INTERVIEW

Artists #34 敷地理

来月5月4日(水)〜6日(金)の3日間、ロームシアター京都にて敷地理さんの公演《Hyper Ambient Club》が開催されます。敷地さんはCAF賞2020で入選され、現在は東京や京都を拠点とし振付家、ダンサーとして活動をされています。
 この度発表する敷地さんディレクションの新作公演《Hyper Ambient Club》の振付では、外部からの刺激を受けた際に身体にもたらされる、感情以前の微細な知覚反応を追求。ダンスフロアで能動と受動を行き来する観客の身体に注目し、パフォーマーの身体が、同じ空間にいる観客をどう刺激し極度に繊細な状態を誘発させることができるかを実験します。周囲の空間全体を示す言葉「ambient」、その周囲の空間によって極度に繊細になった身体の状態(hyper)に観客を招き入れることを目指しています。そして物質的な側面からユニセックスの概念を捉え直し、匿名的でニュートラルな身体の感覚を見せる振付からハイパーアンビエントなクラブ空間を立ち上げます。インタビューでは本公演のお話を中心に、敷地さんのご経歴や制作についてお話を伺いました。


--敷地さんはこのインタビューシリーズの中で初めて、コレオグラファー、パフォーマーとして紹介させていただきます。早速ですが、5月4日から3日間、ロームシアター京都で新作《Hyper Ambient Club》の公演が控えていますね。

敷地:公演に向けて今まさに準備真っ只中という感じです。クリエーションのチーム自体が大きく、僕自身が作品の直接的な内容面以外の企画制作などをしていかなくてはいけないので、本当にとても大変です(笑)。今回は「クラブパーティー」として作品を展開していくので、自分で音楽(DJ)やファッションの協力をしてくれる方を探す必要があったり、自分にとって初めての試みも多いです。「クラブパーティー」というのは、たくさんの人がクラブについてイメージする、音楽が鳴り響いてイケイケの人だけが集まるようなパーティーではなくて、もう少しずれたところにあるというか、みんなで新しいことをする・体験する集まりのようなものを作りたくて、外側のパッケージとして「パーティー」という大枠を作りました。

 ずっと携わってきていた、いわゆる「コンテンポラリーダンス」や「現代アート」に、僕は最近段々と興味が向かなくなってしまっているんです。昨年フランスのパリでレジデンシー・プログラムに参加し数ヶ月滞在していたんですが、ほとんど美術館やギャラリーにいかなかったですよね、なんか興味が出なくて(笑)。僕はアートがめっちゃ好きだけど、最近はそれよりもっと自分に近い年代の人たちがやっていることを見る方が新鮮で新しいものに触れることができて、だからアートコミュニティに限らない友達のところに行って、そこで展示の様なものを見る、音楽を聴く、パーティーに参加する、ということをしていました。そういった体験もあって、今自分が何をやりたいかとか、みんなは何が観たいだろうと考えた時に「パーティーかな」と思ったんです。

パリのレジデンシー・プログラムに参加していた滞在中の休日の様子

パリ・Centre National de la Danse(国立ダンスセンター)でのダンスフェスティバル「camping」にも参加

作品に出演するために滞在していたフランクフルトで行なった、《unisex》のパフォーマンスリサーチ風景

《unisex》2021年/60分/パフォーマンス、Centre national de la danse(パリ)、共同リサーチャー:Sehyoung Lee

敷地:コンテンポラリーダンス一点に絞ってしまうと、どうしてもニッチな鑑賞者に絞られてしまうし、助成金などサポートを受けるにも狭い業界で、自分一人で新しいことをするために拡張していくには限界があったりで、具体的なところで言えば、パフォーマンスをしたからといって必ずしもチケットバック(公演報酬)が発生するわけではなく、出演料として一律の額の受け渡しだったり、自分が得た報酬が、自分が築き上げたものに対し見合ったものかというとそれも不透明だったりします。自分は自分の作品で自立したいと考えると、新しいフィールドで違うカルチャーの要素を取り入れながら作品を生み出して、服を売ったら設定した金額分戻ってくるみたいな、ファッションや飲食、フィットネスクラブの様に経済の中で自立できたらなと思っています。

 僕は限られた層だけに自分の作品を見てもらいたいわけではありません。コンテンポラリーダンスが好きな人に見てもらえるのはもちろん嬉しいことですが、その方々だけでなく、音楽を聴きに行く人や、ファッションやデザインに興味がある人にも見にきてほしくて、何か一つだけに絞られていない攻めすぎていない層というか、領域横断的に色々なカルチャーに敏感な同年代くらいの人たちにも見てもらいたいんです。一般的に、コンテンポラリーダンスよりもビジュアルアートの方が見てもらえる機会というのは当然多いと思います。それはギャラリーや美術館など、場所そのものが進化してきたというのがあると思うんです。でも劇場というのは昔からあまり変わっていないように思えて、もう少し劇場に来る、パフォーマンスを見る、という行為が手軽なもの、来てもらいやすいものにしたくて、今回はみんながくることができる「パーティー」を劇場で展開します。もともとは男女問わず一緒に踊り始めるときの駆け引き、ノンバーバルコミュニケーションに興味があって、そこからフォーマットとして劇場の新しい形も模索していきたいと思っています。

 今話題の映画「ドライブ・マイ・カー」の冒頭のシーンにあるような、環境音がちょっと大きく聞こえるようになっていたりとか、女の人がベッドに座って、その後ろの窓に借景のような形で遠くの景色が浮き上がって入ってくるように見えるようにしているとか、そういう環境音や背景に敏感になる、感覚がセンシティブになる時間があるパーティーとかがあってもいいのかなとも思っていて、今回の公演では「感覚それ自体を見せるダンス」をテーマに、71通りの奇妙な感覚についての振付を作っています。最後には自分が最近ずっと取り込んでいる「身体の一部をフリー素材の様にして提供しハッキングし合い、身体のアカウントをシェアする」ということを行い、その中で意識の外に棄てた体の部分をリサイクルしていくということをしています。《Hyper Ambient Club》とだけ聞くとイケイケのパーティーのように思いますが、実験的で自分が今までやってきたダンスの寄せ集めでもあり、新しい形の上演を模索する、と盛り沢山な公演になる予定です。

--先ほどお話の中で少しだけあがりましたが、本公演会場所在地の京都に所縁のあるDJやスタイリングの方も制作協力されています。

敷地:そうですね、京都在住で音楽家の荒井優作さん、京都拠点で古着の販売を手がけているOASIS 2にお願いして今回の公演をサポートいただきます。荒井さんには音楽の制作とミックスをお願いしていて、僕の演出が入った形でパフォーマーによるダンスと音楽がフロア内で展開されていきます。ロームシアターから提供可能なものを全部お借りして、スモークも焚いて、照明も使って、鑑賞者はオールスタンディングで、空間自体は本当にいわゆるクラブになります。
 僕の過去作にもいくつか通底してあるんですが、僕はパフォーマンス作品の中にプロローグやエピローグを作ってしまうんですよね、なぜか(笑)。今回もプロローグやエピローグで演出も音楽も変化があるようにしているし、一番メインのところでは舞台に上がっているパフォーマーだけでなく、鑑賞者も踊れるような鑑賞者のための時間も作っています。台座のようなものにダンサーが上に立って、観客を巻き込んでダンスをします。

--前代未聞の公演になりそうですね(笑)。CAF賞2020の展覧会で公演いただいた《blooming dots》でも、パフォーマーと鑑賞者が混ぜこぜになって作品を作っていくような作品でした。その点だけでいうと、今回の新作は《blooming dots》の地続きの作品とも言えますね。
 
敷地:それは自分のテーマとして一貫してあるものです。たまに「参加型アート」みたいな形で感想をまとめられてしまうことがあるんですが、確かにそうとも言えるんですが、僕としてはそういう括り方ではないんですよね(笑)。もともとインスタレーションや建築といったものが好きで、自分自身が作品や空間に介入していくようなアウトプットの作品が面白いと感じるんです。
 それから、ダンスは特に見ることよりもやること・見せることの方が圧倒的にお金が動いています。ワークショップやダンスレッスンや発表会に参加するとか、それこそクラブに行くとかなんでもいいですが、一方それに対して、観客が劇場に行ってダンスを見るというのは、少し雰囲気が変わってくるというか。僕の場合ダンスに「見せるため」から入ってきているわけではないので、どうしても観客、「見ること」の体験の特別さを作品の中に求めてしまうんです。

--敷地さんはそもそもずっとダンスをやっていたわけではなくて、武蔵野美術大学在学中は彫刻を学ばれていたと。

敷地:そうですね。今回の《Hyper Ambient Club》で音楽をお願いしている荒井さんは、音楽作りをするときインターネットから音を拾ってきたり、サウンドスケープを取り入れた音楽も作ります。僕は彼の音楽が好きで、その感覚がなんとなくわかるというか、荒井さんと僕は同い年なんですが、この世代はデジタル世代過渡期のど真ん中にいるなと思うんです。固定電話からガラケーが出てきて、CDからMDに移行してあっという間にiPodが出てきて、iPhoneが出てきて、当たり前だけど、どんどん物質がなくなって情報化して。そういう流れにずっと乗っている世代だから、データではない形で残っているものに触れたいし興味があるんです。そういうこともあって、僕が武蔵美に在学していた当時は特に彫刻が人気だったようにも思います。

《movement research(iii)drawing lines》2017年/FRP

--彫刻はリアリティがあるということですね。
 
敷地:そう、ものがまだあるというか、その実感みたいなものが僕の中でとても強くあって。それで彫刻をやりたいと思って。それから学部の3年の時にベルリン芸術大学に留学して、その時周りの学生のレベルが高くて、みんなテーマやスタイルを確立していて、ガンガン作品を作っている。そんな中で僕は20歳ぐらいでまだ迷っていて、マジで何したらいいんだろうみたいな(笑)感じで、パフォーマンスを映像で撮るようなゼミとか彫刻のファインアートのクラスにいたのですが、なぜか一番ちゃんと出席していたのは石版画・カリグラフィーでした(笑)。自分なりに必死で模索して頑張っていたんだと思います。その留学の経験や、日本に戻った後に武蔵美の彫刻で勉強を続けていくうちに、僕にはいわゆる彫刻は作れないのかもな、と思い始めたんです。いわゆるザ・彫刻っていう等身大くらいの人体の作品も作ったし、木や石も好きだけど、そういう素材と向き合う彫刻的な作業の中でのことよりも、粘土や石膏を扱っている自分の身体に一番興味があるなと気が付きました。その頃から色々な彫刻作家の作品を見て、もしかしたら僕は自分の身体を使って彫刻を作るということの方がいいのではないか、と考え始めました。

ベルリン芸術大学在学中に制作した作品《far away very close(iii)long long life, complicated》2017年/18mmフィルム、パフォーマンス

敷地:同時進行というか、在学中はいろいろなダンスのワークショップやバレエのレッスンをたくさん受けました。ダンスをやり始めた当初は、ダンサーとして人の作品に出演してお金を稼ぐみたいなことにも憧れがあって、様々なコンテンポラリーダンスの作品やカンパニーのオーディションを受けに行ったりしていました。でも誰かの作品に出演したり、特定のダンススタイルの向上を目指すレッスンを受けていく中で、こういうスタイルが本当に合っているのか、自分の中にずっと疑問がありました。ベルリンの留学中から本格的にダンスのトレーニングを始めて、日本に帰ってきてから学部3年から大学院1年くらいまでの3年間、元Noism(ダンスカンパニー)のダンサーで青木尚哉さんという方がいるんですが、その方が主催するリサーチグループに在籍していました。僕の恩師です。週4で4~5時間トレーニングしてリサーチしたりワークショップを行うかなりハードなグループワークだったんですが、そこで毎日スティーヴ・ライヒのドラミングを聴きながら2時間メソッドをやったり、コンテンポラリーダンスやバレエの基礎だったりを勉強していったんです。自分のコンテンポラリーダンスの軸というのはそこで育ててもらった感じです。その時が一番ダンサーをやっていたかもしれません。
 僕が武蔵美の卒業年あたりで作った初期のパフォーマンス作品に、水を入れたグラスを手に持ったパフォーマーたちが、ずっと黙って空間に立っている、という作品を作りました。ずっと持っているとだんだん手がプルプルしてきて、誰かがグラスを床に落としてしまうんです。それが割れると、他のパフォーマーがその落としてしまったパフォーマーに寄り添ってバランスを取り合うみたいな、そういうパフォーマンス作品だったんですが、結構彫刻作品とも言えるものを作っていました。

《small yard(v)glasses》2018年/パフォーマンス

--先日参加されていたgallery αMでのグループ展「ミラーレス・ミラー」では、先に少し触れましたが、CAF賞で公演された《blooming dots》の新展開を見ることができました。

敷地:《blooming dots》はもう2年ほどやっています。でも2年間ずっと同じことをしているのではなく、回を重ねるごとにブラッシュアップしています。あの作品自体は大学院を出て、作家仲間でもある友人と四谷で取り壊されるビルの一室を借りて、コロナ禍でUber Eatsの配達のアルバイトをやっていた時に作った作品なんです。このコロナの状況にハマった作品でもありました。この作品の中には「ASMR」がテーマとしてあって、ナラティブになる前の状態というか、音楽でいえばその音楽を聴いて、嬉しいとか悲しいとか感情が揺さぶられるとかではなく、音そのものを指すというか、刺激・感覚それ自体といったものがもつある種のフェティシズムに着目しています。その「ASMR」を視覚化する、見えている感覚自体を扱うパフォーマンス作品です。誰かの感覚を自分に移植するとか、誰かに自分の感覚を共有するとか、そういう中にある高感覚なものを作中で扱っています。
 CAF賞で発表した時は、展示室全体をマスカーで覆った見せ方にしました。あのやり方はCAF賞と同じ年に参加した「豊岡演劇祭2020フリンジ」で最初に発表したやり方でした。その時僕が大事にしていたのは「プライベートな空間から作品に入ってくる」という点でした。あの作品の面白いところは、自分の部屋が劇場になるというか、デバイスと通信環境さえあればどこからでもあの作品を見ることができます。自室でも、カフェでも、車の中でも、Zoomを介してプライベートな空間が繋がっていくわけです。マスカーで個室のように区切っていたのは、震災の時の避難所でどのようにプライベート空間を作るか、といったものなど参考にしながら考えたものです。

CAF賞2020敷地理入選作品《blooming dots》、写真:木奥恵三

敷地:先日のミラーレス・ミラー展で出したディスプレイの作品は、奇妙な感覚を持っている映像が流れています。3つ映像がループで流れていたと思うんですが、その中の一つに今年の元旦の5:55の日時が映し出されたiPhoneのスクリーンショットがあると思います。あれは、めちゃくちゃ具合が悪い時とか、つまらない時とか、眠れない時とか、自分が苦しい状況に置かれている時にちらっと時計を見ると、「まだ始まってから1分しか経ってない!」みたいな絶望というか、そういう瞬間に僕が陥った時に見た時刻のスクリーンショットを撮るということをしていて、今年の元旦5:55はまさにその瞬間の記録でした(笑)。その遊びのような、特に深い意味はない映像を流しているんですが、僕は展示をするにあたって必ずしも全て説明できるものが置かれなきゃいけないということはないと思っていて、展示自体、もう少し自由であっても良いのかなと思っているんです。ペインティング作品の中にはそういう作品も多いのかなと思っていて、「必要に感じたから置いた」というシンプル、かつ説得力のある感覚があればそれでいいのではないかと思っています。

今年2月にgallery αMで開催されていた「地底人とミラーレス・ミラー」展より《blooming dots spring remix 2022》2022年/8分54秒/インスタレーション

敷地:加えて、ミラーレス・ミラーではウクライナの問題を織り混ぜました。この作品の流れとして、Zoom画面上に参加者が集まったら、僕がディレクションをしながらみんなでデバイスを持っていない方の左手でエクササイズをします。今回はその最後に、デバイスを持っている方の右手でエクササイズをする、ということをしました。スマホを持っている誰かの写っていない右手を画面の動きから想像してユニゾンしていくという。例えば右にスライドしていく映像が映し出されているとしたら、それをあたかも自分が右にスライドしているように、自分の手もデバイスを持ったまま右にスライドしていきます。連日報道されている、ウクライナの状況に直接参加することはできないけど、その状況に自分の身体を重ねていくようなことに挑戦しました。ある種の祈りみたいな感じです。
 パフォーマンス作品というのはセンター試験みたいな感じで、テストが始まるその瞬間まで勉強を続ければ単語力が上がるみたいな、本番が始まるまで磨き続ければ良いものになり続けるという、「まさに今」を作るので、今この世界で起きていることとか無視できないと思うんです。嘘をつくことができません。最近毎日寝る前にBBCとかでウクライナの映像を見ていて、《blooming dots》を通して別の見方ができるかもしれないと思い、ウクライナを取り上げました。

《blooming dots for Ukraina + 31 eyescream》2022年/60分/パフォーマンス


敷地:もう一つ、今回はギャラリー近くの駐車場を借りて、路上スペースでダンスするということもしました。その駐車場はいわゆる有料駐車場でお金を払うんですけど、そこに車は停めないで身体を置いてパフォーマンスしました。お金を払って、駐車はしないけどそこでパフォーマンスをするというのが面白いなと、そういう動機なんですが(笑)、それはストリートにどう介入して自由にパフォーマンスをするかということで、ロシアやウクライナの状況ともつながっていると思っています。それが今回のアップデートでしたね。

《blooming for Ukraina + 31 eyescream》2022年/60分/パフォーマンス(ゲストダンサー:境 佑梨)

--敷地さんの作品の作り方は結構興味深いと思っていて、今敷地さんがおっしゃったように、まさに今世界で起きていることや流行っていることをとても敏感に察知して取り入れ、外(作品)に開かれていくスタイルです。なんですけど、あらゆる事象や関心ごとにちょっとだけ距離があるというか、敷地さんと作品との間に独特の間合いが見えます。

敷地:それはやっぱり僕が鑑賞者スタートだからかもしれません。見る側として入ってきて、その次に作る側になりたいっていうのがあったから、見る側の体験としてどういうものを共有したいかというのが強いです。もう一つ心当たりがあるのは、病気や事故で体のコントロールが効かなくなった時、自分の体は自分のものであって自分のものではないんだなと痛感したことがあったんです。その気づきは自分がダンスやパフォーマンス作品を作るときのベースになっているように思います。そこに興味が強くあるからこそ、彫刻をやっていても作っている自分の体に興味がいってしまうし、ものごとから距離があるように感じるのも、そういうことからかもしれないです。それこそ僕の中から《blooming dots》が出てきたとき、「自分の体は自分のものであって自分のものではない」という経験に紐づけられるかもしれないと思いました。

--ちょっと角度は変わりますが、《happy ice-cream》という作品ステートメントの中で「物質的に最も近い他者を通して、外側から見ることが不可能な自分を想像する」という一文があります。この言葉は今の言葉にも繋がっていくのだろうかと、勝手に想像しています。

敷地:《happy ice-cream》はコンテクストなどは一切なくて、自分が見たいものを素直に作った作品でした。やっていることはとてもシンプルで、メインのシーンでは舞台上にパフォーマーがいて、客席側にも天井から吊り下げられているマイクに呼吸をし続けるパフォーマーがいる。普段の生活からサンプリングしてきた動きを強調して反復するというか、携帯を机に置くというちょっとした仕草とかも、強調して動くとダンスっぽい動きになりますよね。そういう動きを振り付けとして入れながら、呼吸によって壊していくということをしています。呼吸に合わせて上下し、今まで作ってきた形を外側のランダムなものによって捻っていくということをしています。

《happy ice-cream》2020年/20分、振付・演出:敷地 理、パフォーマンス:敷地 理/小松 菜々子/Masukawa Satan Fear/村川 菜乃、舞台美術サポート:佐々木 大河、音楽:Kishiro Ohno、写真: 菅原 康太(YDC2020)

敷地:僕は以前から劇場や舞台の人たちにセノグラフィ(舞台美術)のことを「大道具・小道具」と言われるのがとても嫌で、道具ではないと思っていたんです。だから、《happy ice-cream》では舞台上の美術もパフォーマーと同等に扱っていました。硬さの違うスライムを何種類か作って、物質が持っている時間を見せるというのがコンセプトで、振付としてスライムを直接パフォーマーの頭に乗せたりしていました。本物のアイスクリームも用意していて足が一本なくなったベッドの上に溶けていくアイスと植物を乗せてぐちゃぐちゃに全部混ざるみたいな、そういう出来事を作品の中でパフォーマンスとして見せるという作品でした。その時僕が作ることができる最大のダンスをやったなという作品でした。あの作品はありがたいことに「横浜ダンスコレクション2020」(*横浜赤レンガ倉庫1号館を拠点に毎年開催されている創造的ダンスの祭典。世界的な振付コンクールの日本プラットフォームのコンペティション。)で在日フランス大使館賞を受賞しました。自分でも気に入っている作品の一つで、また機会があればどこかで再演したいと思っています。

--横浜といえば、敷地さんは2020年にTPAM(*横浜を拠点とした国際舞台芸術ミーティング)にも参加されているんですよね。

敷地:そうですね、その年にはTPAMで衝撃の3作品出しました(笑)。僕の作品から《happy ice cream》と《shivering mass, loose boundary》、それからタナポン・ウィルンハグンというタイの振付家のダンサーを中心とした《退避》という作品に出演しました。海の上の船の中で行われた、とても良い公演でした。
 僕は大学院は東京藝術大学のメディア映像研究科に進学したんですが、修士一年の時、どうやって作品を作ったらいいかわからなくて、それこそ周りのみんなテーマが決まっていく中で、修士二年の夏頃に作り始めた作品が《shivering mass, loose boundary》でした。そのちょっと前は《輪郭の洪水、退屈と幸福》という動物と人間とそれ以外の何かのコラージュで作った図形楽譜でダンスをする作品を作っていました。身体の一部分でただぼーっとしているだけの動物の真似をしたり、観葉植物に水を上げて、それから下から垂れてくる茶色い水を浴びるみたいなことをしていたんです。哲学的なダンスというか、外的な反応によって生まれてしまった動作をリサイクルしていくみたいな作品でした。

《輪郭の洪水、退屈と幸福》2019年/45分/パフォーマンス、振付・演出:敷地 理、パフォーマンス:敷地 理、小松 菜々子、長岡 慧玲奈、増川 健太、村川 奈々

《shivering mass, loose boundary》2020年/60分/パフォーマンス

敷地:修士二年の夏休みにベトナムへ旅行して、動物園に行ったんです。その時、餌を食べながら振動しているガゼルの群れを見たんです。ずっと集団で不規則に痙攣していて、それを見たときに僕は奇妙だけどめっちゃ綺麗だなと思ったんです。その場面がいつまでも心に残っていました。それからリサーチしてこれは「常同運動」と呼ばれるものだったようで、動物園でのストレスから生まれる反復運動だったようです。人間にも見られるもので、貧乏ゆすりとか、自分の意識とかと全く関係なく何かを繰り返し続けてしまったり、いろいろな動作があるみたいです。そういう障害があると知り、そこで見た「振動」というムーブメントを出発点として、自分や集団をリラックスさせるための作品を作ろうと思ったんです。その振動がストレスからくるのなら、振動によってヒーリングさせる方法はないかと、リラックスできるダンス作品を作ろうと思いました。それがこの《shivering mass, loose boundary》でした。

《shivering mass, loose boundary》2020年/60分/パフォーマンス、振付・演出:敷地 理、パフォーマンス:敷地 理/小松 菜々子/長岡慧玲奈/Masukawa Satan Fear/村川 菜乃/モテギ ミユ、演出助手:Nishi Junnosuke

敷地:この作品ができたことで、その時初めて自分の作品のパーソナルなものと社会が分かりやすく結びつくテーマがようやく見つかったように思ったんです。
 大学院で専攻したメディア映像では、作品作りにおいて「いかに自分の作品が社会に接続できるか」といった点も大切にしている場所だと僕は思っています。武蔵美の彫刻では「何が好きか」みたいな、自分の好きを探して見せてほしい、というスタンスだったので、そのノリのまま大学院で作品作りをしたら「好き嫌いでしか答えられないようなものを見せないでください。」と言われて、確かに、めっちゃ一理あるなと思ったんです。個人の審美的な部分でないところで作品を自立させる必要があるんだなとわかりました。自分の外側の世界で起きている出来事について、自分の興味が重なる瞬間を逃さないというか、大学院に進んでからはそっちも大切にしていきました。昨年から今年にかけてBankARTやStillliveで発表した作品も、この《shivering mass, loose boundary》の振動のリサーチから派生しているパフォーマンスです。

《ama phantom》2021年/サイズ可変/パフォーマンスインスタレーション、BankART KAIKO(神奈川)、写真:Makoto Yamashita

昨年10月にゲーテ・インスティチュート東京で開催されたStilllve 2021より《Innocent Hula-Hoop》2021年/パフォーマンス

今年3月にゲーテ・インスティチュート東京で開催されたStilllive 2022よりパフォーマンスの様子(ゲストダンサー:境 佑梨)写真:Yulia Skogoreva

敷地:僕はダンス作品を作るのが苦手なんです。ボリス・シャルマッツというコレオグラファーの作品に《喰う》という作品があるんですが、その作品はずっとパフォーマーが舞台とされる場所で紙を食べているだけのパフォーマンスをします。食べて舐めて吐いて歌う、という、ただひたすらそれだけなんですけど、食べるという行為を様々なものに転換していき、そんな作品の作り方ができるのだなと思いました。ビデオでしか見たことないですが、、(笑)。自分はそういった一つのムーブメントをじっくり観察することを出発点にいろいろな作品を作っています。
 昨年12月にTOKASで、ダンサーでダンスメイカーでもある早川葉南⼦と発表した《dragging》では、作中全部を「引きずる」という行為のみでパフォーマンスを作りました。冒頭はフランスの民謡を5分かけて歌う、「声のdragging」から始まります。2021年の夏にタイで反政府デモの冒頭部分が起きて、デモに参加した一般市民の人も拘束されたりしていました。その中に親しい友人でタイのダンサーがいて、彼も反政府のラッパーのMVに出たことで警察に追われていたんです。そのことから「デモストレーション」にフォーカスを当てて、路上で身体を使ってデモンストレーションをして、それがパフォーマンスやダンス作品になる可能性を探る、というのがこの作品でした。権力者の銅像を引き倒してdraggingするとか、もともと僕はその「dragging」自体のムーブメント興味があって、そのリサーチを早川さんと一緒に行い共同して作った作品です。

《dragging》2022年/60分/パフォーマンス、共同制作:早川 葉南子、ゲストパフォーマー:石川 朝日、撮影:高良 真剣、画像提供:TOKAS

昨年パリ滞在時に早川葉南⼦氏と共同制作した《dragging(work-in-progress)》の様子、Centre national de la danse(パリ)、共同制作:早川 葉南⼦、ゲストダンサー:Simon Erin、写真:Shono Inoue

--どの作品も着想から展開までとても面白いです。敷地さんの次のステップが楽しみです。

敷地:次のステップとしては、やっぱり僕は海外にめちゃくちゃ行きたいですね。日本はすごい作家がたくさんいるし、日本は良くも悪くも何でもやりやすいというのがあるけど、海外はダンサーも作家のスタイルも背景も全く違うし、常に試されているという感じがすごくあって、その環境に身を投げることはとても大変だけど挑んでいきたい気持ちが強いです。
 昨年のパリのレジデンシー・プログラムに参加して思ったのは、お金貯めて一人で無計画に突っ込んでいっても、何かがすぐに返ってきたり実ったりするほど現実は甘くないということで、やっぱり何かカリキュラムやサポートがあったりプログラムに参加する機会みたいなことをうまく利用したいと思っています。その足がかりを探すために、今はあらゆる海外のレジデンシー・プログラムにアプリケーションを出して落ちまくっています。別にこのままでも、制作をしていく上においてすごい悪い状況ではないとは思うんですが、このままこういう感じでやり過ごした場合、結局コレオグラファーとしてパフォーマーとして、かなり微妙な位置で終わるのが自分でも見えています。やっぱり次のところに行くためには、今は自分が恥をかいてでも挑戦し続ける方がいいなと思っています。

 とはいえ一方で、無い物ねだりかもとも感じてもいて、「外国、例えばヨーロッパには(自分が期待する、あるいは欲する)何かがあるのではないか」と無条件に信じてしまっているようにも思います。実際、仮に昨年滞在したパリのCentre National de la Danse(国立ダンスセンター)に今から2年間滞在できるよ、と言われたとして、滞在したいかと言われると、別にしたくはなくて、結局はどこに行こうとも行った先で自分が何をするかでしかなく、海外でなく日本が拠点であっても、できることはたくさんあると思うんです。なので、海外に行きたいという気持ちはとても強くありつつ、同時進行で日本でできることも考えていて、もし助成金などがもらえたら、首都圏のどこかでスペースを借りて、パフォーマーが集まれるような実験的なスタジオを作ってみようかなと思っています。
 今僕は「パフォーマーが集まれる」と言ってしまったんですが、別にそこに音楽の人が入ってきてもいいと思うんです。音楽の人のためのギャラリーがあってもいいなと、それを考えていくことはパフォーマーのためのスペースを作ることを考えるのと一緒だなと思うし。それが何になるのかって言われると正直わからないですけど、例えば今100万円の助成金がもらえたとして、そのお金を全額自分の作品制作に使うのもいいけど、同世代のアーティストのために使った方が自分にとってもいいものが返ってくるのではないかと思うんです。それを期待してやるわけではないですが、そういう「環境を作っていく」ということは、自分がこれから何かを作っていく上で、大きな意味を持つと思うんです。個人の活動をそれぞれが磨き、良い化学反応を起こし合いながら、みんなで上にあがっていくということをしていきたいです。

開催概要

タイトル:Hyper Ambient Club
日時:2022年5月4日(水)~ 5月6日(金)
会場:ロームシアター京都 ノースホール
チケット料金:全席自由 一般:3000円/U29:2800円/U18:2500円

【出演・スタッフ】
演出・振付:敷地 理
音楽・DJ:荒井 優作
出演:宇津木 千穂、小倉 笑、黒田 健太、敷地 理、服部 天音、藤田 彩佳、保井 岳太
衣装デザイン:OASIS2
プロダクションチーム:敷地 理、小松 菜々子、島田 千晴
ドラマトゥルギー:朴 建雄
舞台監督:小林 勇陽
照明:渡辺 佳奈
グラフィックデザイン:宇佐美 奈緒
リサーチ協力:境 佑梨、大迫 健司
記録映像:Nishi Junnosuke
記録写真:田中 愛美
協力:原田 佳苑、伴 朱音

【公演詳細・チケット購入】https://rohmtheatrekyoto.jp/event/70168/

敷地 理 | Osamu SHIKICHI

1994 埼玉県生まれ
2016 Universität der Künste Berlin 交換留学
2018 武蔵野美術大学造形学部彫刻学科 卒業
2020 東京藝術大学大学院映像研究科修士課程メディア映像専攻 修了

公演
2022 「Hyper Ambient Club」ロームシアター京都(京都)、「31 eyescream」Stilllive/ゲーテ・インスティトゥート東京(東京)
2021 「magical eyes」Whenever Wherever Festival 2021 Mapping Aroundness─〈らへん〉の地図/スパイラルホール(東京)、「dragging」トーキョーアーツアンドスペース本郷(東京)、「innocent Hula-Hoop」Stilllive/ゲーテ・インスティトゥート東京(東京)、「unversed smash」東京芸術祭2021/東京芸術劇場(東京)、「juicy(wip)」横浜ダンスコレクション2021/横浜赤レンガ倉庫1号館(神奈川)
2020 「blooming dots」豊岡演劇祭2020フリンジ/奥城崎シーサイドホテル(兵庫)、「shivering mass, loose boundary」TPAM2020フリンジ/東京藝術大学元町中華街校舎B1(神奈川)、「happy ice-cream」横浜ダンスコレクション2020/横浜赤レンガ倉庫1号館(神奈川)

展示
2022 「地底人とミラーレス・ミラー」gallery αM(東京)
2021 「ama phantom」BankART KAIKO(神奈川)
2020 「CAF賞2020」代官山ヒルサイドフォーラム(東京)、「振動する星々 EXPOSITION -来るべきアート-」銀座蔦屋書店(東京)

レジデンシー・プログラム
2021 「Centre National de la Danse」(フランス・パリ)

賞歴
2020 「横浜ダンスコレクション2020」若手振付家のための在日フランス大使館賞、「CAF賞2020」入選

Contemporary Art Foundation