迷った時はまず、面白いことをやる、の気持ちを持っていたいです。現代美術、現代美術と活動するのも良くないし、必ず何かの枠だと決めず自分の作風は大切にしながら、必要だと感じるものを補いながら制作をしていきたいです。

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倉知 朋之介 | Tomonosuke KURACHI

1997 愛知県生まれ
2020 京都造形芸術大学(現:京都芸術大学)情報デザイン学科 卒業
2024 東京藝術大学映像研究科メディア映像専攻 修了

個展
2023 「ラズベリーフィールド」Token Art Center(東京)
2020 「ジャンボタニシ」KUNST ARZT(京都)

グループ展
2023 「味/処」神奈川県民ホールギャラリー(神奈川)、「逆襲」SNOW Contemporary(東京)、 「NSFS/止め処ないローレライ」VOU(京都)、EUKARYOTE(東京)
2022 「P.O.N.D.」渋谷PARCO(東京)、 「獸(第1章/宝町団地)」CONTRAST(東京)、 「ARTISTS’ FAIR KYOTO 2022」京都新聞ビル(京都)、 「惑星ザムザ」小高製本工業株式会社跡地(東京)
2020 「Meteoron:11人の人たちにとってローカルになるから」Art-Space TARN(奈良)

賞歴
2022 「CAF賞2022」入選
2020 「2019年度京都造形芸術大学卒業作品展」優秀賞

Contemporary Art Foundation