来月6月8日(日)まで、東京・森美術館にて開催中の「マシン・ラブ:ビデオゲーム、AIと現代アート」に佐藤瞭太郎さんが参加されています。佐藤瞭太郎さんはCAF賞2020(https://gendai-art.org/caf_single/caf2020/)、2023(https://gendai-art.org/caf_single/caf2023/)で入選。資産として流通するデータを収集し、文学や映画的な想像力を用いて編集することで今日におけるインターネットを描写する作品を制作されています。本インタビューでは佐藤さんが森美術館で展示されている作品のお話から、これまでの作品や今後の活動まで幅広くお伺いしました。
展示風景:「マシン・ラブ:ビデオゲーム、AIと現代アート」森美術館(東京)2025年
撮影:竹久直樹
画像提供:森美術館
--森美術館での展覧会「マシン・ラブ:ビデオゲーム、AIと現代アート」出展おめでとうございます!展示されている作品についてお伺いしたいです。
佐藤:森美術館では新作《Outlet》と《Dummy Life》シリーズ作品を展示しています。これらの作品は今のインターネットの中がどのような世界になっているのか見えてくるといいなと思い制作しました。
インターネットの中を表現するにはまずネットワークを作らなければならないので、アセット(※ゲーム制作に必要な素材や要素のこと。)のデータ同士の関係性を作っています。アセットのデータはゲームの中の素材として使用されたり万博のイメージ図に使われているなど様々なシーンで活用されているので、作品を見てくださった方に「このキャラクターよく使ってるよ」って言われたこともあります。自分の作品の中で様々なシーンで使われているモデルを使うことによってモデルが様々な垣根を越えて繋がり、今のインターネットがどういう世界になっているか見えてくるといいなと思っています。
--佐藤さんの作品の独特の世界観はどういったものから影響を受けているのでしょうか。
佐藤:僕の作品の多くは文学作品から影響を受けています。卒業制作で作った《Blue Light》という作品は「映像とは何か」をテーマにした作品でしたが、プラトンの「洞窟の比喩」から、映像の比喩とは・映像とは何かを考えるようになりました。その頃はコロナ渦だったので人と会うことが映像というメディウムで行うものになり、展覧会さえもディスプレイ上の仮想空間で代替されるようになって世界との接続面が全て映像を介しているようでした。その作品をきっかけに「そもそも映像とは何なのか」を考えたり、自分が今使っているアセットやゲームエンジンあるいはインターネットそのものについて考えるようになりました。安部公房も作品を作る上で影響を受けていて、彼は作品を作るときに作品のテーマは「出てくる登場人物が考えてくれるんだ」と言っています。僕の作品も自分がテーマを設定して作品を作り始めるのではなく、自分がダウンロードしたデータやモデルがソフトウェア上で動き始めてどんどん作品を前に進めていってくれます。自分が想像もしなかった動きや景色が生まれてくることがよくあって、そこに作品の面白さが出ているような気がします。
《Blue Light》2021年/ビデオ・インスタレーション/サイズ可変
佐藤:僕が作品制作で使っているソフトウェアはゲームエンジンというもので、ゲームをプレイするようにキャラクターが動かせます。リアルタイムレンダリングによって、自分が入力したものに対して、画面の中の世界が動き始めるようなことが可能です。
リアルタイムレンダリングは状況を発生させてその中にカメラを忍ばせて撮影することができます。だからアニメを作る時のように一枚一枚絵を描いて映像を作っていくのとは違って、実際のロケ地に行ってカチンコを鳴らし俳優が動き始めてそれを撮影する、映画のような作り方ができるんですよ。実写の映画や映像制作みたいな作り方に近い感覚で作れるので、即興的な変化も生まれてくるし、作っていて驚きがあるので楽しいです。
--普段からゲームもやられるのでしょうか。
佐藤:プレイするよりも実況を見ることの方が多いですがゲームもちょこちょこやります。ゲームの中の世界に興味があって、僕の作品もゲームの中のステージや空間について考えて作っています。ゲームの中の空間ってステージが仕切られていて基本的にはそこから外に出ることはないし、だいたいプレイできるエリアの外側には何にもない。それはマシンの限界的な意味でもゲーム制作の効率化的な意味でも、ゲームをプレイする場所の外側にはアクセスすることはないので何もない方が処理は軽くなる。そういう決められた枠の外側には空っぽな空間があります。それは僕たちが生きている現実の世界と全然違うようでどこか似ていて、そんな土地があるような気がしています。
スーパーマリオ64の有名なバグ技でケツワープと言われているものがあります。壁に向かって後ろ幅跳びを連続ですることによって本来ではいけないはずの壁をすり抜けることができるというものですが、一瞬だけピーチ城の外側が見えるんですよ。でも当然そこはゲームをプレイするためには必要ないから真っ暗で、世界の外側を見れるような感じがします。ゲームはプレイするユーザーの体験をより良くするためにデザインされていますが、僕はその外側を見たいという気持ちがありました。今回は特にそういうところに行っちゃう瞬間みたいなものを撮りたくて、デザインされた街からその外側、何もないけどその向こう側に飛び出してしまう瞬間を撮りたくて作品を作っていました。
--映像作品で流れている音楽も特徴的だなと思いました。音楽もご自身で作られているのでしょうか。
佐藤:音のデータも基本的には全て既製のデータです。 これもフリー素材の音とか、音の素材を大量に配布しているサイトから使えるものを取ってきて、それをミックスしています。森美術館の作品は作曲家・サウンドデザイナーの増田義基さんにサウンドデザインを手伝っていただきました。
--森美術館では平面作品《Dummy Life》シリーズも展示されていましたね。《Dummy Life》シリーズを制作し始めたきっかけをお伺いしたいです。
佐藤:自分が作品にアセットのモデルをたくさん使うようになってから、このモデルが一体何者なのかについて考え始めるようになりました。色々調べても情報は出てこず名前さえついていないモデルもありました。モデルのパーソナリティが無いのであれば、モデルが持っている思い出をインターネットから拾って思い出を作ればいいんじゃないかと思ってこういった作品を作り始めました。写真に写っているものをアセットのデータで置き換えていくことでモデルたちの持っているパーソナリティや思いがあるように見えていきます。元の写真や他のモデルたちとの関係性が少しずつ繋がっていくように思えてきます。元の写真から置き換えたアセットのモデルは、僕が映像の中でも使っているモデルなのである意味で俳優のオフショットみたいに見えるかもしれないです。
《Dummy Life #38》2025年/インクジェットプリント
Original Photo | Vanessa Loring
◒ JAPANESE CITY ◒ | Modular Pack V1.4 by Sherman Waffle Studios
Anime Girl Character by Epic Sound
Brady by mixamo
Doozy by mixamo
Racer by mixamo
Tree And Grass Library Botaniq - Trees by polygoniq
佐藤:映像作品と比べて写真作品は少し違う作り方をしています。ネットで配布されているフリー素材の写真や誰かが撮ったスナップフォトなど様々な写真を集めて、写っているものを全部アセットで置き換えて作っているんです。キャプションには「Original photo by」に続いて元の写真を撮った人のクレジットを記載していて、検索すると元の写真が出てきたりします。
--佐藤さんは大学在学中にどのような作品を制作されていたのでしょうか。
佐藤:僕は筑波大学の芸術専門学群出身で、大学に入学してから現代美術について知ったので、それまで絵画や彫刻のような自分のバックボーンも特にありませんでした。絵画や彫刻を表現の手法として制作している人たちは自分のメディウムがあって、それをブラッシュアップする形で自分のやるべきものを見つけていくと思うのですが、僕にはそういうものがなかったので模索していました。授業で展示を行う機会も少なったので、学内のギャラリーで自主的に展示を行っていました。そういった機会に作品のことを友人と話したり先生に見てもらったりしていましたが、作品の詳しい内容まで話をすることはあまりなかったので、講評らしい講評はCAF賞が初の体験でした。
《Monkey Magic》「CAF賞2020」展示風景より
2020年/映像/7分7秒、撮影:木奥惠三
佐藤:2020年にコロナが始まって大学が使えなくなり、大きく作品の方向が変わってきたような感じがします。それまではネットで買ったものやゴミ箱に落ちていたテレビなどを使って作品を作っていましたが、そういう作品の作り方ができなくなってしまいました。その代わりに仮想空間上で作品を作ってみようと思い、ゲームエンジンをいじり始めて、それが映像作品になっていきました。
僕が作品制作で使っているゲームエンジンは、ゲームを作るためのツールなのでスクリプトを書いて実行すればそれに合わせて動いて、 映像の中のオブジェクトがリアルタイムで動くようなことができます。そういった仕掛けを使いつつ、その中でカメラを回して映像を撮って作品を作っています。作品に使用しているデータは全てアセットというデジタルイメージ制作のための素材データで、ネット上で大量に配布されているものなんですね。そこからインターネットにある既成のデータだけを使って作品を作ってみようと思いました。
《Interchange》「CAF賞2023」展示風景より
2023年/映像/サイズ可変、撮影:木奥惠三
--なるほど、それでこのような作品が出来上がっていったのですね。今後の活動も楽しみです。
これからやってみたいことはありますか。
佐藤:旅がしたいですね。これまではデスクトップ上で完結するような作品を作っていたんですが、最近は自分の今生きている場所やどんな土地に暮らしているかを考えざるを得ないなと思うようになりました。アクセスできるページやデータにはどの国からアクセスするかによって違いが出ますし、ヒットするイメージにもそれぞれの地域性があって自分が今どの国からインターネットにアクセスしているのか、どの国から見たインターネットなのかを考えないといけないなと思い始め、そのためにはまず自分が今生きる土地がどういう意味を持っているのかを考えないといけないなと思いました。
森美術館で展示している映像作品《アウトレット》は自分が生まれた北海道の札幌のことを思い出しながら作っていて、ショッピングモールや郊外のロードサイドの道に店舗がずらっと並ぶような感じを思い出しながら作っていました。自分の故郷や生まれた土地を作品にしようとすればするほどどんどん違うものが生まれてくるのですがそれはそれで面白くて、インターネットにあるデータを使って作品を作ろうとすると自分にとっての故郷じゃないものが大量に入ってきます。それは誰かにとっての故郷やショッピングモールのイメージなので、それを合わせると誰のでもない故郷、特定の地域性が大量に混ざっていって脱色された感じのイメージが生まれます。これは一体誰の故郷なんだろうと考えながら作っていました。それを考えるためにもう一度、故郷の札幌に帰ってみたり逆に自分が生まれた場所じゃない場所に行ってみたりすることが必要なのかもしれません。
インタビューって「どういう土地に生まれて、そこはどんな場所で、どんなことを感じてた?」みたいなことを語る場面があると思うのですが、僕は北海道・札幌のことをうまく語るのが毎回難しく感じています。北海道から関東に出て筑波大学に進学した時、つくばに竹林があるのにびっくりしました。バスに乗っていると竹林が見えて「なんか日本みたい」と思いました。でも思い返してみると自分が生まれた北海道の「日本らしさ」はパッと思い出せない。それがなぜなのかよくわからないのですが、ここ1年間は森美術館の展示の準備をしていたので、これからは旅に出てインプットの時期にしたいなと思っています。コロナで流れてしまったのですが、大学4年生くらいの時にスウェーデンに留学する予定があったんですよ。その時は留学の提携先としてスウェーデンがあったからという理由で選びましたが、今思うと自分が生まれた北海道にちょっと似ているけれど距離がかなり離れた土地を選んでいるなと思っていて、そういった場所に行くと自分が生まれた場所の見え方が変わるんじゃないかと思っているので、そういうところに行ってみたいですね。
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開催概要
タイトル:「マシン・ラブ:ビデオゲーム、AIと現代アート」
会期:2025年2月13日(木)~ 6月8日(日)
会場:森美術館(東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー53階)
会期中無休
https://www.mori.art.museum/jp/exhibitions/machine_love/
撮影:田山達之
写真提供:森美術館
佐藤瞭太郎| Ryotaro Sato
1999 北海道生まれ
2021 筑波大学芸術専門学群構成専攻 卒業
2023 東京藝術大学大学院映像研究科メディア映像専攻 修了
個展
2023 「変形する無機物」トーキョーアーツアンドスペース本郷(東京)、「TRUE TO THE GAME」art space kimura ask?(東京)
2022 「Exercise For Drifting」theca / コ本や honkbooks(東京)
グループ展
2025 「マシン・ラブ:ビデオゲーム、AIと現代アート」森美術館(東京)
2023 「CAF賞2023入選作品展」 代官山ヒルサイドフォーラム(東京)、「新しい空洞 theca 2023ss」theca コ本や honkbooks(東京)、「NITO13 肩の力を抜いて腹をくくる」 アート/空家 二人(東京)
2022 「多層世界とリアリティのよりどころ」 NTT ICCインターコミュニケーション・センター(東京)、「NITO12 東京群島生活」アート/空家 二人(東京)、「NITO11 new次元への突入」/ アート/空家 二人(東京)、「第27回学生CGコンテスト オンライン・ノミネート作品展」オンライン
2021 「第26回学生CGコンテスト オンライン・ノミネート作品展」オンライン、「ANTEROOM Transmission vol.1 - 変容する社会の肖像」HOTEL ANTEROOM KYOTO(京都)
2020 「CAF賞2020入選作品展」代官山ヒルサイドフォーラム(東京)
2018 「girls」/ Cafe4(茨城)
賞歴
2023 「CAF賞2023」 入選
2022 「第27回学生CGコンテスト」 審査員賞、「ASK?映像祭コンペティション2022」 入選、「やまなしメディア芸術アワード2022」 入選
2021 「第26回学生CGコンテスト」 評価員賞
2020 「CAF賞2020」 入選
パブリックコレクション
2023 東京藝術大学大学美術館《Interchange》《All Night》《Drifter》