






「トロイの箱、パンドラの木馬」
ガムを口に含む。
味が薄くなる。
私はこれを 吐き出すことも、飲み込むことも出来ない。
銀色の包み紙を丸める。
小さな光る硬い塊になる。
部屋の中でいくつも転がり、床の上で別の像になる。
壁面には、ある名前が反復されている。
それは文字として読まれる手前で揺らぎ、やがて模様のように現れる。
同じかたちの繰り返しは、わずかな差異をうみながら、認識の境界を曖昧にする。
役割が失われたものたちは、別のかたちで意味を帯びはじめている。
私たちは与えられた意味や用途を前提に、世界を理解している。
この展示空間において、いくつかの行為や選択は明確な正解を持たない。
触れること、持ち去ること、見過ごすこと、取り込むこと。
そのいずれもが関係しあい、この場に作用している。
それでもなお、私は確かにそこに存在しているものを見つめたい。
内部に何かを孕んだ構造は、触れられるまで静止している。
指が触れることで、外に吐き出す機能が動きはじめる。
中に何があったのかは、いつも後になってからしか分からない。
☆
鈴木晴絵



鈴木晴絵Harue Suzuki
1998年 神奈川県生まれ。2024年 女子美術大学大学院美術研究科博士前期過程美術専攻版画研究領域修了(福沢一郎賞)。言葉を話すことができない兄との生活の中で得た「規律とカオス」の感覚と、版画が持つ「反復と差異」の性質を利用して制作を行う。主な展示に個展「移動する庭」(2025/福沢一郎記念館|東京)、「ART AWARD TOKYO MARUNOUCHI 2024」(2024/行幸地下ギャラリー|東京)ファイナリスト、個展「stars」(2024/マチノワART 55プロジェクト|東京)等。






本展覧会は、公益財団法人現代芸術振興財団の行う「CAF(Contemporary Art Foundation)賞」の最優秀賞の副賞として開催されます。CAF賞とは学生の方々を対象に若手アーティスト育成を目的として2014年から毎年実施しているアートアワードです。最優秀賞者には賞金100万円のほか、副賞として個展開催の機会を提供しております。
This exhibition is part of the eighth annual "CAF Award" organized by the Contemporary Art Foundation supporting young art students. The Grand Prix winner is honored with 1 million yen and a solo exhibition.