INTERVIEW

Artists #41 堀聖史

今月6月8日まで、東神田・バンビナートギャラリーにて、堀聖史個展「マジックタイム・スイートホーム」が開催されていました。堀さんはCAF賞2020(https://gendai-art.org/caf_single/caf2020/)で入選。美術作家として活動しながら、音楽バンド「カブトムシ」のメンバーとして音楽活動もされています。本インタビューでは個展を中心に、音楽活動にも触れながら、現在のご活動についてお話を伺いました。


--この度は個展のご開催おめでとうございます!本展はステートメントから印象的で、開催を楽しみにしておりました。

堀:毎回、展覧会のステートメントを書かせて頂いているのですが、具体的にテーマがあるというよりはアーティストステートメントを更新していっているというイメージで書いています。明確にこういうものが描きたいとか、共通しているモチーフはなく、自分のものの見方がどう変化したか文章に起こしているというようなイメージです。今回は展示作品のうち2枚目を描いている段階で、すでにテキストが出来上がっていました。

「マジックタイム・スイートホーム」ステートメントより

《前照灯、ピザ》2024年/キャンバスに油彩/38 × 45.5cm(F8)/撮影:米山馨

僕は、実際にあるものをデッサンのように見て描いてはいないです。あえて言うなら、自分の絵を見ながら描いているという感じです。もちろん自分の記憶や日常的に見ているもの、電車に乗っている時とか、画面越しの画像など、見えるものが影響しているのですが、基本的には自分の絵を見ています。今回の絵は、人みたいなものや顔など、具体的なモチーフがはっきりしていると思います。最初の1枚は前回までの個展の作品に印象が近くて、色使いがカラフルで構図もはっきりとした見え方はありません。この作品を描きながら、自分の感覚は2年生の時に開催した個展の時と大きく変わっていないと思うようになって、あの時と同じ気持ちで今回の作品も描こうと思いました。
制作を続けていると未知の領域を開いていくような感覚になるのが面白いです。自分でも解らないところに辿り着くのが楽しくて、描き終わって自分が何を描いたのか分からないこともあります。制作の目的として、絵を描き進めているうちに画面がだんだん見たことないものになるところを見たいというのがあります。
それと抽象的な話になってしまうのですが、ずっと共通している感覚があって。ものが置いてあったり、道があったり、人が歩いていたり、車が走っていたり。自分が外を歩いていると常に風景は流れていくけど、全てのものは同時に存在し続けていて、それぞれに別の時間が流れている。これは普通のことですが、意識すると違うものが違う場所で同時に存在していることがとても目まぐるしく感じてきます。自分は特に何もしていないのに理由もなく存在している、全てがあって、ものすごく精巧に動いている。ものが在るということだけで、ふと、すごいことだなと感じる瞬間があります。

--その断片のようなものが、絵画の中にコラージュ的な要素として配置されているのでしょうか。

堀:そうですね。今回の個展の絵は、「見えない巣に帰っていく」というイメージに繋がっていきます。自分の視点から見えるものはわずかで、その外側は無限に広がっています。存在するほとんどのものは自分が見えない部分に存在していて、そこに帰っていくようなイメージで今回の作品は描いています。ある人についていけば当然その人の家に辿り着くと思うのですが、実際は視界の外、自分の意識の外へと消えてどこにいったか分からない。自分の「意識の外側」が「帰る場所」というイメージと重なって、みんな同じところに帰っていくのではないかと思いました。

《プラットホーム》2024年/キャンバスに油彩/145.5 × 112cm(F80)/撮影:米山馨

《シーユー》2024年/キャンバスに油彩/60.6 × 45.5cm(P12)/撮影:米山馨

--どの作品も何から去っていくような印象を受けたのは、その「意識の外」に向かっている様を見たからですね。

堀:確かにそうですね。自分とコミュニケーションをとる構図の絵がないんですよね。自分が定点カメラのような気持ちになって、外側に去っていく人たちを見ているような感じです。

--堀さんの作品はいわゆる絵画的な構図というより、CAF賞に出して頂いた作品もそうでしたが、夢に見るような絵を描く人だなと思っていました。

CAF賞2020入選作品《ウォークイン/Walk in》2019年/キャンバスに油彩/130 × 194cm
撮影:木奥恵三

堀:普段見える光景の中で、目を留めないようなところに視点を固定してみて、その時に周りがどういう風に見えるか自分の目で試してみているので、そういったところから構図感が出てくるのだと思います。参考にしている作品としては、普段から色々な時代の絵を見るのが好きで、オールドマスター的な人の作品を見るのも好きだし、最近の作家の作品を見るのも好きですが、やはり古い作品を見るのが好きです。技術的なところを見たりもするし、色合いを見たりもします。
僕は美大に行く前は、高専に通っていたのですが、美術はちょっと成績がいいというくらいで、周りに絵を描いている人もいませんでした。でもモノづくりは好きで工業的なものに興味があって、その時はプログラミングや電子工作やAIに興味があって勉強をしていました。自然界にある規則性に興味があったので、生き物の群れの習性や体に現れる模様の特徴など、科学的な不可思議を研究することに憧れていました。ですが工業や産業的なものは自分が求めていたものと少し違っていて、次第に興味を持てない部分が沢山でてきて高専は途中で辞めてしまいました。

--絵画に限らず音楽やプログラミングや電子工作など、何かを作りたいということは常に一貫していて、それがベースにあるのですね。

堀:当時は作れるものならなんでも作りたいと思う時期で、学校を辞めてから自分がやりたいことをやろうと思っていました。プログラミングや音楽や、小説も書いていました。その時は鉛筆でノートに描くぐらいだったのですが美術の学校には行かず独学で絵を描いていました。様々なことをやってみた結果、一番しっくりきたのが絵だったのかもしれません。

--その時の経験が今はそれぞれにアウトプットされていますね。絵はもちろん、音楽活動も続けられていますし、ステートメントとして文章も書かれています。

堀:そうですね、結果的に全てやっています(笑)。 ですが創作する形式として一番受け皿が広いのは絵かなと思っています。絵は一番懐が広いというか、何もしなくても絵になっちゃうというか。小説とか音楽は明確に途中と完成があると思いますが、絵はいつでも終われるし無限に描き続けることもできる。色々なことをやりたいと思うし気が散ってしまうことがあるので、1つの画面に収まり続けるのが自分の性格に合っていると思います。

音楽活動は藝大に入ってから始めました。学部1年生の時に藝大の寮で桒原幹治と藤井登生に出会って、最初は友達として絵や音楽の話をしていました。それまで音楽は家で作って溜めていただけなのですが、初めて自分が作った音楽を誰かに聴いてもらいました。その頃は電子音楽を作っていて、切り取った音をループさせて構成したり、歌はなく音で構成された曲を作ったりしていました。ギターの即興もありました。それを2人に聴いてもらったら面白がってくれて。藤井登生は作曲専攻なのですが、こんなものでも良いって言ってもらえるんだ、と思いました。多分お互い違う感覚があったんだと思います。僕が作る音楽は彼にとって野生の音楽のようなものだったと思うし、僕は僕で、現代音楽や音楽の理論的な側面や集団的な側面に興味を持ち始めました。そこからお酒を飲むついでにギターを弾いたりその辺にあるものを叩いたりして即興で演奏して遊ぶようになりました。そうやって遊んでいるうちにバンドの名前をつけたら面白いんじゃないかという話になって、その頃即興でよく演奏していたaikoさんの曲「カブトムシ」から名前をつけました。

カブトムシ 左から桒原幹治、堀聖史、藤井登生、大野志門

僕はその時ラジオ的なことをやりたいと思って「忘れないで未知子」というタイトルで音楽を含めた制作活動を始めました。ラジオは曲も入れることができるし、CMのようなものも入れることができるし、全てフィクションの中で物語ることができる。今はバンドとして活動していますが、その時はバンドのカブトムシというよりも「忘れないで未知子」がメインの活動でした。バンドの形で楽器を持って演奏し始めたのは割と最近のことで、最初のアルバム『色即ラグーン』の2〜3年前くらいにバンドとしての活動が始まったという感じです。

アルティメット・フィクション・ラジオ《忘れないで未知子》サムネイル

1stアルバム『色即ラグーン』ジャケット
2021年/アートワーク:堀聖史

--最新のアルバム『飛来者』についてお話聞かせてください。

堀:『飛来者』を作り始めてから1年以上経っているのですが、今回はただアルバムを出すだけではなく見る人が増えたら良いなと思い、プロモーションも兼ねてMV制作やイベント開催を行いました。バンドの編成で曲を作ることは最初のアルバムと同じだったのですが、より自由で感覚的に作ることができました。同時にMVを作ってみようとかイベントをやろうとか、その後にライブをしようとか、あらかじめ様々なコンテンツを企画した点も新鮮でした。

最新アルバム『飛来者』ジャケット

--前回の個展では即興演奏のようなライブを行っていました。

堀:タイマーで時間を計ってその間、即興で演奏を行うパフォーマンスを行っていました。演奏はやっぱり見ていると面白くて、自分でやるのも好きだし、即興で演奏するミュージシャンもすごく好きです。デレク・ベイリーというギタリストや、ビル・フリゼールがすごく好きで、民族音楽も即興的な要素が多くて好きです。僕の音楽のルーツは即興にあって、弾いたものをループさせて少しずつ変えていくとか、ギターを弾いて切り刻んで並べたりしていました。当時、一人で作っていた曲も大体が即興でした。

《カフェ》2024年/キャンバスに油彩/38 × 45.5cm(F8)/撮影:米山馨

この作品は、最初余った絵の具がもったいなくて、キャンバスにベタベタとつけていたんです。それを下地にして、何か思いついたら描こうと思って、しばらく置いていたんです。その時にできた下地がそのまま画面に残っています。そこから見えてきたイメージ描き足したり重ねたりしました。その上に描き足したり、重ねたり、見えてきたイメージを追いかけていました。そうするとなかなか絵が終わらなくなってきたので、一旦作業をやめて、写真を撮りながら近所を散歩したんです。そうしたら、空や道、自然な光景が素晴らしくて、日常で起きていることは十分すごいことなのだと思いました。僕は現実は自分の想像を超えているとずっと思っています。目の前で何が起きるのかは正確にはわからないし、全てが奇跡的なことに思えてくる。ずっとそういうことを考えていることに気づき直して、この絵の続きに窓とか光とかを描こうと思いました。
僕は現実とそうでないものが混在したり溶け合ったりしているように描くのが好きです。絵はそもそもは視覚の再現であったと思うので、絵は現実と虚構が重なっているものだと思っています。だから僕は絵が好きっていうのもあるし、絵を描く上で、その部分を楽しんで描いています。

--話を伺っていると、以前学ばれていたプログラミングやCGなども、いずれ制作の手法として戻ってきそうだなと感じました。

堀:工学は技術がどうしても先行してしまうので、僕は学んでいたことから徐々にクリエイティブな方向に進んでいきました。それこそ藤井くんはプログラミングを作曲に使ったりしています。インタラクティブなメディアアートの分野で、MAXというソフトが頻繁に使われていて、それを音楽家もよく使います。そのようなソフトを使って、実際にライブパフォーマンスをしたことがあります。ライブエレクトロニクスのような感じで、自分たちは即興演奏をするけど、その演奏の音に反応してアルゴリズムを通して機械的な反応が返ってくるようなシステムを藤井くんが組んで。そのようなパフォーマンスを作る時に自分もアイディアを出しますし、そのような仕組みを考えるのが好きです。CGも同様に今の制作に活きています。CGの空間で理想的な光をシュミレーションできるので、様々な光のシミュレーションを同じ物体や同じ構図で行って、光の感覚を掴むことができます。そういう意味ではもう戻ってきているかもしれません(笑)。

--制作物の過程を見守る姿勢が研究者のようです。堀さんはご自身でアウトプットされたものの見え方は、鑑賞者に委ねているようです。

堀:もともとは研究者に憧れていて、研究者になりたいと思っていました(笑)。僕の制作物は好きなように解釈されて欲しいし、好きなように伝わっていってほしいなって思っています。実験ですよね。僕はこうしたらこうなるかな、こうしたらどうなるかなっていうのを毎回試しています。絵の描き方も、割と全部同時に描くんですよ。同じくらいのサイズのキャンバスを用意して下地を作って、交換しながら描きます。
この壁の2作品は結構気に入ってます。とにかく集中して描けました。一番変な作品かもしれません。いろんなものを自然と詰め込めた感じです。光の現象っぽいあともあるし、平面的な線とか、タッチとか そういうのが一つの画面に無理なく入ったと思います。確かに立体的に描いてあるものと、壁画みたいに描いてあるものが混ざっています。

《スラム》2024年/キャンバスに油彩/100 x 80.3cm(F40)/撮影:米山馨

《イングリッシュ・クラス》2024年/キャンバスに油彩/45.5 x 38cm(F8)/撮影:米山馨

最初に描いた右下の顔にずっと引っ張られ続けて難しい制作でした。その前は大きなセミを描いていました。最初に見えた構図からずらすということが難しくて、ある意味、そこが面白いというか。とにかく一回決めちゃって、その構図の中でどう動かせるかみたいなのを試していました。最初に思い切って変な構図で描いてたので、かなり困っていました。 自分で未来の自分が頑張るように仕向けているのかもしれません。なんとか良い絵にしてみせろという感じで。バババっと手を入れて、まとまりきってないのもいいのかなって思いました。

--今後の活動についてお聞きかせください。

堀:絵画や音楽に限らず、幅をもっと広げて活動していきたいと思っています。最近はCGにハマっていて、カブトムシで出した『Time Break』という曲のMVも1個丸々全部CGで作りました。ぜひ見ていただきたいです。

カブトムシ『Time Break』MVより
https://www.youtube.com/watch?v=oAML1sN7mDY

最近では、かつて一緒にライブしたことがある知人でJoeくん(Joe Cupertino)というアーティストがいるのですが、彼に依頼されて、シングルのジャケットをCGで作りました。これまで行っていたCGの知識が広がってきて、今はすごくそれが楽しいです。

Joe Cupertino『わがまま(feat. 鈴木真海子)』ジャケット
2024年/アートワーク:堀聖史

常に試して何が起きるかを見たいので、色々なことをやりすぎてどれがメインの活動なんだって思われやすいのですが、僕の中で創作しているものに優劣はないです。だいたいスタイルとかやることというのは活動を続けると次第に定まっていくと思います。なので、結局何がやりたいですか、みたいなことを聞かれるたびに少し不安にはなりますが、やっぱり自分の性格的に決まったスタイルをやり切るようなことは無理だと最近はっきり分かりました。今回の展示も割とその辺を吹っ切れて描けたと思います。音楽の活動も、もちろん絵も描き続けていきます。


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開催概要

タイトル:堀 聖史「マジックタイム・スイートホーム」
会期:2024年5月17日〜6月8日
会場:Bambinart Gallery(東京都千代田区東神田1-7-10 KIビル 2F)
休廊:日、月、火、祝日
https://www.bambinart.jp/exhibitions/satoshihori-magic-time-sweet-home/

堀 聖史 |Satoshi HORI

1996 北海道生まれ
2021 東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻 卒業
2023 東京藝術大学大学院美術研究科絵画専攻 修了

個展
2023 「スタート、ストップ、メモリー」higure17-15cas(東京)、 「甘い目」Bambinart Gallery(東京)
2022 「過去虹」Bambinart Gallery(東京)
2021 「ヘアリー・フェアリー」Bambinart Gallery(東京)
2020 「Satoshi Hori 2018-2020」Bambinart Gallery(東京)、「まなざし仮面」Bambinart Gallery(東京)
2019 「ランタイムのともだち」Bambinart Gallery(東京)
    
グループ展
2022 「3331 ART FAIR 2022」 アーツ千代田3331(東京)、「ホーミーホーム」個人宅(愛知)、「聖玉の地」art gallery opaltimes(大阪)
2020 「CAF賞2020」代官山ヒルサイドテラスF棟ヒルサイドフォーラム(東京)、「天使愛(王之玉、堀聖史)」四谷未確認スタジオ(東京)、「3331 ART FAIR 2020」アーツ千代田3331(東京)

賞歴
2023 「AATM2023 アートアワード東京丸の内2023」審査員野口玲一賞 受賞
2020 「CAF賞2020」入選

Contemporary Art Foundation